ブロックチェーン技術と聞いて何を思い浮かべるだろうか?多くの人は仮想通貨と答えるかもしれないが、実はブロックチェーン技術は非常に汎用性が高いことで知られ、様々な分野で取り入れられている。
たとえば、株式会社インサイト、ソフトバンク・テクノロジー株式会社(SBT)、シビラ株式会社の3社は共同で、ブロックチェーン技術と決済データを活用した新しい信用情報プラットフォームの開発を行っている。
これは、インサイトの家賃決済代行のノウハウ、電気料金などの生活決済データと不動産ビックデータとブロックチェーン技術を組み合わせ、多角的な情報を集約し管理する次世代型の信用情報プラットフォームを構築するというものだ。
また、フィンランド移民局は、地元のスタートアップMONIが開発したプリペイド・マスターカードを支給している。このプリペイドカードは、ブロックチェーン技術によりデータが記録されることから、強力な身分証明カードとして機能するという。
さらに、国連は2017年9月末にブロックチェーンを通じて「持続可能な開発目標」に関わる取り組みを促進するためのグループ「ブロックチェーン・コミッション」を立ち上げた。「持続可能な開発目標」とは2015年に国連総会で採択されたもので、持続可能な開発を実現するための17のグローバル目標と169のターゲットを掲げている。
このように、様々な分野で取り入れられているブロックチェーン技術だが、今回は英国のグローバル人材紹介会社ヘイズが「人事および採用の分野でブロックチェーンを利用できる6つの可能性」と題して発表した、プロックチェーンが人事および採用にどのような影響を及ぼすと考えるかについて、複数名の人事専門家から話を聞いた回答結果をご紹介する。
ブロックチェーンの早期採用者の51%がアイデンティティの確認に利用
この調査は、同社が発行しているヘイズジャーナル最新号の作成過程の一環として行われたもの。
タイトルにある「6つの可能性」とは、資格の確認、照会、有力候補の特定、労働契約の検証、社員のライフサイクル、給与についてである。
まず、資格の確認については、採用のプロセスで、個人の身元、資格、証明書、経験の確認にブロックチェーンを利用することができる。CompTIAの調査によれば、ブロックチェーンの早期採用者の51%が、現在、デジタルアイデンティティの確認にブロックチェーンを利用しているとしている。
次に照会については、ブロックチェーンによって、従来の照会過程が不要になる可能性がある。ヘイズのグループ・デジタル・エンゲージメント・ディレクターを務めるジャッキー・カーター氏はこう話したとしている。
「誰かが学位を取得したら、学位証明書をブロックチェーンに入れるだけでよく、二度と確認の必要はなくなります」
有力候補の特定については、ブロックチェーンを利用すれば、人事および採用の担当者は有力候補をより正確に識別できるほか、各人に最も適した具体的な役割を確認することもできるという。
PwCのHRコンサルティング・ビジネス・パートナー、ラジ・モディ氏は、
「今のところ、人材を組織内で必要とされる場所に適切に配置する作業は非常に複雑で、それを実証された方法で行う手順はさらに複雑です。配置のスピードが競争的優位性を実現する唯一の要素となる可能性があるため、時間的な余裕はないかもしれません。そのような場合にこそ、従業員の実力を本当に理解するためにブロックチェーンを利用するという方法が、その真価を発揮します。」
と話しているという。
ブロックチェーンで労働契約を検証することもできる
労働契約の検証については、いわゆる「スマートコントラクト」を利用して労働契約を検証するために、この技術を用いることができるとしている。先ほどのモディ氏は、「労働契約が遂行されたかどうかは1人の人間がいれば判断できるにも関わらず、なぜ紙と手作業で契約書のやりとりをするのでしょうか」と問いかける。さらに「契約をプログラム化することで、一定の条件が満たされたかどうかに応じて一定の処置を進めるようにできるため、スマートコントラクトの動作に基づいて社員のボーナスを支払うことができます。」とコメント。
また、これが最も画期的な分野であることはいずれ明らかになるであろうと、デロイトの人的資源コンサルティングビジネス担当シニアマネージャー、ガレス・ブラウン氏は確信しているという。
