アジア太平洋では今後3年間で85%の雇用がAIにより大変化。生産性向上の一方で雇用減少の懸念も

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私たちが生活している中で、AIによってもたらされている恩恵は年々増加しており、スマートスピーカーの普及に伴って、そのスピードは加速するかもしれない局面にいる。

それを裏付けるように、世界各国ではAIへの研究費として多額の予算を配分していることも珍しくなく、ドバイでは人工知能による政府統治のための一貫した世界的戦略を策定することを目指していたりもする。

AI市場の盛り上がりをうけ、日本マイクロソフト株式会社は、AIの方向性と、倫理など社会的な課題に対する見解を述べた書籍「Future Computed:人工知能とその社会における役割」日本語版を、同社サイトから無料で提供開始した。また、これにあわせて、2018年2月に、アジア太平洋の15カ国・地域、1,560人のビジネスリーダーに対して実施した調査から、今後3年間で85%の雇用がAIなどにより変化するとの結果を公開した。今回はこの調査結果をご紹介する。

多大な恩恵がある一方で雇用の減少にもつながるAI

この調査によると、AIの普及は、企業の生産性向上とイノベーションの加速を促す。そして、社会における最も難しく長期的な課題である、疾病、飢饉、気候変動、自然災害の解決につながることが期待されているとしている。

実際、既にアジア太平洋地域の多くの組織において、AIは明確な経済的恩恵をもたらしているという。

たとえば、グローバルな海運業大手OOCLは、AIを自社のビジネスに適用することで年間1,000万ドルのコスト削減を実現している。また、インドのApollo Hospitalsは患者における心臓病の発生の予測のためにAIを活用している。

しかし、AIがもたらす恩恵はともかく、その破壊的影響、特に雇用の減少に対する影響についても考慮しなければならないと提言している。実際、アジア太平洋地域のCEOや政府機関のリーダーとの議論で常に挙げられる重要議題はAIのワークフォースに対する影響だという。

アジア太平洋地域の雇用の85%が変革の影響を受けるAI

以下で、マイクロソフト社の考察を紹介する。まず大局的な視点から見ると、どのような産業の革新においても大規模な破壊的変化が課題になるという。

これまでの250年間にわたるテクノロジーの変化から明らかになったことは、テクノロジーが雇用の創出、減少、進化に大きな影響を与えるということだ。

たとえば、かつてオフィスにはたくさんのタイピストがいることが通常だった。しかし、パーソナルコンピューティングの普及により、今日のオフィスではタイピストの必要はない。AIの発展も同様に、雇用の形を変えていくだろうと推測している。

また、マイクロソフトは大手テクノロジーアドバイザリー企業であるIDCの協力により、アジア太平洋地域におけるデジタルトランスフォーメーションの影響を評価したという。

「Unlocking the Economic Impact of Digital Transformation in Asia Pacific (アジア太平洋地域のデジタルトランスフォーメーションの経済的影響を最大化する)」という報告書では、アジア太平洋地域の15の経済圏の1,560人のビジネスとITのリーダーへの調査を行った。

この報告書では、今後3年間にアジア太平洋地域の雇用の85%が変革の影響を受けると分析している。

調査結果をさらに詳しく見ていくと、回答者は雇用の50%以上が新たなポジションに再展開されるか、デジタルトランスフォーメーションに向けて再教育されることになると回答しているという。

この調査で興味深い点は、雇用の26%がデジタルトランスフォーメーションによって新たに創出されることで、アウトソースまたは自動化されるであろう27%の雇用が相殺されているということだ。これにより、ワークフォースに対する全体的影響は概ね中立的だということがわかる。

また、企業の組織作り、人々の求職の方法、求められるスキルが劇的に変化していくという明らかな兆候があるとし、今後10年間にこの変化はさらに加速していくと推測している。

AIによる仕事の特性の変化が続く中で、人々が将来の職業に向けた準備を行い、企業が成功のために必要な人材にアクセスできるようにするためにはどうしたらいいのだろうか。

それについては、教育、スキル、研修について再考していく必要があるという。そして、従来型の雇用モデルが変化する中で、新しい働き方に備えて法的枠組みを最新化し、労働者への適切な保護と社会的セーフティネットを提供していく必要があると提言している。

AIがもたらす仕事と雇用への3つの影響

今回の「人工知能とその社会における役割」AIとその仕事と雇用への影響について以下の3つの結論を提言している。

まず、AIの競争で最も有利になる組織や国家は初期導入者だとしている。その理由は、AIは知性が求められるあらゆる領域で有用であり、ほぼすべての人間の営みにおいて生産性を向上し、経済成長をもたらすからだ。

第二に、AIが多くの点で日々の生活を向上し、重大な社会的問題の解決を支援してくれると考えられる。しかし、一方でそれがもたらす課題を無条件で受け入れてはならないとしている。

