日本は51位の「海外高度人材魅了指数」。世界ランク7位の中国・海南島では100万人の高度スキル人材獲得へ

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深刻化、世界の高度人材不足は8,000万人以上に

産業の高度化にともない、高度な知識やスキルを持つ人材への需要は高まる一方だが、供給はいまだ追いつきそうにない。

米国のコンサルティング会社コーン・フェリーが今年5月に発表したレポートでは、2030年までに世界中で8,520万人以上の高度人材不足が起こり、十分な対策が実施されない場合、8兆5,000億ドル(約900兆円)もの損失が発生する可能性を指摘している。

世界は「高度人材獲得戦争」の真っ只中にあると報じるメディアも多い。

実際、各国は高度人材を魅了するためのさまざまな施策を打ち、人材不足問題の解消を急いでいる。供給が追いつかないなか、こうした施策が打たれており、世界中で人材獲得競争は激化している。

海外の高度人材を魅了するものは、住みやすい居住環境や優遇税制、言語などが挙げられるだろう。

スイスのビジネススクールIMDが2017年11月に発表した「世界人材ランキング」を構成する指数の1つに「海外高度人材魅了指数」がある。この指数だけをとってみると興味深い状況が浮き彫りになる。調査対象となったのは世界63カ国・都市。

この指数をランク付けすると1位はスイス(総合ランクでも1位)になる。スイスを含めトップ10に名を連ねるのは、2位UAE、3位シンガポール、4位米国、5位香港、6位ルクセンブルク、7位オランダ、8位オーストラリア、9位チリ、10位アイルランドだ。

さらにアジア諸国のトップ10は以下のようになる。1位シンガポール、2位香港、3位インドネシア(世界18位)、4位マレーシア(世界23位)、5位タイ(世界24位)、6位フィリピン(世界30位)、7位中国(世界34位)、8位インド(世界36位)、9位台湾(世界44位)、10位韓国(世界48位)。ちなみに日本はアジア11位、世界ランクは51位と海外人材にとって魅力は薄いようだ。

海外高度人材魅了指数アジア1位のシンガポール

アジアでトップとなったシンガポールは温暖で住みやすい気候に加え、低い法人税や就労ビザの取得のしやすさなどが海外高度人材を魅了する要因になっていると考えられる。

いまこのシンガポールに追随するように、中国のある島が高度人材獲得競争に名乗りを上げ、注目を集めている。それが「中国のハワイ」と呼ばれる海南島だ。

世界の高度人材獲得競争に参戦、中国のハワイ・海南島

海南島は中国最南端の省、海南省の大部分を占める島だ。九州より1割程度小さく、人口は930万人。緯度はベトナム・ハノイとフィリピン・マニラの中間ほどにあり、北部が温帯、南部が熱帯気候に属している。東南アジアの気候に似ていること、またリゾートホテルが増えており、国内外から多くのバカンス客を呼び寄せている。

海南島はもともと広東省に属する島で、1980年代まで観光業も工業もない「未開の地」だったといわれている。しかし1988年に海南省として独立、同時に中国最大の経済特区に指定されたことをきっかけとして、人口流入、工業化、観光地化が進んだとされる。また、中国海軍の基地があり、軍事的にも重要な拠点になっている。

2009年には中国政府が海南島を2020年までに「国際観光ディスティネーション」にする計画を発表。それ以来、観光関連の投資が加速し、いまではマリオットやシェラトンなど、国際的なホテルが並ぶビーチリゾートとして地位を確立しつつあるのだ。特に最南端の三亜はきれいなビーチが多く「中国のハワイ」と称されている。

海南島・三亜のビーチ

2018年に入り、海南島が世界で注目されるニュースが次々と報じられている。

1つは、中国政府が海南島に自由貿易試験区と自由貿易港を創設するという4月13日に発表されたニュースだ。 これにより海外企業、多国籍企業を呼び込み、アジア地域を管轄する地域本部や国際本部を設立させたい考えだ。香港やシンガポールを意識した経済政策と思われる。

また4月末に発表された、海南島でのビザ解禁のニュースも注目を集めている。日本を含めた59カ国の国民を対象に30日間ビザなしで海南島を旅行できるというもので、5月1日からすでに実施されている。

これらの動きは、高度人材獲得の動きとも軌を一にしている。

一連のニュースが発表されてすぐの5月13日、「海南島・人材100万人獲得計画」が発表されたのだ。この計画は、海南島を自由貿易区として発展させるために、2025年までにさまざまな優遇政策を実施し、100万人の高度人材を国内外から誘致しようというもの。当局はこの大半が海外人材になると予想しているという。

優遇政策には、家賃補助、住宅購入規制の免除、子どもの就学援助などが含まれる。

サウス・チャイナ・モーニング・ポストが伝えたところでは、家賃補助に関して、40歳以下の修士号取得者には毎月2,000元(約3万4,000円)、学士号取得者には毎月1,500元(約2万5,000円)の補助が支給されるという。役職によっては最大5,000元(約8万5,000円)まで支給されるとも報じられている。また就労ビザの取得にかかる日数も2日に短縮されるという。

これらの施策を通じて、2020年までに20万人、2025年までに100万人を誘致するのが目標となる。深センや香港に比べ起業コストが安くなるため、これらの都市から海南島に移住してくる起業家が少しずつ増えているとも伝えている。

海南省の省都・海口市

中国国内では各都市が高度人材獲得に乗り出しており、海南島の取り組みは海外だけでなく国内都市間の人材獲得競争を激化させることにつながる可能性がある。

CGTNによると、北京市では海外人材獲得に向け就労ビザや長期滞在許可などの取得要件が緩和されるという。また、武漢市、成都市、南京市などでも人材獲得に向けた優遇政策が実施されるようだ。西安市では、国内の学士号取得人材に永住権を与える施策を打ったところ、3日で1万5,000件もの申し込みがあったと報じている。

国家間・国内都市間で激化の一途をたどる人材獲得競争。海南島が想定通り100万人の人材を獲得することができるのか、また世界の人材獲得競争がどのように展開していくのか、今後の動向に注目していきたい。

文:細谷元(Livit

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