「個々の雇用主との契約をオンまたはオフに切り替えることができ、かつ働く条件を前もって定義することができれば、従業員のみならず、雇用者にとっても非常に魅力的です。なぜなら、契約とその条件を給与体系に組み込んで時間のかかる入手手順を経るという必要がなくなるからです。」
と語っている。
社員のライフサイクルについては、破壊的イノベーションの可能性は全社員情報の記録にも及ぶという。
モディ氏は
「採用通知を手にする前から、一連の面接を受け、何らかの資格認定と確認のプロセスを経なければなりません。そして採用されれば、研修の記録やコンプライアンスの質問用紙など、記入を求められる作業がさらに続く場合があり、そのすべての情報が順に並べられます。」
「そうした過程とデータのすべてについて、多数のさまざまな人々の間でやりとりが必要となり、そのいずれもが最後に退職するまで継続され、退職時には情報の引き渡しがあり、またすべてのプロセスを改めて繰り返さなければなりません。ブロックチェーンは、現在の人事機能が経験していることを、根本的に簡略化できる可能性があります。」
と語っている。
ブロックチェーンは給与にも適用することができるという。ブラウン氏はこう話している。
「これが実現するのはもう少し先のことになりそうですが、ビットコインとクリプトカレンシーの市場が給与支払いに利用できるだけの安定性を確立しているという前提のもとで成り立っている例はすでに存在しています」
「長期的に見た場合、これらの市場が安定すれば、さらに多くのブロックチェーン対応給与テクノロジーが出現するだろうと想像しています。」
一方で、カーター氏によると、このような方向への移行を考える場合、組織がこうした目的でブロックチェーンを利用するための準備を整える前に、高い安全性の実現とテストの実施が必須であると確信しているという。
同氏は
「ヘイズの場合、安定性と安全性に100%満足しなければ、どのようなシステムも実装することはできません。私たちは人々の暮らしとアイデンティティとを扱っているからです。現段階ではテクノロジーの進化の推移を注意深く見守り、どのテクノロジーが利用可能になり、どのように信頼が構築されているかを把握し、私たちの分野にどのような影響を与える可能性があるかを確認していくことになります。」
と語っている。
人事部の多忙さを解消することが働き方改善につながる
現在、「働き方改革」が進められているが、この中で「HR Tech」と呼ばれるサービスが登場している。これは、企業の人材育成や採用活動、人事評価などの人事業務をテクノロジーの活用によって変える動きのことをいう。
株式会社オデッセイが実施した全国の人事部門または「働き方改革」に係わる部門の所属者を対象にした「働き方改革に関する意識アンケート」によると、「人事部にHR Techは必要だと思いますか」との問いに対し、「必要だと思う」が22.8%、「どちらかというと必要だと思う」が26.6%という結果になり、人事部にHR Techが必要だと約半数が回答したという。
また、注目しているHR Techは、「人材を増力化し生産性の向上を実現するテクノロジー(タレントマネジメント)」(149)が最も多く、続いて「人間以外の労働力を活用するテクノロジー(RPA)」(136)となり、「働き方改革」実現のためにHR Techに年間で1000万円以上の予算をかけても良いと約4割が回答した。
このように、テクノロジーによって人事部の多忙さを解消することが働き方の改善などにつながるとの認識が強いようだ。
ブロックチェーンが推し進める「働き方改革」
今回の6つの可能性はどれも興味深い。実現すれば、人事や採用分野に大変革を巻き起こすだろう。
先ほどの「働き方改革に関する意識アンケート」によると、人事部の通常業務が忙しく考案する時間がないため、41.8%が「働き方改革」が進んでいないとしている。
ブロックチェーンの導入により、今回の6つの可能性が実現すれば、「働き方改革」もうまく推し進めることができるだろう。いずれにせよ、テクノロジーをうまく活用することが、今後の企業の生き残りのカギを握っていることは間違いない。
※本記事はオデッセイ調べの情報を引用しています
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