人間とAI(人工知能)の接点が増えている。
私たちは日々生活する中で、スマホやスマートスピーカーなどを通してAIを利用することが多くなった。ショッピングサイトを利用すれば、収集したデータを元に、AIからのレコメンドが関連商品として表示される。
AIの発達には、多くの社会的課題の解決が期待されている。身近になったAIが、現在までにどんな貢献を社会にもたらしてきたのか。マイクロソフトの発表資料から確認してみたい。
アジアでAIが大きな成果を挙げている5つの分野
2018年6月29日、マイクロソフトは、アジア各地域において、AIが「アクセシビリティ」「農業」「気候変動」「教育」「ヘルスケア」の5分野ですでに大きな成果を挙げていると公表した。マイクロソフトは、アプリやAIサービスを通して、各分野における問題解決や生産性向上を支援している。
マイクロソフトは、まずアクセシビリティの分野におけるAIの貢献を挙げた。
アジア太平洋地域には、6億9,000万人の障がい者が存在する。AIは視覚、聴覚、認知、運動の障がいを持つ人々を支援することが可能だ。例えば、無料アプリ「Seeing AI」は視覚障がい者のために作られた。AIを活用して顔、感情、手書き文字など、多様な視覚情報を識別し、音声情報に変換する。これにより、世界に2億8,500万人いるロービジョン者へ、視覚的世界へのアクセシビリティを提供している。
農業分野では、AIやアナリティクスを活用して、収穫高を大幅に向上するソリューションが実用化された。
マイクロソフトは、インドの非営利団体のICRISATと協業し、「AI Sowing App」を開発している。AIを活用して過去30年間の気象データを分析し、作物の植え付けに最適な日を農家に助言する。2030年までに、アジアの人口は50億人以上になるとの予測もあるため、アジア地域における食糧供給についての課題解決に貢献するだろう。
21世紀最大の課題のひとつである、気候変動に対してもAIテクノロジが有効だ。マイクロソフトはAIの支援により、データセンターの運用とインフラの管理を行う。データセンターの、計算と冷却に必要とされる電力が減少し、炭素の排出量を減らしている。
また、シンガポールでは、国家の電力のおよそ3分の1が建物で使用される。政府機関JTCは、建物の監視、分析、最適化の運用を「Microsoft Cloud」に集約することで、電力消費の管理を始めた。センサーデータとAIによる分析を活用し、予測モデルによって問題を識別し、故障発生前に修正。これにより、エネルギーコストが15%削減された。
AIは教育分野でも、新たな体験を作り出している。マイクロソフトは、南インドのアーンドラ・プラデーシュ州政府と協力し、学校からドロップアウトする可能性が高い学生を予測する新しいアプリを開発した。
機械学習、AI機能、クラウドを活用し、入学時の情報、成績、性別、社会経済的特性、学校のインフラ、教師のスキルなどのデータを分析してパターンを検出する。行政と学校の担当者は、リスクが高い学生を特定し、ドロップアウトを防ぐためのプログラムやカウンセリングを早期に提供できるようになった。すでに、州内の1万校以上の学校で使用され、2017年時点で500万人以上の学生が対象となっている。
AIテクノロジは、ヘルスケア分野での利用が進んでいる。心臓病は、世界の人々の死因のおよそ3分の1を占める。マイクロソフトはインドにおいて、国内最大の医療組織のひとつであるApollo Hospitalsと協力し、AIにフォーカスしたネットワークを開発した。マイクロソフトのAI専門知識と、Apollo Hospitalsの心臓病における経験と知識を組み合わせるというパートナーシップにより、新たな機械学習モデルを開発。患者の心臓病リスクを予測し、医師の治療計画を支援する。
インドでは、3,000万人が心臓病を患い、年間およそ300万件の心臓発作が発生する。AIテクノロジが、今日の最も重大な疾病の克服を支援し、人々の生活の質を向上させることになるだろう。
マイクロソフトが、アジアにおけるAIの成果を強調するのには、理由がある。以前からマイクロソフトは、AI技術開発フロンティアの中心はアジア太平洋地域になるとの予測を行っていたからだ。
アジア太平洋地域で、AIの技術開発が進む3つの理由とは
2018年4月4日、日本マイクロソフトは、「アジア太平洋地域がAIの技術開発の中心地になる」という予測を発表している。
なぜアジア太平洋地域なのだろうか。予測を裏付けるキーワードとして挙げられているのが、「ビッグデータ」「STEM人材」「活用シナリオ」の3つだ。AIの技術開発に必要となる3つの要素が、アジア太平洋地域に多く見られる。
まずは「ビッグデータ」だが、アジアは世界で最も人口が多い地域で、かつデジタルによる繋がりが普及している。AIシステムが必要とする大量のデータの供給が期待できる。
マイクロソフトでは、マイクロソフトは、Windows、Office、LinkedIn、Bing、Cortanaなどを活用してデータを収集。人々のニーズを適切に予期し、対応できるAIツールの開発に役立てている。
AIプログラムの開発で注目されるのが、「STEM人材」だ。STEMは、科学、テクノロジー、工学、数学といった分野を指す。この分野での人材蓄積が、アジアで進むと予測される。UBSの予測では、2025年までに中国とインドのタレントプールの合計が米国を上回ことになるようだ。
マイクロソフトは、北京にMicrosoft Research Asia、インドのバンガロールにもMicrosoft Research Indiaを開設した。数百人の研究者、開発者、客員研究員が所属し、AIの世界で研究成果を定期的に達成している。
アジアでは、生まれた時からデジタル世界に慣れ親しんでいる、デジタル若年層人口が多い。そのことが、「活用シナリオ」を増やす要因となる。国連の推定では、世界の若年層人口の60%がアジア太平洋地域に存在する。その「デジタルネイティブ世代」が、自分の生活を向上するために、AIテクノロジーを積極的に活用するだろう。
また、過去にテクノロジーの導入を行ってこなかったアジアの地域では、古いインフラに依存する他国を追い越して、AIの導入を進める可能性も指摘されている。
こういった理由から、アジアではAI開発が進み、多くの成果を出しているようだ。
AIが社会にもたらす潜在的影響
AIの技術開発が進み、生活の中で人間との接点が多くなり、社会でも成果を上げ始めている。
社会へのポジティブな影響がクローズアップされる一方、AIが失業やプライバシーの侵害といったディストピア的な世界をもたらすのではないか、という声も多い。
アジア太平洋地域は、AIによって解決されるべき社会課題を多く抱えている。同時に、AI開発に必要な要素が豊富な地域でもある。AIの発達がもたらすネガティブな懸念に注意をはらいながら、AIを利用した課題解決を進めることが、これからも必要になっていくだろう。