電子書籍の登場や若者の活字離れなどによって、書店は独自の生存戦略を練ることを余儀なくされている。客層や地域のニーズに応え、より集客の見込める売り場を作り上げるには、売り場を熟知したベテラン従業員の存在が必要だった。
ところがAIの登場によって、書店の在り方も大きく変わろうとしている。日本出版販売株式会社と富士通株式会社は、売場のコンセプトや客層など書店の特徴に合わせてAIが自動で選書を行う選書サービス「SeleBoo(セレブー)」を共同開発し、2018年夏より、日販から全国の取引書店向けに提供を開始する。
AIにより客層に合わせたリストを導き出す
「SeleBoo」は「Select Book」の略で、国内で流通する約60万点の書籍から、売り場のテーマや書店の客層に合わせた書籍リストを、富士通のAIを活用したビッグデータ分析により導き出す業界初のAI選書サービスだ。
日販はそのリストをもとに、全国の取引書店に書籍を提案する。書店の店頭フェアやイベントでの選書への活用を想定している。
日販が持つ約350万点の書誌情報や全国約3,000書店の販売実績情報などに加え、Wikipediaから情報を抽出してLinked Open Dataとして公開するコミュニティサイトDBpediaや、世界中で公開されているLinked Open Dataを収集して一括検索することを可能にするLODの活用基盤Lod4allなどのオープンデータを、富士通のAIを活用したビッグデータ分析サービスであるマーケティングAIコンテナで分析する。そして、書店や小売店向けにテーマや客層に合った本を選定しリスト化する。
また、選書結果に対する評価を書店員がフィードバックすることで、AIが書店員の知識や感性を機械学習し、選書能力を高めていくという。
まずは、テーマで選ぶ「キーワード選書」、指定した本と似た本を選ぶ「キーブック選書」、その地域に関する本を選ぶ「地名選書」の機能を提供し、その後、書店の特徴に合った本を選ぶ「書店カラー選書」、画像イメージから選ぶ「表紙選書」などを開発し、さらなるサービス強化を図ります。
今後、日販と富士通はこのサービスを通じて、出版業界における市場の活性化を図るとともに、カフェや雑貨など、他業界の商品やサービスと書籍とのマッチングによる、新たなビジネスモデルの確立も目指す方針だ。
ポルトガルの老舗書店商品が試みた新しい店舗の工夫
冒頭でも述べたが、書店は独自の生存戦略を練ることを余儀なくされている。たとえば、ポルトガルにある130年以上続く現役の書店『Livraria Lello(レロ・イ・イルマオン)』は、なんと入場をとるという試みを行っている。
1881年から続く同書店は、その美しさからイギリスのGuardian誌が選ぶ「世界の美しい本屋10選(The world’s 10 bset book shops)」にも選ばれたほどだ。
ステンドグラスや天井まで続く階段など、まるでファンタジー世界のような内装が印象的だ。その空間を体験するために、観光スポットとして足を運ぶ観光客も少なくない。
店内には大量の本が並んでいるが、その多くはポルトガル語の書籍のため、観光客からすると商品購入に至ることは難しい。そこでLivraria Lelloでは、店舗に入る際に3ユーロ(約400円)の入場料をとるという店舗の特性を生かしたモデルを採用している。入場料によって、美術館や博物館と同じく「店舗自体を体験する」ということが観光客にとってのこの店舗での体験となるのだ。
店舗側にとっては、無料で空間を体験して帰る人々のためにかかる清掃や接客などのコストを、商品価格に転嫁せず来場者から直接徴収することで、購入するかに関わらず質の高い体験の提供につなげられるというメリットがある。
なお、入場料の3ユーロは、店内で買い物をすれば商品代金から差し引く形で返金される。観光客にとっては「せっかくだから3ユーロ分買っていこうかな」というインセンティブが働き、通常の書店として利用する地元の人たちにとっても、損のない仕組みになっているのだ。
AIで選書という体験を提供してくれる「SeleBoo」
ECにおされ、どんどん全国の書店が減少している。筆者も現在は書店で本を購入することはほとんどなく、アマゾンを中心としたECを利用している。もはや書店の実店舗の存在は、Livraria Lelloの例からもわかるように「買う場所」から「体験する場所」へと徐々に変化して行く必要性があるのかもしれない。
そういった観点から見ると、AIを活用した選書サービスという「SeleBoo」の価値は大きい。「自分に合った本を選書してくれる」という「体験」を提供してくれるためだ。
これだけにとどまらず、カフェや雑貨など、他業界の商品やサービスと書籍とのマッチングによる、新たなビジネスモデルの確立も目指すという両社。今後の展開に期待したい。
img; nikkei