あなたは自分のパーソナルデータについて、どのような意識を持っているだろうか。

データの収集、分析が容易になった現代。データの活用は、企業にとって生き残るための重要なファクターとなっている。中でも、パーソナルデータと呼ばれる個人情報は、企業がユーザーの意識を把握するための重要なデータとして大きな価値をもつ。

パーソナルデータは、個人の生活と密接にかかわってくるため、厳重な取り扱いが求められる。様々なデバイスを通して、インターネット上で収集され、安全性など見えにくい部分が多いかもしれない。

グローバルでIT企業がパーソナルデータの積極的な利用を進めるなか、日本では「安心・安全」を確保したパーソナルデータ活用システムについての調査研究が行われた。

「情報信託機能」の社会実装に向けた調査研究

株式会社JTB(以下、JTB)と大日本印刷株式会社は、2017年12月~2018年2月に、「京都まちぐるみコンシェルジュサービス実証」を実施した。これは、総務省の「情報信託機能の社会実装に向けた調査研究」の一環として行われている。

情報信託機能により、パーソナルデータを安全・安心な環境下で、流通・利活用するための、基礎となるものだ。

個人はパーソナルデータストア(PDS)を利用し、自らの意思で自分のデータを管理する。情報信託機能は、個人の指示や、事前に指定した条件に基づいて、妥当性を判断し、第三者にデータを提供する。

「京都まちぐるみコンシェルジュサービス実証」では、ハイブリッド型総合書店hontoが購入履歴のデータホルダーとなる。個人参加者は、パーソナルデータストアに情報を登録する。JTBが情報信託機能となり、個人の指示通りに、第三者となる企業にデータを提供。サービス事業者である、株式会社リーフ・パブリケーションズはデータ提供を受け、パーソナルデータを活かした、旅行アイディアを提案する。同じく、サービス事業者である彌榮自動車は、最適な観光コースやその中の最適な区間でのタクシー利用を提案する、というシステムだ。

調査研究では、参加した個人に対して、意識調査を行っている。

パーソナルデータの利活用の許容度は、日常生活と比べて、観光分野で高い。自分の現状や過去の行動に合った“おすすめ観光情報”を受け取るためにパーソナルデータを提供する許容度は、日常生活時と比べ43.9%も高い結果となった。観光は高度なパーソナルデータの流通・利活用に適した分野といえるだろう。

パーソナルデータストア(PDS)を利用したいという人の80%は、情報信託機能も利用したいと考えている。パーソナルデータが意図しない形で流通しないよう管理する機能や、流通したパーソナルデータを追跡できるトレーサビリティ機能についても、80%以上が重要だと答えた。パーソナルデータストア(PDS)、情報信託機能に対しては、期待と共に、安全・安心の担保について関心が高い。

パーソナルデータの提供によって、どんな利便性があるのかを提示すると、人々の情報信託機能の利用意向が高くなる。個人情報を利用する見返りに、ポイントが付与されるサービスでは、利便性を提示しない場合と比べて47.5%高い、84.1%の人々が利用したいと回答している。情報セキュリティやプライバシーの確保に関する説明に加え、データ利活用のイメージや自社メリットの理解を高めていくことが重要だ。

企業にとって、パーソナルデータが有用な「資産」となるのはもちろんだ。だがパーソナルデータは、個人にとっても、メリットやポイントを受け取るための「資産」だと考えることもできる。ミレニアル・Z世代でその意識が高いようだ。

個人が保有する「資産」としてのパーソナルデータ

アナリティクス専門のSAS社は、ミレニアル・Z世代の、パーソナルデータについての認識について、調査している。調査対象は、英国在住の16~34歳のミレニアル・Z世代2,000人だ。

調査対象の69%が、「パーソナルデータを自分の生活を向上させるために活用するもの」との認識を示した。リターンやベネフィットを考えずに無償でデータを提供してもよいと考えているのは12%のみだ。パーソナルデータを企業などに提供はするが、そこにはリターンやベネフィットが伴わなくてはならない、という意識が強い。

パーソナルデータ共有への態度では、ヘルスケアの分野が67%がポジティブと高かった。医療技術の向上に貢献し、そのメリットを将来自分が受ける可能性が高いためだ。2番目は金融で57%。運転データから保険料を計算したりするサービスなど、ハイパーパーソナライズ・サービスへの関心が高い。ソーシャルメディアに対しては、信頼などの問題で28%という低い数字にとどまった。

調査からは、ミレニアル・Z世代が、パーソナルデータに対するコントロールやオーナーシップを持ち、能動的に活用してメリットを生み出そうとする状況が読み取れる。

パーソナルデータを資産と捉える人々に向けた、サービスやプロダクトも数多く登場している。

英国拠点のスタートアップ Ctrlio は、個人のモバイルやブロードバンドの利用データによって、パーソナルデータのメリットを提供する。英国の携帯電話ユーザーの多くが自分のデータ利用量に合った通信プランを選べておらず、年間およそ44億ポンド(約6,500億円)を無駄にしている。ユーザーは、プラットフォームとパーソナルデータを活用することで、通信プランを最適化し、通信コストを下げることが可能だ。

米国のスタートアップ Datacoup は、パーソナルデータ・マーケットプレイスを提供する。ユーザーは、ソーシャルメディア情報やクレジットカードの利用データを共有すると、その対価として現金を受け取ることができる。ユーザーが共有したデータは、個人が特定できるデータを排除し、同社の匿名データプールに組み込まれる。バイヤーとなる企業は、この匿名データプールにアクセスし、消費者データとして活用するという仕組みだ。

ファッションブランドのブルガリは、BVLGARI VAULTというデジタルアセット金庫アプリをローンチしている。サイバーセキュリティ会社 WISekey と共同で開発した。パスワード、銀行データ、デジタルフォト、テキストメッセージといったパーソナルデータをセキュアに保管するというニーズに応える。情報は暗号化され、スイスアルプスの高度セキュリティ施設内のサーバーに保管。アプリをアンロックするには、タッチID、顔認識、パスワード、ドットパターンを組み合わせた方法が必要となる。

自分が生み出す「パーソナルデータ」に無関心ではいられない

IoTやAIといったテクノロジーの発達は、パーソナルデータの価値を高めた。個人は毎日インターネットに繋がった社会の中で生活し、日々パーソナルデータを生み出しており、企業はパーソナルデータを収集・分析し、新たな価値を生み出す。

パーソナルデータは、価値を生み出す資産としての意味合いを強めているようで、ミレニアル・Z世代ではその意識がなおさら高く、パーソナルデータの提供に対してメリットの享受を条件とする傾向が強い。いったん提供したパーソナルデータに関しても、追跡可能なトレーサビリティーを求めるなど、安全性やコントロールを重視する。

これからは自分が生み出すパーソナルデータについて、より強い関心を持って生活する必要がありそうだ。

img: PR TIMES , Datacoup