AIの展開と同様に重要なのは、強力な倫理基準、法制度の改定、新スキルの教育、さらには労働市場の改革などによって、社会とワークフォースを差し迫る変化に対して準備させることだ。この新たなテクノロジーを最大限に活用するためには、これらの要素すべてが必要という。

第三に、AIの恩恵を最大化し、悪影響を最小化するためには、テクノロジー企業、そして官民の組織の共同責任による対応が必要だとしている。これについて、マイクロソフトは、AIの民主化が必要と考えているという。

コンピュータービジョン、音声認識、推論といったマイクロソフトが提供するAIの構成要素があらゆる人に提供され、独自のAIソリューションを構築可能にすべきであるという。

AIは少数の企業のみによってコントロールされるべきではない。その未来は、AIが社会と経済にもたらす恩恵についてのビジョンや課題への対応方法を理解している人によって構築されるべきだと主張する。

また、AIの未来は明るくなることも、暗くなることもあり得えるとしている。AIによる悪影響が常に起こると想定し、それに対応していくことを当然ととらえるべきだとも語っている。

そして、急速に変化するAIに対応していくためには、労働者、企業、政府などあらゆる利害関係者が、より多くの時間をかけて話し合い、ともに新たな知識とスキルを学んでいく必要があると提言する。

HRTech分野への導入進むAI

Artificial Intelligence digital concept

ここで、AIは実際私たちの生活にどのような形で入り込んでいるのか見てみよう。最近のAI導入の事例で注目されるのは、HR Tech(Human Resources×Tech)サービスへの導入だ。

HR Techとは、企業の人材育成や採用活動、人事評価などの人事業務をテクノロジーの活用によって変える動きのことをいう。

「マシンアセスメント・フォー・コンピテンシー・デベロップメント」は、株式会社ヒトラボジェイピーが提供している、日本初のAIによる社員の人事評価・能力評価システムサービスだ。

マシンアセスメントでは社員に対して、業務遂行能力の高いハイパフォーマー社員が有する行動特性・思考特性を見極めながら、社員の育成やキャリア開発、評価や選抜に活用する“コンピテンシー・アセスメント”を、ビジネス目標や経営戦略に合わせて、効率的かつ戦略的に行うことが可能であるという。

これまで社員のコンピテンシー・アセスメントの実施にあたって、人事コンサルタントなどの専門家に頼っていた企業では「マシンアセスメント」によって時間や費用を大幅に削減できる。

同社によると、たとえば専門家による従来型の方法で、対象者一人にインタビュー型アセスメントを行う場合、大手人事コンサルティング会社で、実施からレポート納品まで約10日、費用は30~40万円程度かかるという。

しかし、マシンアセスメントでは、まず対象者に自身の成果についてテキストに書き起こしてもらい、そのテキストをマシンアセスメントで分析する方法をとっている。

同社によると、この方法によってテキストを受け取ってから納品まで最速で1日、費用は4万円でのアセスメントサービスの提供が可能であるという。このように社員のコンピテンシーの把握、リーダー人材の発掘、選抜、人材育成のモニタリングが短い時間と安価な費用で可能となる。

現在、提供しているマシンアセスメント・フォー・コンピテンシー・デベロップメントは、自然言語処理技術をメインとした「バージョン1」だが、随時、アップデートを進め、バージョン2では対話型システムを提供していく予定だ。

ほかにもリクルート傘下のIndeedがPrehireを買収することで獲得した、採用プロセスにおけるスキル評価をオンラインで行える「Interviewed」がある。

Prehireは、2015年にサンフランシスコで設立されたスタートアップだ。2015年に200万ドル(約2億1,800万円)のシードラウンド調達を実施しており、IndeedもPrehireの初期フェーズで投資を行っている。

Prehireが提供する採用アセスメントサービス「Interviewed」は、プログラミングテスト、職業技能テスト、語学スキル、パーソナリティなどをオンラインで評価できるツールだ。

ジョブスキルテストには、教育、保険、製造業などの産業ごとの分類と、会計、営業、翻訳などの職業の種別ごとの分類によって、異なるテストが用意されている。職種ごとに測るべきスキルの項目が細かくカスタマイズされており、テストの中には実務に近いシミュレーションを通じてスキルを計測するものもある。

同サービスを活用すれば、求人への応募時に実務体験のシミュレーションができるため、求職者の応募職種への正しい理解を促すことができる。求人企業はシミュレーションを通じて、求職者の資格や能力などを知ることで、マッチングの精度が高まることが見込まれる。

個人がAIを学ぶことが必須の時代へ

マイクロソフトではAIの活用が、我々の生活を豊かにする一方で、雇用の減少などの負の側面からも目を背けてはならないと警鐘をならしている。

そのためには、我々自身がAIについての知識とスキルを学んでいかなければならない。明るい未来のためには、「明」と「暗」の両方からAIを学んでいく必要があるのだ。

img: @Press

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