“デジタル広告”が“テレビ広告”を初めて逆転。けん引するのはオンライン動画広告

デジタル広告費が、テレビ広告費を上回る時代が訪れた。コンテンツ視聴においては、定額制の動画配信、動画投稿プラットフォームなどのネットワーク系メディアが勢いを増している。

スマホから手軽に視聴でき、定額で数多くのコンテンツにアクセスできるといったアドバンテージを活かし、世間のテレビ離れを加速させた。テレビ離れは、広告費の予測データにもはっきりと現れているようだ。

デジタル広告がテレビ広告を逆転。世界の広告費成長率予測

2018年6月14日、電通イージス・ネットワークは、「世界の広告費成長率予測」を発表 した。

電通イージス・ネットワークは、株式会社電通の海外本社で、本拠地を英国ロンドン市に置く。予測は、世界59の国と地域から収集したデータに基づいて行われている。

2018年の世界の広告費は、3.9%の成長率が見込まれ、総広告費は 6,135億ドル(約68兆円)に達すると予測される。これは過去最高となる数字だ。2019年も、3.8%の成長率が見込まれる。このことで、リーマンショックの影響を受けた2009年以来、10年連続のプラス成長となる見通しだ。

世界の総広告費増加をけん引するのは、デジタル広告費だ。今後も二桁成長が続くと予測されている。その結果、総広告費に占めるデジタル広告費のシェアは、2018年に38.4%となる。この数字は、初めてデジタル広告費が、テレビ広告費を上回ることを示すものだ。2019年にはさらに、40%を超えることが予測されている。

2018年におけるこうした逆転は、調査対象となる59の国と地域のうち、21ヶ所で実現するとみられる。

このデジタル広告費の成長で大きな存在を示すのが、オンライン動画広告だ。

増加する動画配信サービス利用者

世間のテレビ離れを加速し、デジタル広告費成長の原動力となっているのが、増加する動画配信サービス利用者だ。

動画配信サービスの代表としては、NetflixとAmazonビデオなどがある。なぜこうしたサービスの利用者が増えているのか。その理由をいくつか挙げてみたい

その一つに、動画配信サービスで価格破壊が進んでいることがある。「Netflix」「Amazonプライム・ビデオ」「Hulu」などは、月額数百円から1,000円で利用可能だ。加入のハードルが下がり、DVDレンタルと比較した場合のコストパフォーマンスも良い。

また、画質など視聴環境が向上したことも大きい。映画・アニメのファンは、かつてPCやスマホの小さな画面での視聴を敬遠していた。しかし、2014年11月に米Amazonが発売した「Fire TV Stick」により、その問題が解決されている。TVのHDMIポートに挿すことで、家庭内のPCなどと無線LANで接続。リビングのTVでフルHD画質の動画を楽しむことができるようになった。

さらに、配信コンテンツが質・量ともに充実してきたことが、利用者を増加させている。NetflixやAmazonプライム・ピデオが行う、映画・ドラマ・アニメバラエティなど、オリジナルコンテンツの配信に注目が集まっている。それを目的とした利用者も多い。現在では、映画やドラマのランキングにおいて、オリジナルの配信専用作品が名を連ねることもある。

テレビから視聴客を奪うネットメディアとしては、YouTubeの動向にも注目しなければならない。

YouTuber(ユーチューバー)が拡大する動画広告市場

「YouTube」は、ネット動画のプラットフォームとしては最大手となる。そこで、制作した動画をコンテンツとして配信するのが、「YouTuber(ユーチューバー)」だ。そこには、個人だけでなく、企業や団体なども含まれる。ビジネスの規模が拡大し、収入にも注目が集まる

YouTuberの収益源の中心は、やはり動画広告だ。インストリーム広告と呼ばれ、動画の再生開始前に流れる、テレビのスポット広告のような映像だ。YouTubeは、広告主から広告料を徴収し、再生回数に応じて、YouTuberに報酬を支払うという形態となる。

また、広告主とYouTuberが契約を結んで行うタイアップ広告もある。直接または広告会社などを介して契約し、制作費の提供を受ける。テレビ番組におけるスポンサーに近い形態だ。

こうしたYoutube広告市場は、大きな伸びが予測されている。2018年1月に、CA Young Labとデジタルインファクトが公表した「国内YouTuber市場動向調査」では、2017年の国内YouTuber市場は219億円だった。これは、2016年の100億円から約2.2倍の伸びとなる数字だ。2022年までに、579億円に達するとの予測もある。

2017年11月に、サイバーエージェントオンラインビデオ総研とデジタルインファクトが公表した「国内動画広告市場調査」では、Youtubeを含む動画コンテンツ全体の広告市場の規模が予測されている。2016年に842億円だった市場規模は、2017年に1,374億円へと1年で1.6倍に拡大した。調査では、2023年に3,485億円までの成長を見込んでいる。

動画広告市場の拡大は止まらない。

動画配信サービスが広げるデジタル広告市場

デジタル広告とテレビ広告の逆転は、当然のことのように感じられる。周りを見渡しても、NetflixやAmazonプライム・ビデオといったサブスクリプションサービスの利用が広がり、YouTuberの話題で盛り上がることも多くなっている。

そこには、価格破壊や視聴環境の向上、オリジナルコンテンツの充実など数多くの要因が見られた。動画配信サービスなどの、ネット系媒体における広告市場は、さらに成長を加速させることが予測されている。

一つの大きな転換点を通過したといえるだろう。

img: NIKKEI

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