世界のなかでスマートフォン普及率が最大の国を知っているだろうか。

NEWZOOの調査によると、スマホ普及率1位は82%のアラブ首長国連邦だ。人口954万人に対して、スマホユーザーは785万人にいるという。

2位以下は、スウェーデン74%、スイス73.5%、韓国72.9%、台湾72.2%、カナダ71.8%、米国71.5%、オランダ71%などとなっている。ちなみに日本は51.9%だ。所得水準の高い国々では、概ね50%を超えており、国民の大半にスマホが普及していることを示している。

子どもへのスマホ普及も年々高まっているといわれている。これにともない、スマホやタブレットを自由に使いこなす子どもたちを「デジタルネイティブ」と呼び、デジタル時代の有望な担い手と考える風潮が強くなっているようだ。

しかし、スマホ普及率が高い欧米ではスマホやSNS利用が子どもの脳の発達に影響を及ぼす可能性が指摘されており、スマホやSNS企業に対しスクリーンタイムを制限する機能の強化を求める声が強くなっている。

今回は、最新研究を紹介しながら、スマホやSNSが子どもの発育にどのような影響を与えるのか、加熱する議論の動向を追ってみたい。

シリコンバレーの注目キーワードは「スクリーンタイム」

アップルが毎年開催している「ワールドワイド・デベロッパーズ・カンファレンス(WWDC)」。macOSやiOSに関して重要な発表がある場合が多く、開催時には大きな注目を集めるといわれている。


「ワールドワイド・デベロッパーズ・カンファレンス」の様子(写真は2016年のもの)

2018年は6月4〜8日に開催。今回発表されたのは、iOS12における新機能「スクリーンタイム」だった。この機能は、iPhoneの利用時間を制限・管理するもの。予想外の発表で意表を突かれた人は少なくなかったようだ。

アップルがこのような発表を行った背景には、いくつか理由がある。

まず、米国ではスマホやSNSの過剰利用・中毒が問題視されており、シリコンバレーのテクノロジー企業への風当たりが強くなっていることだ。特に、ユーザーの利用時間が増えれば増えるほど利益につながるビジネスモデルを展開するフェイスブックなどのSNS企業への批判が強くなっているといわれている。米国の大手メディアもこの問題を広く報じており、多くの人々が問題を認識し始めている。

また、こうした国民レベルの意識変化を受け、スマホやSNS企業に投資をする投資家らが、懸念を払拭するためにテクノロジー企業に改善を求める声をあげ始めていることも影響しているようだ。

2018年1月、アップルの機関投資家であるジャナ・パートナーズとカリフォルニア教職員退職年金基金は同社に対する公開状で、iPhoneの過剰利用・中毒の問題が広く議論されており、何らかの対策がなされない場合、アップルの評判と株価を損なう可能性があるとして、対策を講じるように指摘。特に、子どものiPhone過剰利用を制限するために、親が管理できる機能をつけるべきと強調した。

ジャナ・パートナーズのバリー・ローゼンシュタイン氏はCNBCのインタビューで、この公開状の内容について多くの親から手紙やEメールで賛同の声が届いたと述べており、懸念が広く共有されていることがうかがえる。

スマホ・SNSが子どもに与える影響、最新の研究結果

こうした意識変化が起こっている理由の1つに、スマホやSNSの子どもへの影響に関するさまざまな研究が発表されていることが挙げられる。

ただし、研究によって対象となる子どもの年齢が異なること、またコンテンツやコンテクストを考慮した研究が不足していることから、専門家の間でも包括的な結論には至っていないことは留意すべきだろう。

以下では、注目を浴びている最新の研究を紹介していきたい。

スマホやタブレットのアプリを使って0〜2歳前後の子どもを泣き止ませたり、語学学習を試みる親は多いかもしれない。しかし、2017年米国小児科学会で発表された研究では、スクリーンタイムが増えるほど、子どもの言語発達が遅れる可能性が指摘された。

この研究は6カ月〜2歳の子どもおよそ900人を対象に実施されたもので、スクリーンタイムが30分増えるごとに、言語発達が遅れるリスクが49%高まる可能性を示唆している。

発達・行動小児科学を専門とするミシガン大学のジェニー・ラデスキー博士はタイム誌の取材でこの研究結果に言及し、米国小児科学会が設けている18カ月以下の子どもにはスマホやタブレットを触れさせるべきではないというガイドラインの正当性を示すものと指摘している。

同ガイドラインは、18カ月までを子どもの発達に影響する非常に「クリティカル」な期間であるとし、スマホやタブレットではなく、親が直接コミュニケーションを取るべきと強調しているのだ。

またラデスキー博士は、18カ月ごろまでの子どもは2次元スクリーン世界と3次元世界の関連を理解することができないという別の最新研究に言及し、スクリーン上で見たり聞いたりし、真似することができても、3次元世界では再現できないと述べている。アプリがどれほどインタラクティブであっても、子どもの表象的思考や記憶を高めることにはつながらない可能性が高いという。

スクリーンタイムは10代になっても脳に影響を与えるかもしれない。韓国の高麗大学で実施された小規模の実験で、スマホやインターネットを過剰利用している10代の脳に「化学物質の不均衡」が観察されたのだ。

この研究では、スマホ/インターネット中毒者を含む38人の10代を対象に、MRSを使って脳内物質の変化を分析。中毒者の脳内の前帯状皮質と呼ばれる部分でGABA(ガンマアミノ酪酸)レベルの増加が観察された。脳のシグナルを抑制する働きを担っているGABAは、脳を刺激するグルタミン/グルタミン酸複合体と絶妙なバランスをとり、脳の抑制と刺激を担っている。しかし、GABAの比率が高くなり、不均衡状態を生み出しているのだ。

GABA比率が高いグループには、うつ、不安、不眠の症状が見られたとも報告されている。サンプルが少なく、今後さらにデータを集める必要があるが、注目に値する発見と見る専門家は少なくないという。

こうした研究結果が報告される度に、子どものスマホやインターネット利用について心配になる親が増えるかもしれない。しかし、2児の母親でもあるラデスキー博士が自宅で実践しているように、親によるスクリーンタイム管理をしっかり行えば、影響があったとしても最小限に抑えることができるかもしれない。

ラデスキー博士はNPRの取材で、平日は「Noメディア」ルールを導入し、子どもたちが宿題に集中できる環境を整えていると語っている。週末は、アニメやアプリ、ゲームの使用を時間制限をつけて許可。またゲームやインターネットの情報にどう接するべきか自分たちで考えさせることがより重要と述べている。

デジタルネイティブへの道

スマホやSNSの子どもたちへの影響については、今後さらに多くの研究が実施される見込みで、この分野の知見も増えてくるはずだ。

ベネフィットだけでなく、リスクもしっかり考慮してテクノロジーを使いこなすのが「真のデジタルネイティブ」と呼べるのかもしれない。

文:細谷元(Livit