テクノロジーの進化はCDや書籍などのありもののコンテンツを、デジタルコンテンツへと変換してきた。また、クラウドサービスの登場により、いつでも、どこからでも、複数のユーザーがさまざまなデバイスからデータへアクセスすることを可能としたため、利便性や資源削減などの観点から、モノの電子化は世界的に進み続けている。
楽天株式会社と兵庫県神戸市は、楽天グループが展開する電子図書館サービス「Rakuten OverDrive」に関する協定を締結した。これに伴い、神戸市は電子図書館サービスを初めて試験的に導入することになる。
スマホ一つで24時間いつでも電子書籍が利用が可能に
今回の導入によって、神戸市民は6月22日より全神戸市立図書館(中央図書館、地域図書館9館、北神分館)を通じて、「Rakuten OverDrive」の電子図書館サービスを利用できるようになる。「Rakuten OverDrive」は、楽天グループの米OverDrive社が提供する電子図書館サービスだ。
神戸市立図書館の図書館カード所持を前提とし、市立図書館の窓口で電子図書館専用のIDとパスワードを発行することで、手持ちのタブレットやスマートフォン、パソコンから、時間や場所を問わず電子図書コンテンツを借りることができる。
市民に提供される電子図書は、日本語の図書約1,000冊、英語の図書約500冊、青空文庫約1万冊からスタートし、2年間の試験的導入期間中に1万3,000冊程度まで増える予定だ。
神戸市では、電子図書館サービスの導入に伴い、来館しなくても読書を楽しむことができ、図書館利用者の利便性が向上することに加え、音声読み上げ機能「Read-Along」が付いている英語の図書も提供されるため、市民が英語に親しむ機会が増えることも期待されているという。
<利用方法>
- 神戸市立図書館の図書館カード(新規発行可)を所持している人に市立図書館の窓口で、電子図書館専用のIDおよびパスワードを発行。
- 電子図書館専用のIDおよびパスワードの入手後は、図書館に来館することなく24時間いつでも手持ちのスマートフォンやパソコンなどで、電子図書を利用することができる。(3冊まで2週間)
電子図書は、サービス開始時には石田衣良の小説や池上彰の解説本、飛田和緒の料理本など実用書約1,000冊を揃え、順次増やしていく予定だ。このほかインターネットでも閲覧できる青空文庫(著作権の切れた文学作品など)約1万冊が加わる。
英語図書では、ディズニーの「アナと雪の女王」などの約500冊で、その内『英語の読み上げ機能』のあるものは、小学校低学年でも楽しめる。また、中学生のリスニングなど、家庭での英語の学びにも役立つとしている。
デジタル・テクノロジーの発展で突出しているニュージーランド
電子出版制作・流通協議会が公開した調査結果によると、日本全国の公立図書館で電子書籍貸し出しサービスを導入しているのは、2016年時点でわずか3.9%だった。
一方、米国において電子図書館は広く普及しており、統計会社Statistaの統計によると、2014年時点ですでに公共図書館の電子図書提供率は9割を超えていたという。
このように、日本において電子図書館の普及はまだ初期段階にあるが、海外ではすでに電子書籍のみならず、サービスの電子化が進んでいる。その特筆すべき例として、以前AMPでも取り上げた世界の7大電子政府「D7」がある。
まず、D7の前身であるD5が2014年に、英国・ニュージーランド・エストニア・韓国・イスラエル政府の参加により発足された。これは、サービスのデジタル化を進めようというもので、相互協力、経験やアイデアの共有を通し、各々の国の情報技術セクターの発展促進を目指したもの。
その後、2018年にカナダとウルグアイが加わり、これでD7となった。2018年には、4回目となるサミットがニュージーランドの首都ウェリントンで開催された。そのサミットでは「デジタル権」に焦点が当てられ、デジタル世界においてどのようにすれば尊重されるべき基本的人権が保障されるのかを中心に活発な意見交換が行われた。
インターネットへアクセスする権利や、ネット上の個人情報の管理権をはじめ、今後AIを活用していく際に考慮すべき倫理問題にまで話は及んだという。
詳しい内容は下記の記事で確認されたい。
加速するデジタルサービスの活用
日本人は世界でみても「紙」に愛着のある民族だが、昨今では小説やマンガなどをスマホの電子情報として購読することは多くなってきている。デジタルサービスの出現により生産性の向上、コスト削減などに繋がるため、今後は、書籍を初めとしたデジタルコンテンツ化がますます加速することが予想される。
これは、「デジタルネイティブ」とも称されるミレニアル世代ならなおさらだ。日本の国公立図書館での電子書籍の貸し出しを行っているのはまだ、わずかということだが、今回の実証試験を機に、書籍のみならずデジタルサービス全体の活用が日本でも拡がることを期待する。