女性の自己肯定感を高める新たなムーブメント「ボディポジティブ」が欧米で広がる

「痩せたね」と言われたとき「ありがとう」と答える人は多い。しかし、「太ったね」と言われてお礼をいう人は何人いるだろうか?

体重が標準の範囲内でも、太ったと言われるとつい焦ってしまう自分がいる。悪いことは何もないはずなのに、少し蔑まれたような感覚になるのだ。

「太っている」は悪で、「痩せている」は正義。なんとなく社会の中に根付いたこの評価が今、変わろうとしている。

それが、画一的な美を求めるのではなく、ありのままの自分を愛そうという「ボディポジティブ」ムーブメントだ。

欧米における「ボディポジティブ」ムーブメントはどのように始まったか

ボディポジティブは2012年頃からインターネットを中心に欧米でじわじわと広がり始めたムーブメントを指す。その先駆けとなるのが、人気アーティストのLady Gaga(レディ・ガガ)が行った運動「A Body Revolution 2013」だ。

「自分の体のありのままを受け入れ愛そう」という趣旨のもと、Lady Gagaは自身の過食症と拒食症を告白。それに伴い変化した自分の体の写真をSNSサイトでアップした。彼女の投稿・呼び掛けに共感したファンたちも自分の体のセルフィーを投稿し、その一連の活動に多くの人々が賞賛を送った。

2015年には、プラスサイズモデルのTess Holiday(テス・ホリデー)がボディポジティブなモデル仲間9人とともにEff your beauty standards(あなたの美しさの基準なんて気にしない)というInstagramアカウントを開設。

現在、Eff your beauty standardsのフォロワーは37万人に登り、#effyourbeautystandardsというハッシュタグがつけられた投稿は約300万件を記録している。

ボディポジティブが生む差別や勘違い

欧米社会の中で、ボディポジティブムーブメントの広がりは加速している。その一方で、ボディポジティブという言葉のみが先行することで、新たな差別を生んでいる。

たとえばフランスでは、非現実的なほど細いモデル体型のイメージから、約3万5000人の女性が摂食障害に陥っているという問題を重く見て、昨年4月に痩せすぎ(BMI18以下)のファッションモデルの活動を禁止する法案が議会で可決された。

この法案にはファッション業界やモデル事務所から非難の声が殺到し、昨年5月にBMIの下限は撤廃されたものの、痩せすぎている女性に対する世間の批判的な声を浮き彫りにした。

2016年には、ナイキのキャンペーンに登場したモデル、Bella Hadid(ベラ・ハディド)について、「痩せすぎていて、スポーツブランドのモデルとしてはリアルなアスリート像を反映できていない」といった非難が寄せられた

Bella自身は、病気で断念したものの、乗馬の選手としてオリンピックを目指していたアスリートであるため、奇しくもこの批判こそが、肉体的なイメージとリアルなアスリート像の乖離を反映したものとなった。

このような“痩せすぎへの非難”は、女性の平均体型が肥満(BMI22以上)だというアメリカヨーロッパにおいて、ボディポジティブがプラスサイズ女性のためのものになりがちで、痩せすぎていたり、痩せようとしたりする女性たちが社会の中で置いてけぼりになってしまっているという現実を反映している。

一方で、2017年にアメリカのタレント、Louise Thompson(ルイーズ・トンプソン)が「Body Positive」というタイトルで執筆したボディ・メイキング本が物議を醸している。

本の中で、ボディポジティブが健康的な体型を目指すための思想であるかのように取り上げられている上、内容としては単なるダイエット本であったことから本来のボディポジティブの意味を履き違えていると指摘されたのだ。

的外れな批判やムーブメントに対する勘違いの原因はボディポジティブが単なる体型の問題として捉えられてしまうことにある。

本来のボディポジティブは、痩せすぎやダイエットを根本から否定するものではなく、健康的な肉体を目指すものでもない。ましてや誰かを批判するものでもない。自分を愛し、精神的な充足感を得るためのものだ。

ボディポジティブを取り上げる際に重要なのは、様々な体型を考慮することではなく、個人の自己肯定感にいかにフォーカスできるかだ。

安易に言葉だけを取り上げても、不信感が生まれたり、誤った意味で言葉だけが広がるのを助長してしまう。ムーブメントの根底にある女性たちの悩みを理解し、寄り添うことが求められる。

次世代を担う少女たちが自分に自信を持つために。ダヴの取り組み

女性たちが精神的に充足した“自己肯定感”を持てるような教育活動にいち早く取り組んでいる企業がある。パーソナル・ケア製品を世界中で提供するダヴだ。ダヴは少女たちが自分の容姿に自信を持って成長できるよう啓発する「ダヴ セルフエスティーム・プロジェクト」を2004年から行なっている。

