新たなテクノロジーが、社会的課題の解決に利用され始めている。

日本が直面する課題の一つが、待機児童問題だ。保育事業を展開する上で、必要となる保育士の確保がむずかしい状況となっている。

解決策として挙げられるのは、自治体や教育現場の、オンライン化・ICT化だ。

まずは、保育士が不足する現状を確認したい。

保育士不足の現状

厚生労働省は、平成27年に「保育士確保プラン」を発表している。

予測では、平成29年度末時点で必要となる保育士の数は、46万3,000人だ。平成25年における、保育所に勤務する保育士の数が37万8,000人。平成29年度末までの自然増が2万人と推計され、6万9,000人の不足が指摘されている。

平成26年1月に厚生労働省が発表した、保育士の求人倍率は、全国平均で1.74倍だ。人材不足の状況が続いている。

厚生労働省の資料からは、保育士としての就業が敬遠される理由も読み取れる。給与が低い、仕事がきつい、残業が多い、休みが取りづらい、保護者とのコミュニケーションが大変、といった声が見られる。

今回登場したのは、保育士の事務作業を減らし、子どもたちと向き合う時間を増やすツールだ。

KidsDiary、自治体向け「給付金計算突合ツール」を無償提供へ

2018年6月12日、KidsDiary株式会社は、NEDO事業に参加する中で開発したツールを、全国の自治体へ無償提供することを発表した。

KidsDiary株式会社は、園長・保育士・保護者が必要とする機能を、ワンストップ型(B to B to C)で提供するサービス「KidsDiary(キッズダイアリー)」を運営する企業だ。

開発したツールは、平成29年度のNEDO事業「保育事業のIoT技術利用によるデータベース及びプラットフォームの検討」における、「内閣府、総務省、文部科学省及び厚生労働省の協力を得て開催した保育現場のICT化・自治体手続等標準化検討会プロジェクト」の実証事業、に同社が参加する中で顕在化した課題を解決する。

実証実験から浮かび上がったのは、自治体と保育園が抱える膨大な作業だ。自治体と保育園では、給付金計算の集計と突合を行っている。保育園では、年齢別や保育時間・加算率などから給付金計算行い、自治体では、提出された情報を手作業で再度確認をする、という二重作業が発生していることがわかった。

今回開発したツールは、自治体と保育園の情報をWeb上で突合して照合結果を瞬時に判定できる。操作は、ドラッグ&ドロップによる簡単なものだ。給付金計算の集計と突合の作業が、削減可能となる。

ツールは、KidsDiaryが提供するアプリを導入している保育園だけでなく、未導入でもCSVファイルにより情報を提出することで利用できる。自治体は全ての保育園の情報について、ドラッグ&ドロップで簡単に操作して突合作業を完了する。

試験運用では、保育園から、保育士の作業負担が大幅に軽減され、「子どもたちと向き合う時間が増えた」「一人一人の行動に目が届くようになった」という声が挙がった。

ツール利用による作業削減で、保育士の仕事の質の向上、待機児童問題の解決、離職率の低下への貢献が期待される。

この他にも、潜在的な保育士に働きやすい環境を提供し、不足する保育士の数をカバーしようというツールがある。

テクノロジーを用いた保育士支援「スマートシッター」

保育士不足の要因の一つに、「潜在保育士」がある。保育士資格を持っていても保育士として働かない「潜在保育士」は、全国に約70万人存在する。そういった「潜在保育士」のために、柔軟な働き方を支援するベビーシッター・マッチングサービスが、「スマートシッター」だ。

2014年8月に、グリー株式会社の子会社であるスマートシッター株式会社が、サービスをローンチ。その後、2017年2月にベビーシッターサービス最大手のポピンズグループにより、買収された。

スマートシッターは、ベビーシッターをオンラインで手配できるマッチングサービスだ。家庭と保育者のマッチング、託児依頼・予約管理、利用料の請求・支払い代行を一貫して行うことができる。

ベビーシッターの派遣依頼をしたいサービス利用者は、スマートシッターのサービス内で保育者を検索し、シッターの空き時間カレンダーや、自己紹介動画、他者からの評価などを参考に、1時間1,500円~3,000円の利用料金でベビーシッターを依頼する。

登録シッターは、稼働可能なエリアや日時を登録して、予約があれば、利用者と詳細についてやりとりした上で、ベビーシッターとして働く。登録しているシッターは、保育士・幼稚園教諭・助産師・看護師などの有資格者が9割を占める。

2017年7月からは、サービスに登録しているシッターが、時間単位で保育園に勤務できる機能の提供もスタートしている。保育園の求人募集を検索して時間や場所など条件に合う求人に応募する。これにより、登録シッターの働き方の選択肢が広がった。

すでに勤務する保育園と掛け持ちで土日の空いた時間にダブルワークすることもできるし、普段は主婦をしていて、子供が学校に行っている日中の時間のみシッターとして働く、ということもできる。ベビーシッターとして働くこともできれば、時間単位で保育園で働くことも選択肢となる。

全国約70万人の「潜在保育士」が「フリーランス保育士」として掘り起こされれば、保育士不足問題の解決につながりそうだ。

人材不足で急がれるテクノロジーの導入

KidsDiaryが開発したツールは、事務処理のオンライン化で、保育士の事務作業という負担を軽減する。「給付金計算」に使われていた保育士の時間を、本来の業務に当てることが可能だ。

スマートシッターでは、マッチングサービスにより働き方を柔軟にし、「潜在保育士」が「フリーランス保育士」として、時間単位で働けるようになる。

どちらも、保育士として稼働する人材を増やすことに貢献するだろう。

人材不足が問題となっている分野においては、電子化・ICT化・オンライン化といったテクノロジーの導入が、急がれることになりそうだ。

img: PR TIMES , スマートシッター