少子高齢化、都市部への人材流出などにより、地方の衰退は余儀なくされている。地方活性化において人口減少の解決は最優先事項の1つではあるが、外部からの資金調達も大きな課題と言えるだろう。
このような課題を受けてか、岡山県西粟倉村は、日本初の地方自治体による地方創生ICO(Initial Coin Offering)の実施を決定した。
ICO による資金調達を自治体として日本で初めて導入
西粟倉村は、岡山県の最北東端に位置し、兵庫県や鳥取県の県境に接している面積の約95%が山林の村で、2018 年5 月1 日現在、人口が1,470 人、598 世帯が暮らしている。
林業を活性化させて持続可能な地域づくりを実現するために、2008 年に「百年の森林(もり)構想」を掲げ、伐採から加工、流通までを行う林業の六次産業化や、移住起業支援事業である「ローカルベンチャースクール」などに積極的に取り組んでいる。
1980 年以降では、1990 年に人口がピークの1,939 人に到達した後、減少傾向となっているが、雇用を創出した移住政策の成果により、子どもの人数が増加しているという。
「平成の大合併」で周囲の自治体の大半が合併を受け入れる中、自立の道を選択した西粟倉村では、このように林業の六次産業化や、移住起業支援事業など、独自の地域活性化施策を積極的に取り組んできた。
今後も持続可能な地域づくりを推進していくために、規模の小さな自治体が、新たな財源を確保して先行投資による地域づくりを行っていくための手段として、トークンを発行し、仮想通貨を集めるICOによる資金調達を自治体として日本で初めて導入する。
その一環として、民間事業体で構成する一般社団法人 西粟倉村トークンエコノミー協会を設立する準備を進めている。今後は、国が定める改正資金決済法や、2018 年4 月に設立された一般社団法人日本仮想通貨交換業協会などが制定を目指す、ICOに関する自主規制ルールに沿って、運営や資金調達を進めていく予定だ。
調達した資金は、西粟倉村と連携して事業開発などを行い、持続可能な地域づくりを展開していくという。
西粟倉村は、「地方創生ICO」を先駆けて取り組むことで、その他の地方自治体においても持続可能で多様性のある地域経済を創出する手段となるように、仮想通貨を活用した地域づくりを推進していく方針だ。
先行投資による地方創生が可能に
ICOは、企業や団体がブロックチェーン上で独自トークンを発行して、その対価として投資家から仮想通貨を得る資金調達手法だ。同村では、地方自治体がICO を活用するメリットとして、税収以外の財源を投資家から集めることで、先行投資による地方創生が可能になることを挙げている。
また、ホワイトペーパーを世界中に公開することで、世界に地域の魅力を発信することができる。さらに、投資家は地方自治体が発行するトークンを保持することになるため、継続的に地方自治体に興味を持ち、トークンエコノミーの形成に参加してもらうことができるというのが今回の狙いだ。
民間事業体で構成し、設立準備を進めている一般社団法人西粟倉村トークンエコノミー協会は、西粟倉村のビジョンに沿ったホワイトペーパーの作成や全体の運営、資金調達を進めていく予定。調達した資金は、西粟倉村と連携して事業開発を行い、地域づくりを展開していくという。
西粟倉村トークンエコノミー協会が発行する予定のNishi Awakura Coin(NAC)は、NAC保有者に投票権が付与され、西粟倉村で事業を立ち上げようとするローカルベンチャーに投票することができる。
ローカルベンチャーはより魅力的な事業を考案し、NAC 保有者は地域づくりに参加することができる。ローカルベンチャーとNAC保有者による、挑戦と応援の仕組みを整備することで、仮想通貨が創る経済圏「トークンエコノミー」を循環させていく予定である。
ICO自体については、以前AMPでも取り上げている。「次世代の資金調達手段「ICO」を知るために抑えるべき5つのキーワード」をご参照願いたい。
米国、ベネズエラ、韓国の自治体ICOの取り組み
自治体によるICOの取り組みは、海外でも動きが見られる。たとえば、2018年2月にはベネズエラが「Petro」を発行した。これは、同国の石油をもとにしたもので、初日に7億3500万ドル相当を集め話題となった。
また、米国カリフォルニア州バークレー市はICOによる市債の発行を行う予定だ。同市の市議ベン・バートレット氏は「Initial Community Offering」と呼び、学校、橋梁、道路などの建設、インフラ整備などが目的で発行されるという。
バークレー市は、半導体メーカーが多数集まっている「シリコンバレー」に位置することで知られる。ここには、米国大学ランキングのベスト10に入るカリフォルニア大学バークレー校もあり、学生による起業も盛んだ。この学生による小規模なプロジェクトへの資金集めができるようにすることも、導入の狙いの一つらしい。
一方、韓国でも動きがみられる。韓国のソウル市では、独自の仮想通貨「S-Coin(エスコイン)」の発行を検討しているという。これについて、ソウル市長は仮想通貨発行計画に向けて、法を整備していく意志を表示しているという。
地方自治体のICO で攻めの投資が可能に
研究者でメディアアーティストの落合陽一氏も著書「日本再興戦略」(出版社:幻冬舎)で、地方自治体がICO を行うことで、中央集権から脱し、攻めの投資ができるようになると語っているという。
西粟倉村によれば、税収入以外の財源の確保が目的というが、今回の成否によって今後の地方創生の在り方は大きく変わるだろう。今後の展開に注目したい。
img: PR TIMES