近年のモバイル広告の盛り上がりには目をみはるものがある。スマートフォンの浸透が続く中、モバイル広告の効果が向上し、多くの企業がその広告予算を拡大し続けているといっても過言ではない。

しかし、そんなモバイル広告において、広告主が予期しない不正・悪用が問題となっている。

ドイツのAdjust(アジャスト)株式会社が発表した「モバイル広告の不正ガイド」によると、モバイル広告の不正の発生率は2017年と比較するとほぼ倍増しているという。

今回は、この調査をもとにモバイル広告の不正状況をみていこう。

最も打撃を受けたカテゴリはゲーム部門

この調査は2018年1月から3月にかけて34億3,000万件のアプリのインストールと3,500億件以上のイベントを測定したもので、1日当たり20,000以上のアプリから125テラバイトにのぼる膨大なデータを処理・分析したもの。

その結果、モバイル広告の不正の発生率は2017年と比較するとほぼ倍増し、全有料インストール数の7.3%がAdjustの不正防止ツールにひっかかったという。

米国の調査会社eMarketerによると、2018年のモバイル広告費は米国の場合、20%増大して750億ドルを超えるという。また、同社はモバイル広告が2018年には前年比で23.5%増加すると予測している。

2018年のモバイル広告の不正による被害は数十億ドルにのぼる可能性があり、有料インストールにおける拒否率は7.0%増大し、結果として損害は約49億ドルにのぼる可能性があるとしている。

これについて、Adjust 不正防止スペシャリストのAndreas Naumann氏は

「当然のことですが、有効な拒否数というのは、Adjustの不正防止ツールを使用している広告主のために阻止した不正行為のレベルを示しているにすぎません。つまり、予防できる不正の総数はそれよりもかなり多いのです。モバイル広告の不正の犠牲者であっても報告されていない広告主の数は間違いなくかなり多いのです」

と述べている。

また、昨年最も打撃を受けたカテゴリは、35%の不正行為が見つかったゲーム部門だった。第二位のカテゴリはEコマースで、その不正率は20%。

2018年には劇的な変化が起き、Eコマースは現在最も不正の影響を受けている分野となり、Adjustが拒否した総インストールの5分の2を占めたとしている。

さらに、Eコマースのあとには、ゲーム(30%)、トラベルアプリ(10%)が続いた。

検出するのが最も難しいSDKスプーフィングが急増

また、すべての不正行為の中で検出するのが最も難しいSDKスプーフィング(IPアドレスのなりすまし)が急激に勢いを増しているという。

Adjustの初期調査によると、SDKスプーフィングはすべての市場においてグローバルに横行しており、拒否されたすべてのインストールの37%を占めている。SDKスプーフィングによって最も大きな打撃を受けたアプリカテゴリは以下のとおり。

  • ゲーム:29%
  • Eコマース:27%
  • フード&ドリンク:17%

また、単一のキャンペーンでは、全インストールの最大80%がSDKスプーフィングに起因するものだった。これは、広告主によっては広告予算の80%を失う可能性があることを意味しているという。場合によっては、個々の広告主の損失が数千万ドルにのぼる可能性もあるとしている。

また、Adjustの不正防止ツールはAndroidにおいてiOS と比較して、約2倍のアプリインストールを発見されたそうだ。これは、Android携帯端末において不正が倍増していることを意味している。

その理由としては、Appleのモバイルデバイスと比べてAndroidデバイスの販売量が膨大ということがあげられる。

また、これ以外にも、クリックインジェクション(有益なアプリにみせかけた悪意のあるアプリをインストールさせ、そのデバイス活動をモニタリングすることによって、ユーザーの新たなアプリダウンロード・インストールを検知し、クリックを注入すること)が挙げられる。この不正のタイプはAndroid搭載端末においてのみ発生し、拒否したすべてのインストールの27%がこれに起因するものだ。クリックインジェクションで最も打撃を受けたアプリカテゴリは以下のとおり。

  • Eコマース:51%
  • ゲーム:23%
  • 旅行:8%

これについて、Adjust CEO兼共同創設者 クリスチャン・ヘンシェル氏は

「Adjustが業界全体のイニシアチブである不正防止連合(CAAF)を結成したことは、モバイルエコシステムの主要プレーヤーが一体となって不正に立ち向かう第一歩となりました。しかし、モバイル広告での広範囲に及ぶ不正行為が一部で無視されている現状は、2018年の業界にとって最大の弱点であり、最大の課題でもあります。Adjustの次のステップは、使用されているさまざまな不正行ためのタイプについて市場の教育を行うことです。すべてのプレーヤーは防衛を強化し、不正と戦うための効果的な対策を講じることが必要です。」

と述べている。

検出するのが最も難しいSDKスプーフィングが急増

クリックスパムは、クリックを不正行為者がユーザーに代わって実行することで発生する。これにより、不正行為者は不正として検出されることなくしてオーガニックのトラフィックを捉え、記録し、ユーザーのアトリビューションを盗むことができるのだ。

これにより、打撃を受けたカテゴリは以下のとおり。

  • Eコマース:38%
  • ゲーム:29%
  • フード&ドリンク:7%

また、フェイクインストールは、不正な広告に基づいてインストールをトリガーする目的でのみ存在する偽造ユーザーだ。通常、クリック後に発生する、即時ドロップオフを伴う高レベルのインストールにより検出できる。

ユーザー、デバイス、広告エンゲージメントは虚偽であり、通常はデータセンターやVPNから発生するという。17日間にわたり4億回を超えるインストールが行われたトラフィックフローのサンプルの場合、インストールを詐称する不正行為者に170万ドルが支払われたとAdjustは推定している。

これにより、打撃を受けたカテゴリは以下のとおり。

  • ゲーム:42%
  • Eコマース:14%
  • エンターテインメント:14%

2018年は不正が劇的に増加した年に

世の中、「光」あるところには必ず「闇」もある。モバイル広告がその地位を固めたと思われる今、不正も一気に増えてきている。2018年はその不正が劇的に増加した年となったようだ。

この状況に対応するため、Adjustは不正防止連合(CAAF)を立ち上げた。そして、多くの企業やパートナーがこれに参画しているという。Adjustは、Facebook、Twitter、Google、LINE、Snap、Navere、WeChatの正式マーケティングパートナーになっており、世界1,200以上の主要広告ネットワークパートナーとも提携している。

さらに、楽天、リクルート、グリー、ディー・エヌ・エー、メルカリなど日本400社以上のトップパブリッシャーを始め、マイクロソフト、Zynga, Spotifyといったグローバルブランドを含む22,000以上のアプリで、Adjustのソリューションが導入されているという。

多くのトップ企業とのネットワークを保持している同社の不正対策が今後のモバイル広告の浄化に寄与することを期待したい。

img:PR TIMES