「ビットコインってなに?」 — 子どもがこう尋ねたときに、自信を持って答えられる人はどのくらいいるだろうか?
仮想通貨やブロックチェーンに関するニュースが毎日のように報じられているが、先ほどのような単純な質問に答えるのは案外難しい。アメリカの成人で仮想通貨を購入したことがある人の割合は8%未満という調査結果も発表されており、実践的な知識の欠如がその一因と考えられる。
テクノロジーの側面から説明すればいいのか、通貨としての役割から説明すればいいのか、その前に法定通貨や一般的な“お金”についての話をすればいいのか — 少し考えただけでも、逆にさまざまな疑問が浮かんでくる。
しかしすでに現代の子どもたちは、スマートフォンやゲームコンソール上で電子決済を体験している上、人気ゲームMinecraftにビットコインのマイニング機能が導入されたように、子どもと仮想通貨の距離は日に日に近づきつつある。
仮想通貨が一般社会に普及するのか否か、また普及するのであればいつ頃になるのかについてはさまざまな議論が交わされているものの、この新しいかたちのお金がこれまでの国家・地域別通貨体制を変えつつあるのは間違いない。
一方で、日本ではかねてから間接金融が主流で、ほかの先進国に金融リテラシーの面で遅れをとっているのは、金融広報中央委員会が2016年に行った調査からも分かっている。では、「仮想通貨ネイティブ」になるであろう現代の子どもたちにはどのような教育を施せばよいのだろうか?
Squareが公開したイラストの物語で学ぶビットコイン
個人やスモールビジネス向けに金融サービスを提供するSquareは今年2月、同社が運営するP2PペイメントアプリCashにビットコインの取引機能を導入。それに合わせて、“My First Bitcoin and the Legend of Satoshi Nakamoto(はじめてのビットコインとサトシ・ナカモトの伝説)”と名づけられたイラストつきの物語を公開した。
この物語のなかでは、性別だけでなく個人かグループなのかも分かっていないビットコインの考案者サトシ・ナカモト氏についてや、ビットコインの価値、入手や保管の方法などについて概念的な説明がされている。
「2008年に新しい通貨の構想を思いついたサトシ・ナカモトがどんな人は誰も知らない。男性か女性か、個人なのかグループなのかも分かっていない」(Squareのウェブサイトより)
当然この物語だけでビットコインのすべてを理解することはできないが、少なくともビットコインはこういうもの、という理解のきっかけになりそうだ。
Square CEO(兼Twitter CEO)のジャック・ドーシー(Jack Dorsey)氏は、この物語に関するツイートのなかで、「金融サービスをより多くの人に届ける上で、ビットコインは長期的なソリューションになりえると信じている。これ(ビットコイン取引機能の導入)は、そのための第一歩だ」と語った。
世界初の子ども用仮想通貨ウォレット
子ども向けのサービスもすでに芽を出しつつある。プロダクトデザイナーやディベロッパーを中心に設立されたイギリスのPigzbeは、子ども向け仮想通貨ウォレットを開発中。彼らのゴールは、仮想通貨貯金を通して21世紀の金融システムを実践的に学べる環境を構築すること。
世界初の子ども向け仮想通貨ウォレットpiggy-wallet(PigzbeのMediumより)
同社のプロダクトは、“ファミリーフレンドリーな”独自トークン「Wollo」、オリジナルの金融教育・ウォレットアプリ、ブタの顔を模した可愛らしいコントローラーから構成されている。英語で貯金箱を意味する“piggy bank”をもじった「piggy-wallet」と呼ばれるこのプロダクトのターゲットは、6歳以上の子どもとその親だ。
独自トークンのWolloはPigzbeネットワークの基軸通貨。子どもは教育ゲームをプレイしてWolloを貯めたり、親が外部の取引所から入手したWolloをお小遣い代わりに受け取ったりでき、貯まったWolloは非接触型決済対応のWolloカード経由で一般の小売店やネットショップでの買い物に利用できる。
またアプリのコントローラーは、ClassicとVIPの2種類が準備されており、VIPはコールドウォレットとしても機能する。しかもそのセキュリティレベルは、通常の仮想通貨取引で利用されているTrezorやLedgerシリーズと肩を並べるほどだと、Pigzbeのホワイトペーパーには記してある。
Pigzbeのもっとも興味深い点は、彼らが“Family Network”と呼ぶ、クローズドネットワークだ。
家族単位の小さな経済圏とも言えるFamily Network(Pigzbeのホワイトペーパーより)
Pigzbeのアカウントには、親が使う管理用のプライマリアカウント(PA)、子ども用のチャイルドアカウント(CA)、そして子どもの友人や親戚のためのファミリーメンバーアカウント(FA)の3つがある。
CAではWolloの受け取りしかできないため、子どもの無駄遣いを防止できるほか、PAはタスクの設定や管理ができるので、子どもがお手伝いを終えたら通知が親に飛び、それを確認後に親が子どもにお小遣いをWolloで送るといった使い方ができる。つまり親はFamily Networkを活用することで、子どもの“経済活動”を間接的に管理できるのだ。
また、海外や遠隔地に住む親戚もFamily NetowrkにFAとして参加できるため、お年玉をWolloで受け取るといったユースケースも考えられる。
このようにクローズドなネットワークという親の目の行き届く範囲で子どもに自由を与えることで、子どもは実践的な知識の獲得を促進でき、仮想通貨の普及が促進されるとPigzbeのチームは考えている。
子どもと一緒に学ぶ仮想通貨
平均月給以上を仮想通貨マイニングで稼ぎ出すベラルーシの13歳の少年や、アメリカ出身の11歳の若き仮想通貨投資家など、すでに大人と同じレベルで仮想通貨と触れ合っている子どもも存在する。その一方で、冒頭の調査のとおり、仮想通貨に馴染みを感じている大人はむしろ少数派だ。これはデジタル・ネイティブの子どもとネットを使いこなせない親との関係にも似ている。
ただネット上では、オンラインいじめやソーシャルメディアを介した未成年者略取の問題なども発生しており、子どもに適切なアドバイスができるだけのネットリテラシーが親にも求められている点を忘れてはならない。
そこで、大人もMy First BitcoinのようなリソースやPigzbeのようなサービスを利用することで、ハイリスクなイメージがつきまとう仮想通貨について子どもと一緒に比較的安全に知識を深めていけるのではないだろうか。
文:行武温
編集:岡徳之(Livit)