2020年の5G回線実用化に向け、各企業は研究や整備に力を入れている。

モバイルの高速回線を実現するだけではなく、多数接続や遅延耐性を兼ね備えているため、これからのIoTの基盤として活用されることが期待されている。

その5Gについて、株式会社ミック経済研究所は、マーケティング資料「5G 基地局のエリア展開とフロントホール&バックホール市場予測調査~測モデルを使った5G 基地局のエリア別展開とフロントホール&バックホール市場規模予測~」を2018 年5 月に発刊した。

フロントホール市場は2025年度には837億円規模に成長

無線通信システムは、2018年現在は2G/2.5Gが主流であり、これをさらに進化させて、第5世代移動通信システムとして期待されているのが「5G」だ。

現在、規格の標準化が進められている次世代の通信技術で、今後の情報通信の高速化、大容量化には欠かせない技術と目されている。それだけではなく、社会のスマート化のベースになるインフラ技術として期待されているのだ。

このレポートは、2017年に発刊したレポートの基地局数予想をベースにそのエリア別(市町村単位)の展開を予測した。そして、市場拡大が見込まれる5G向けフロントホール(親局-子局間の光ファイバ回線)とバックホール(中継回線)市場の市場構造や市場規模を明らかにするとともに、2025年までの市場規模を予測した。

通信キャリア3社、通信機器ベンダ8社への取材をベースに数字を積み上げて市場規模を推計した。

それによると、2020年から立ち上がる5GはBBUを局舎に集中させ、RRUとの間を光ファイバや無線でつなぐCRAN構成を基本とするため、RRUとBBUをつなぐフロントホールへの投資が現状(D-RAN)より大きく拡大するという。

さらに5Gの進展がもたらすトラフィックの急増によって、コアネットワークと基地局とをつなぐバックホール増強や見直しも必要となると予想されるとしている。

フロントホール市場は、C-RANの展開によって、大きく成長している。2017年度末にC-RAN率は、32%(セクタ数ベース)だが、2020年度末には38%、2025年度末には70%にまで達するとの予測だ。

これに従って、フロントホール市場は2017年度250億円から2025年度837億円規模に成長すると予測される。

現状のフロントホール市場は、固定通信事業者から借りるダークファイバとダークファイバを集約して利用効率を高める集線装置から構成される。

ところが、5Gにおけるフロントホールは、大容量・高速性を必要とするので、基本的に光ファイバの利用が前提となる。しかし、どうしても光ファイバが引けない場所にはマイクロウェーブを使用したフロントホール・ソリューションも登場するだろうと予測している。

日本では潤沢なダークファイバが存在するため、フロントホールにマイクロウェーブの利用は少ないからだ。

しかし、5Gによる大量のダークファイバ需要によって、ダークファイバの枯渇化も懸念されており、マイクロウェーブや光ファイバを集約するTWDM-PONの利用が増えると予想されるという。

バックホール市場は2025年度には800億円に達する

バックホールは、現状はイーサネットによるリング構成が主流で、BBU側に置かれるメディアコンバータと局側に設置されるL2スイッチ/ルータで構成されている。しかし、モバイル・データ・トラフィックの急増を受けて、伝送路の大容量化とIPネットワークへの柔軟な適応が求められているという。

さらには5Gのネットワーク・スライシングによってバックホールのネットワーク構成は大きな影響を受けると危惧している。

バックホールへの設備投資額は、LTE化対応の2015年度がピークであり、その後減少傾向に転じ、2017年度455億円規模にとどまる。バックホール市場は、5G投資が始まる2019年度から回復し、2025年度には800億円に達すると予測している。これに対して、バックホールが収容しなければならないデータトラフィックは2017-2025年度で7倍近く、伸びると予測している。

5G回線数は約5年で全世界で11億回線に。カギを握るのは日本などのアジア勢

グローバルの携帯電話事業者による業界団体GSMAの予測によると、2020年以降グローバルの5G回線数は約5年で全世界で11億回線に達するという。そして、全モバイル回線に占める割合は約3割に達するとしている。

また地域別では、半数以上がアジア地域で普及し、残りには欧米地域を中心に普及していくことが見込まれている。

このような背景からカウンターポイント・テクノロジー・マーケット・リサーチの調査では、世界の5Gスマートフォンの売り上げは2021年までに225%の伸びを示し、ほぼ1.1億台に達すると予測している。

そして、そのカギを握るのは、米国、韓国、中国、日本における5Gインフラの開発とスマートフォン売り上げの成長だという。

日本では、このような期待を受け、総務省は2020年の5G実現に向けて、研究開発・総合実証試験の推進、国際連携の強化、5G用周波数の確保といった取組を進めている。

2017年度からは、5Gの実現による新たな市場の創出に向けて、さまざまな利活用分野の関係者が参加する6つの実証プロジェクトを地方でも開始している。

5Gが実現するSFの世界

このような5Gの進化による先に何があるのだろうか。総務省では、2020年に実現が期待されるものとして以下のような例 を挙げている。

  1. 災害に強い社会
    災害時に、街中に多数設置された高精細な映像センサーにより、被災者に最適な避難経路情報を迅速に届けることが可能になる社会。
  2. 高度なモビリティ社会
    公共交通機関が利用しにくい地域でも、自動運転タクシーで好きな時に、好きな場所に出かけることができる社会。
  3. 先進医療が提供される社会
    離島に先進医療を提供することが可能になる社会。
  4. 超臨場感をどこでも楽しめる社会
    バーチャルリアリティ技術を用いた360°パブリックビューイングによる迫力あるスポーツ観戦が可能となる社会。

かつてはSFの世界でしかなかった世界が現実になろうとしている。そして、5G実現のためのインフラ構築は、着実に進んでいるのだ。

img; NIKKEI