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平べったい歯磨き粉チューブを必死で絞り、帰宅途中に薬局に寄るのを忘れた自分を呪う。一人暮らしを初めて数年が経つが、ムダ毛を剃るシェイバーの替え刃やコンタクト液、化粧水など、つい買い忘れてしまう商品がある。
最近ではこうした消費財の“サブスク化”も進んでいるという。海外では電動歯ブラシやオムツ、シェイバーを定額で届けるサービスが続々登場し、2016年にはユニリーバが髭剃りセットの定期購入サービス『Dollar Shave Club』を10億ドルで買収。
消費財業界のサブスクリプションへのシフトを印象づけた出来事だった。
生理用品のサブスクリプションサービス『Cora』
定期的に購入される消費財とサブスクリプションビジネスは相性が良い。女性にとって必要な生理用品の「タンポン」のサブスクリプションサービス『Cora』も、その顕著な例だ。
2015年にローンチしたCoraは、月額8〜16ドルでタンポンの入ったボックスを届けるサービス。料金は生理の期間(3日以下、4〜6日、7日以上)や、出血量(ライト、ミディアム、ヘビー)によって異なる。
タンポンは装着用のアプリケーター付きとアプリケーターなしの2種類から選ぶことができ、ライナーや体拭きシートなどのオプションも用意されている。タンポン本体の原材料にはフェアトレードで取引したオーガニックコットンのみを使用しているという。
生理に対する意識変化に通じたエンパワーメント
Coraのタンポンのもう一つの特徴は、“女性らしい”ピンクを避け、黒と白を基調としたシンプルなデザインだ。生理に対する恥の意識や、それによって教育の機会が失われている現状を変え、女性をエンパワーメントしたいという同社の想いが表現されているという。
その思想はビジネスモデルにも強く反映されている。同社はケニアやインドの女性支援団体と連携し、ボックスが一つ購入される度に金銭的支援や生理用品の寄付を行なってきた。Coraのウェブサイトでは生理用品が買えないために外出できず、教育機会を逃している女性の現状が詳しく説明されている。
Coraは米国内の課題解決にも積極的だ。女性支援のNPOと連携し、DVや性被害を経験した女性や、低所得者層の女性を積極的に雇用。職業トレーニングプログラムも提供している。
米国のいくつかの州では、食料品や薬品などの“生活必需品”が免税対象にも関わらず、生理用品は免税対象に含まれていない。Coraはこの現状に反対し、ウェブサイトで購入された商品の消費税を、ユーザーの代わりに負担してきた。
女性をエンパワーする“フェムテック”の隆盛
Coraのように女性の健康課題にフォーカスしたテクノロジー活用やサービスは「Femtech(フェムテック)」と呼ばれ、近年注目を集めている。戦略コンサルティング会社の「Frost & Sullivan」は、2025年までにフェムテックは500億ドル(およそ5兆円)の市場になるという予測を発表した。
フェムテックの成長の背景には、結婚や出産、キャリアを主体的に選択しようとする意識の高まりがある。女性の生き方が多様化する中、「ピンク色のかわいいパッケージにしておけば良い」という画一的な考え方では、女性が健康面で抱えるニーズは捉えきれない。テクノロジーを駆使し、便利で多様な選択肢を提供するサービスやプロダクトに支持が集まる時代なのだ。
月経トラッキングアプリの『Clue』や『Maya』、挿入可能なサイズのディスク型の生理用品を開発する『Flex Company』などのスタートアップは、女性の健康課題に対し、より安価で手軽なソリューションを提供している。
“スケーラブルな方法”で社会に変化をもたらす
Coraは2017年11月に600万ドル(およそ6.8億円)の資金調達に成功するなど、フェムテック領域で事業を伸ばしている。しかし設立者であるMolly Hayward氏のモチベーションは、ビジネス的な成功よりも社会課題の解決にある。
Hayward氏はサブスクリプションビジネスも、ミッションを形にするための「スケーラブルな手段」として位置づけてきたという。
サブスクリプションビジネスでは継続的な収益を得られるだけでなく、既存顧客と接点を持ち続けることができる。プロダクトのファンコミュニティを育成できれば、取り組む社会課題への関心を広げることにもつながるだろう。ソーシャルベンチャーとの親和性は高そうだ。
Coraはフェムテックとサブスクリプションという二つの時流に乗り、順調に成長を遂げてきた。彼女たちのあり方は、ソーシャルベンチャーがスケーラブルなビジネスを展開する上でも有益なヒントを与えてくれるはずだ。
img:Cora