超高齢化社会には「データドリブン介護」が必要だ。スタートアップがIoTで排泄の支援に挑戦する

自分が次いつトイレに行きたくなるか、正確に予測できるだろうか?

私たちは普段何気なく、尿意や便意に気づき、トイレへと足を踏み出す。「何を当たり前のことを」と思われるかもしれない。

しかし、「トイレに行きたいかがわからない」「トイレに行きたいと思った時に向かうのでは遅い」という人たちがいる。そして、「その人は次いつトイレに行きたくなるのか」を経験則によって熟知している人たちもいる。そう、介護の話だ。

介護者は、その人の「トイレに行きたい」という言葉だけを頼りにしているのでは足りない。経験豊かな介護者は、「この人は次にいつトイレに行くのか」を経験則によって予測し、適切なタイミングでトイレへと連れて行く。しかし、その適切なタイミングを見極めるまでにはいくつもの失敗と苦労を重ねているのも事実だ。

介護人材の不足は年々深刻化し続けている。現状のペースで人材不足が進むと、2025年には約38万人の介護人材が不足するとの報告もある。経験則に基づく職人的スキルが活躍するシーンはある一方で、人材が不足する現場で経験を積み上げていく時間を割くのはますます難しくなるだろう。

その積み上げを技術で解決しようとしているスタートアップがある。排泄予測IoTデバイス 「DFree」を提供する、トリプル・ダブリュー・ジャパンだ。

介護者・被介護者双方の負担を減らす、排泄予測デバイス DFree

排泄予測デバイス DFree は、超音波センサーによって膀胱の動きや変化のデータを取得し、排泄タイミングを予測・通知するデバイスだ。

DFreeにより、被介護者は日常的な排泄への不安から解放される。排尿後2時間程度は我慢できるとわかり、安心して家族と外出できるようになった被介護者もいるという。無論、介護者にとってもメリットがある。トイレに間に合わなかった際の後処理や、同行したものの無駄足となる時間が減り介護時間が約30%削減された例もあるそうだ。

排泄ケアの取り組みへは社会的注目も高い。2017年、ロボット技術の介護利用における重点分野に“排泄支援”が指定2018年度の介護報酬改定では、高齢者の“自立支援”を促す取り組みの一つとして、「排泄にかかる要介護状態を軽減できる」営みに対し介護報酬が加算されるようになった。

この潮流に呼応するように、トリプル・ダブリュー・ジャパンは、2018年4月介護施設向けに排泄自立をトータルで支援する新サービス「DFree 排泄自立支援プラン」の提供を開始した。

DFree 排泄自立支援プランでは、取得された膀胱のデータと周辺知識を集約し、包括的な中長期的排泄自立支援を行う。 排泄状況をアセスメントし、個々人に合った形の支援計画を作成してくれるのだ。

トリプル・ダブリュー・ジャパン広報の山本るい氏に排泄自立支援プランの概要を伺うと、以下のように説明してくれた。

「排泄自立支援プランでは、時間経過に伴う膀胱の変化や摂取水分量・排尿量のデータを蓄積。排尿パターンや、尿意を感じるタイミングとの乖離なども可視化できます。漏らしてしまうことへの心理的不安が原因で必要以上にトイレに行ってしまう方の場合、トイレに行く回数の減少が期待できるでしょう。また、データを見れば自分が何時間尿を溜められるのかが理解でき、心理的不安も軽減できると考えています」

多角的なデータを集約し、可視化・分析できる状態にすることで、これまで介護者が経験則で実現していた支援に再現性を提供する。4月のリリース以降すでに問い合わせが続いているという。

「ありがたいことに、4月のサービス開始以降、多くの販売店様・施設様よりご連絡をいただきました。現在導入に向けて準備を進めている段階で、今後が楽しみです」

ちなみに7月からは、個人向けサービス「DFree Personal」の提供を開始し、介護施設だけでなく一般へも展開していく予定だ。

経験則に基づくプロセスに、データによって再現性を持たせる

DFreeのほかにも、データを活用した介護は広がりをみせつつある。

たとえば、予測型見守りシステム「Neos+Care」は3Dセンサーを用いて介護者が転倒しそうになるシルエットを収集。画像と共に通知する。このデータを活用し、被介護者の転倒回数削減や再発防止に役立てることも可能だという。生活支援・見守りセンサー「LASHIC」も、日常生活・行動データをクラウド上で管理・蓄積し、AIで分析。認知症の発症などを予測する。

超高齢化社会において、介護は避けて通れない問題だ。介護者の経験則で行われてきたプロセスに、テクノロジーやデータによって再現性を持たせることで、負荷が減って効率的な介護が可能になる。

着実に拡大する介護市場において、テクノロジーやデータの活躍する余地はまだまだ存在する。ハード・ソフト問わず、新たなアプローチが今後増えてくることを期待したい。

img: Unsplash, DFree

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