各種イベントやワークショップを通じ、8歳から17歳の少女たちが自己肯定感を高められる教育プログラムを提供する活動。その背景には、多くの女性が幼いうちから外見へのコンプレックスに悩まされているという現実がある。

ダヴを提供するユニリーバの調査によると、女性は年齢が若い間から容姿に対する不安が芽生え、96%の女性は自分を美しいと言うことに抵抗をもっているという。また、60%の少女が、水泳やクラスでの発表のような日常活動を「自分の外見が好きでない」という理由であきらめているそうだ

この悩ましい現実に対し、すべての女性が美しさを不安の種とするのではなく、自信の源にすべきだという思いから、ダヴはセルフエスティーム・プロジェクトをスタートさせた

このプロジェクトの根幹を担うのが、ガールスカウトと協働で行う「大好きなわたし ~Free Being Me(フリービーイングミー)~」だ。

フリービーイングミーは、少女や保護者向けに自己肯定感を高めるためのガイドブックを無料で公開していたり、学校へ訪問してワークショップを行なったりしている。

ダヴでは、女性たちに自分のありのままの姿に自信を持ってもらうため、自分が美しいことを自分で選ぶ「美しいを選ぼう」を始め、様々なキャンペーンも打ち出している。

その中でも印象的なキャンペーンがカートゥーンネットワークの人気番組Steven Universe(スティーブン・ユニバース)とともにダヴが作成したアニメだ。

スティーブン・ユニバースはコミカルなアニメーションの中に、LGBTQや趣味趣向の違いなど、「みんな違うわたしたち」を落とし込むことで保護者たちから高い評価を受けている。今後、少女の自己肯定感を高めるための6つの短編映像とオリジナルソングを公開予定だという。

心理学者のPhilippa Diedrichs(フィリップ・ディートリッヒス)博士はこの取り組みについて、次のように言及している

「これまでの研究で、紙面の情報よりも映像の情報のほうが子供たちの間で拡散されやすいということが明らかになっています。ですので、子供たちが普段注目するアニメ動画で、自分の外見と肯定的な関係を築けるような情報を流すことは非常に効果的なのです。」

様々な方法で自己肯定感を学ぶことで、今後少女たちにとっての常識は変わっていくだろう。このように「自分の外見を愛する」ためのキャンペーンを打ち出すのはダヴだけではない。

全ての女性が親近感を持てるボディポジティブな商品や広告

近年のボディポジティブムーブメントを受け、リアルな女性の体型を考慮した商品開発や広告制作を行う企業が増えている。

2016年、ファッションドール、バービーを展開するMattel(マットル)社は、従来型のバービーに加え、カーヴィー、プチ、トールの4つの体型から選べる「fashionista(ファッショニスタ)シリーズ」を発表。

肌や瞳、髪の毛の色についても様々なバリエーションを用意することで、全ての女の子がより自分に近い外見のファッションドールを選べるようになった。

アメリカでディスカウント百貨店チェーンを展開するTarget(ターゲット)は今夏に向けた水着の広告で様々なスタイルのモデルを採用。フォトショップレスでヘルシーな広告をアピールした

少女たちにとって、「自分は美しい」ことが当たり前になれば、自然に常識を教える立場の大人たちだって変わっていく。「ボディポジティブ」なキャンペーンに取り組む企業が増えている事実が何よりの証拠だ。

ミレニアル世代の「いい商品」は「いい思想を持つ商品」

ボディポジティブは人々のコンプレックスに関わるデリケートな問題だ。だからこそ、うまく取り入れて多くの人の共感を得ることができれば、企業の強みになる。

実際、今後の消費行動の鍵を握るミレニアル世代の人々は製品購入の際、自分が共感できる人やものの情報を重視するというデータもある

プロダクトの質や価格は頭打ちになっていく中、その商品が含む思想がいいものであるかが消費の重要な判断材料となっている。

ボディポジティブが根付き、誰もが自分と向き合って自分を美しい、大好きだと思えるようになれば、「素晴らしい」と無理に自分に当てはめようとしたり、誰かの体型を「悪い」と批判することもなくなるだろう。

全ての人が自分を、ひいては他人をありのままに受け入れることができる社会を想像すると、なんだか嬉しくなってくる。ボディポジティブムーブメントを単なるムーブメントで終わらせないために、私たちは能動的に行動する必要がある。

Imege:A Body Revolution 2013, Twitter, Instagram, Target, Getty via INDEPENDENT, All Woman Project

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