6,000万人超え、中国で肥満人口が爆発する理由〜子ども向け「脂肪燃焼ブートキャンプ」も

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世界の肥満人口はどれくらいなのか知っているだろうか。

世界的に有名な医学雑誌『ランセット』に寄稿された論文が推計するところでは、肥満または太り過ぎと診断される人々は21億人いるとされている。そのうち肥満は6億7,100万人という。

世界の肥満人口の半分は10カ国に集中しており、最大は8,690万人の米国。そして次に多いのが6,200万人の中国だ。

映画やテレビを通じて知る中国は、伝統的な料理を食べ、健康的なイメージがあるが、いまや欧米の食文化やファーストフードの普及、さらにライフスタイルの変化によって肥満が急増しているのだ。

子どもの肥満は特に深刻で、都市によってはこの30年で肥満児の数が17倍に増えたという研究もあり、健康問題の悪化は史上最悪レベルだと指摘する研究者もいるほどだ。

中国でいったい何が起きているのか。深刻化する肥満問題の実情をお伝えしたい。

肥満人口爆発、特に子どもの肥満問題が深刻化

冒頭で紹介した医学雑誌ランセットの研究は、米ワシントン大学の研究者らが世界188カ国30年分のデータを分析し、2014年に発表したものだ。

この研究によると、1980年世界の肥満人口(太り過ぎを含む)は8億5,700万人だったが、2013年には21億人と3倍近く増えていることが判明。肥満割合は、男性が29%から37%に、女性が30%から38%に増加しているという。

一方中国での肥満・太り過ぎ人口の割合は、20歳以上が11%から27.9%に、20歳未満では5.7%から19%に増加していることが判明。

中国の全人口が現在13億8,000万人とされているので、この比率を当てはめると、20歳以上の肥満人口が3億8,500万人、20歳以下が2億6,000万人となる。比率は、他国より低くいが、総人口が多いため、絶対数が大きくなってしまうのだ。

中国の肥満問題に関する研究は、このほかにも多数実施されており、それぞれで驚がくする数字が明らかにされている。

中国山東省の山東大学が同省で実施した学生を対象にした肥満調査では、1985年と2014年を比較すると、男子生徒の肥満率は17倍、女子生徒は11倍も増加していることが明らかになったのだ。

この調査を担当した山東大学のチャン博士がサウス・チャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)紙に語ったところによると、子どもの肥満抑制に向けた政府取り組みの恩恵が地方では受けにくいこと、また地方では男子を甘やかす習慣が強いことなどが、山東省の子どもたち、特に男子の肥満を著しく増加させた理由だと指摘している。

さらにチャン博士は、中国の伝統的な食事が高脂肪・高カロリーなものに取って代わられたこと、運動する習慣がなくなってしまったことなども影響していると述べている。

ゲームをしながら、砂糖が大量に入ったソフトドリンクを飲み、高脂肪・高カロリーなスナックをつまむ。このような不健康な習慣が身についてしまった子どもがたくさんいるようだ。

子どもたちの肥満問題の深刻化を受けて、中国国内では子ども向けの「脂肪燃焼ブートキャンプ」の人気が高まっているという興味深い報道もある。

SCMPによると、深センのJian Fei Da Renという企業は毎年7月と8月に子ども向けのブートキャンプを実施しており、その参加者数は10年前の30人から現在1,000人に増加したというのだ。

このブートキャンプでは、2カ月で体重の2%を落とすことを目標とし、毎日午前と午後それぞれ2時間ずつの運動を行う。

食事は3食提供され、間食としてフルーツを食べることができるが、それ以外の食事は禁止されている。費用は2カ月のセッションで2万8000元(約47万円)と安いものではないが、その人気はいまも高まり続けているという。

Jian Fei Da Renウェブサイトより

ファーストフードだけでない、肥満要因と指摘される意外なもの

運動不足だけでなく、食事の欧米化やファーストフードの拡大も肥満増加の一要因と見られている。

特に、子どもは栄養の知識を持っていないだけでなく、自制力が弱く、高カロリーなお菓子やファーストフードを大量に食べてしまう傾向があり、肥満になる可能性が高いためだ。

中国のいたるところで見かけるファーストフードショップ

一方、ファーストフードに限らず、現在では普通の食事や飲料水の摂取でも肥満になる可能性が高いと指摘する研究もある。

上海・復旦大学の研究者らの分析によると、抗生物質を打たれた家畜から生産された食品を摂取した子ども(8〜11歳)は、より肥満になりやすい傾向があることが明らかになったのだ。

研究者らが子どもの尿を分析したところ、80%の子どもから21種類もの抗生物質が発見され、さらにそれが肥満と強く相関していることが分かったという。抗生物質が多く発見された子どもは、そうではない子どもに比べ2〜3倍も肥満になる可能性が高くなるという。

この研究に携わった研究者の1人は別の論文で、中国が世界の抗生物質消費量の半分を占めており、そのうち52%が家畜に使用されていることを明らかにしている。その消費量は年間16万2,000トン、種類は200種類以上だ。

抗生物質の過剰利用によって汚染された河川の水から抗生物質が体内に摂取されてしまう危険性も指摘されており、肥満は環境問題と相互に関連する複雑な問題になっているようだ。この抗生物質による環境汚染問題は、政府機関である中国科学院が指摘したもの。

中国では薬局に行けば誰でも抗生物質を購入することができ、さらには家畜への抗生物質利用に対して監視する仕組みがなく、過剰利用に歯止めがかからない状況にあるようだ。

プリンストン大学の研究によると、2000〜2010年までに世界の抗生物質消費量は36%増加しているが、増加分の75%以上がBRICs諸国の消費増によるものという。

マッキンゼーによると、肥満による経済損失は世界全体で2兆ドル(約220兆円)に上る。肥満人口の絶対数が多い中国では、経済損失が非常に大きなものになることは想像に難くない。

医療費を抑制したい中国政府は今後13年で国内の平均寿命を79歳に引き上げることを目標とした「ヘルシー・チャイナ2030」計画を公表、国内の健康増進を進めようとしている。

世界各国で深刻化する肥満問題に中国がどう対応するのか、その動向に注目してみるのもよいのではないだろうか。

文:細谷元(Livit)

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