ヨガに瞑想・・・ミレニアル世代に「補完医療」注目の動き

ストレスを低減し、パフォーマンス改善につながるとして、米国大企業などが注目する「マインドフルネス」。このマインドフルネス状態を実現するためにはヨガや瞑想が役立つといわれている。

Dignity Healthが実施した調査では、米国ミレニアル世代の64%がマインドフルネス状態になるためにヨガや瞑想を実践していると回答している。ヨガを実践するミレニアル世代は非常に多い印象だが、この数字はヨガ人口の多さを表しているといえるだろう。

このヨガ、実は「補完医療」の1つとして分類されていることをご存知だろうか。

米国国立衛生研究所傘下の国立補完統合衛生センター(NCCIH)は、現代西洋医学を補完する医療アプローチを、天然物と身心療法の2つのサブグループに分けており、ヨガはこの身心療法の1つとして分類されているのだ。身心療法にはこのほかに、鍼治療、瞑想、マッサージ療法などが含まれている。一方、天然物とは、薬草、サプリ、プロバイオティクスを使ったアプローチのことだ。

NCCIHでは、これらのほかにアーユルヴェーダや中国伝統医学なども研究対象とし、原因撲滅・対処療法型の現代西洋医学にはない予防法・治療法の発見を目指している。

ヨガ人気やNCCIHの取り組みから、米国では現代西洋医学だけでなく、他の医療アプローチも取り入れようという流れが強くなっていることが分かる。

一方、かつて補完医療に分類されているアプローチが主流だった中国でも、医療にまつわる新しい動きが活発になっている。その1つは、政府主導で「中国伝統医療」を復活させようというものだ。

なぜいま、中国伝統医療を復活させようという動きが活発になっているのか、中国や中国文化の影響が強いシンガポールの動向を紹介しながら、新しい医療トレンドに迫ってみたい。

中国ミレニアル世代は漢方派? 中国で復興する伝統医療

中国ではいまでも薬草などを使った伝統医療が主流のイメージかもしれないが、実際はそうではなさそうだ。

中国の元医療関係者がCNNの取材に語ったところによると、かつては中国伝統医療が主流だったようだが、最近では国民の約80%ほどが現代西洋医学に頼っていると答えている。理由の1つは、医療サービスの収益差が大きいためと見られている。現代西洋医療を施した方が収益が高いため、医師の数に偏りが発生していると指摘されている。

一方、中国政府はイノベーションによる経済成長モデルを追求するなかで、中国伝統医療をその柱の1つとして捉えており、同分野への投資を増やしている。

この一環で、2016年2月には日本の内閣に相当する中国国務院が「中国医療の戦略的開発計画(2016〜2030)」を発表。この計画では、中国伝統医療の知識を教育機関や各世帯に広く普及させること、また海外への普及を促進することなどが盛り込まれている。

2016年末には中国伝統医療法を可決。2017年7月に施行されたこの法律は、各省が伝統医療の研究所を設立するだけでなく、予算を増やし、教育の普及に務めることを定めている。教育を通じて特に若い世代への中国伝統医療の認知を高めることを狙っているようだ。

浙江省では2017年9月に、中国で初めて小学校に伝統医療を学ぶカリキュラムが導入されたとして注目を集めた。鍼治療の方法や薬草の効果を学ぶという。この動きはほかの省にも広がると見られている。

このような政府の取り組みに加え、2015年に中国伝統医療を専門とするト・ヨウヨウ氏がノーベル生理学・医学賞を受賞したというニュースなども、中国伝統医療の認知を高める役割を担っている。ト氏は、抗マラリア薬であるアルテミシニンとジヒドロアルテミシニンの発見者として知られている。この発見には漢方の知識が大きく寄与したと見られており、ト氏のノーベル賞受賞は多くの人にとって漢方を見直すきっかけになったようだ。

1兆2300億円規模、拡大する「漢方市場」

医療サービスの面では現代西洋医学を頼る割合が多いようだが、ほかのデータを見ると漢方の小売売上高は年々に高まっており、自宅では中国伝統医療を選択する人が多くなっているという別の側面も見えてくる。

Euromonitorによると、中国本土におけるパッケージ入り漢方の小売売上高は2011年の64億ドル(約6,900億円)から2016年には115億ドル(1兆2,300億円)に拡大している。

パッケージ入り漢方の売上高が高まっている理由の1つに、漢方メーカーが若い世代向けのプロモーションに力を入れていることが挙げられる。

漢方を服用するには通常、漢方ショップで材料を購入し自宅で調理する必要があるが、漢方メーカー大手のEu Yan Sangは漢方をパッケージ化し、忙しく調理する時間がない、または調理の仕方を知らない若い世代でも漢方を簡単に服用できるようにした。


オンライン購入も可能なEu Yan Sangの漢方パッケージ(Eu Yan Sangウェブサイトより)

Eu Yan Sangのリチャード・ユー会長はFinancial Timesのインタビューで、最近ミレニアル世代の漢方需要が高まっており、その需要に応えるために「中国伝統医療の現代化」を進めていると語っている。

Eu Yan Sangの競合、Tong Ren TangやChina Traditional Chinese Medicine なども若い世代向けのプロモーションを本格化させているという。

前出の浙江省では、人工知能を活用した中国伝統医療クリニックが開業。医師が患者の症状を入力すると人工知能が過去の中国伝統医療による治療データベースをもとに診断を行い、最適な処方を行うことが可能という。

このように政府の取り組み加速、ミレニアル世代の需要の高まり、人工知能の活用など、中国伝統医療を取り巻く環境は大きく変化しているといえるだろう。

中国国外でも関心高まる中国伝統医療

中国国外でも中国伝統医療への関心は高まりを見せている。

中国伝統医療は英語でTraditional Chinese Medicineというが、この頭文字「TCM」は中国文化の影響が強く、英語を公用語とするシンガポールやマレーシアでは良く目にする言葉だ。

シンガポールとマレーシアでは、TCMは日常的に利用されている。また現代西洋医療と併用する場合も多く、両者の共存レベルは他国に比べ高いといえるだろう。

シンガポールでは、リー・シェンロン首相が同国の高齢化が進むなかで、TCMが一層重要な役割を果たすと述べており、政府によるTCM支援を強化していく構えだ。すでにシンガポール保健省はTCM分野の研究促進のために1,000万ドル(約10億円)を投資することを決定している。

またシンガポールではTCMを専門とする若い医師が増えており、関心の高まりを示している。ラッフルズメディカルグループによると、国内に登録されている40歳以下のTCM専門医師の数は2010年256人だったが、2015年には72%増の440人に拡大したという。シンガポールで若いTCM専門医師が増えている理由の1つに、同国の南洋工科大学でバイオメディカルとTCMの両方の学位を取得できるダブルディグリープログラムが開設されたことが挙げられる。

こうした動きを見ていると、米国では補完医療の1つとして考えらえている中国伝統医療だが、中国やシンガポールではそれ以上の存在として認識されていることが分かるのではないだろうか。

健康意識が高いといわれているミレニアル世代が中国伝統医療をどのように評価し、取り入れていくのか、また人工知能など先端テクノロジーがどのように活用されるのか、今後の展開が気になるところだ。

文:細谷元(Livit​)