日本が幾度も“動画元年”を迎えている間に、動画ビジネスのあり方は著しい変化を遂げている。

それは、“ユーチューバー”が制作した親しみやすい動画や、大量生産された早回しの料理動画が、ウェブ上で流通する動画のメインストリームを形作った時代の終焉でもあるのかもしれない。

NetflixやAmazonのようなプラットフォーマーは質の高い作品を次々に送り出し、『VICE』や『Business Insider』のようなメディアが長尺のドキュメンタリーを配信する。『Smosh』や『Wong Fu Productions』など、個人のYouTuberが撮影スタジオを設立する例も少なくない。

日本の動画2.0時代を牽引する『ONEMEDIA』

こうした変化を「動画2.0」と定義し、国内の動画ビジネスを牽引してきたのが、明石ガクト氏率いるワンメディア株式会社だ。

同社は2014年、FacebookやTwitterなどのプラットフォームに動画を配信する分散型メディアとして産声を上げ、現在は自社事業の『ONE MEDIA』の運用だけでなく、クライアント向けに動画制作も行なう。

「最強の動画クリエイター集団」を目指す彼らは、ミレニアル世代を引きつけるコンテンツを追求してきた。その強いこだわりは、視聴者を引きつける構成や独特の視覚表現、音楽の使い方など細部にも宿る。

『スーパーカブ』の記念動画では、資料や写真をテーブルに並べていく手法を採用。
彼らはこれを『テーブルトップドキュメンタリー』と呼んでいる

配給と配信を越境するONE MEDIAの挑戦

今年4月、ONE MEDIAはショートフィルムプログラム『ONE THEATER』を立ち上げた。彼らは「動画メディアがオリジナルの映画を制作するのは日本初の試みだ」と意気込む。

第一弾は、Rick Kawanaka氏による『DRIVE IN FEAR』『PARANORMAL HOUSE』。配車アプリやスマートホームデバイスといった、ミレニアル世代を象徴するようなサービスを題材にした短編のホラー作品だ。

どうして彼らが今、映画制作に乗り出したのだろうか。『渋谷HUMANXシネマ』で開催された試写会の冒頭、ONE MEDIAの編集長 疋田万理氏は「『配給』と『配信』の境目が曖昧になっている」現状を指摘した。

疋田氏「これまで質の良い映像はマスメディアを介さないと視聴できませんでした。しかし、今は映画をスマートフォンで観たり、動画をテレビで観たりするのが当たり前になっている」

また『ONE THEATER』には、Rick Kawanaka氏を含め、若手の映像クリエイターに活躍の場を提供したいという想いも込められているという。「クリエイターを尊重しながら、動画をめぐる状況の変化の先頭に立ち、挑戦をしていきたい」と熱く語った。

コンテンツがプラットフォームを自由に行き来する

作品上映後のトークイベントでは、上映作品の監督を務めたRick Kawanaka氏、Instagramのストラテジック パートナーシップス マネージャーの綾尾康嗣氏が登場。明石ガクト氏がモデレーターとなり、クリエイターとプラットフォーマーそれぞれの視点から『配給から配信へ -SNS時代の新映画論-』というテーマで意見を交わした。

明石氏は日本における映画の上映スクリーン不足を、SNSやオンラインプラットフォームなどが補い得るのではという見解を示した上で、両者の関係性が今後どう進化していくのか、二人に問いを投げかける。

綾尾氏は両者が共存していく時代が到来している、と具体例を挙げて語った。

綾尾氏「たとえばノルウェーの国営放送が制作したドラマ『SKAM』ではSNS上で短い映像や登場人物による会話のやりとりが毎日更新され、それらを1本のドラマに集約したものが毎週放送される形式を取り、熱狂的なファンを獲得しました。すでに融合型のコンテンツが成功を収める時代がきていると思っています」

コンテンツの流通のあり方が変化する中で、クリエイターにはどのような影響を与えているのだろうか。Kawanaka氏は『第9地区』や『チャッピー』の監督であるニール・ブロムカンプ氏を例に、「配給」と「配信」を柔軟に行き来するクリエイターのあり方を指摘する。

Kawanaka氏「ニール監督は自身のスタジオを有する長編監督でありながら、定期的にオンラインで短編作品を公開しています。そこで反応があれば長編化に向けて動いていく。このように配給と配信を自由に横断するクリエイターも増えているので、両者の違いはますます曖昧になっている気がします」


ニール監督率いる『Oats Studios』が公開している短編作

動画メディアだからこそ映画で果たせる役割がある

自らSNSに作品を配信するクリエイターも増えつつあるが、Kawanaka氏は「監督とは別に、コンテンツの配信先やSNS戦略を設計してくれる人の必要性は増していくかもしれない」と語る。

Kawanaka氏「監督は作品を制作し始めると、それだけに集中してしまう人もいる。少なくとも自分はその一人です。

本編の前に上映した架空のサービス紹介動画の企画や制作も、僕はあまり関与しておらず、ONE MEDIAが担ってくれました。だからこそ本編のクオリティを高める作業のみに集中できました。そういった役割を担う人と協働できる環境はすごくありがたい」

『DRIVE IN FEAR』に登場する架空の配車アプリCARRYの紹介動画の一部、試写会当日はフルバージョンが放映された

明石氏「まさに僕らが『パロディっぽい動画をはさむとウケるのでは』という狙いでアイディアを膨らませていきました(笑)。本来はスマートフォンで視聴するような動画を映画館で上映することで、より『ONE THEATER』の意思が伝わるだろうという戦略があったんです。

「配給」中心の映画産業に、僕らのような「配信」を行なうプレイヤーが参入することで、コンテンツのあり方も変容していくのかもしれません」

それに対し綾尾氏は、米国では「配信を前提としたコンテンツ制作プロセス」が進みつつあると語る。

綾尾氏「たとえばNetflixは、コンテンツが完成してからどう売るかを設計していくのではなく、オンラインに合わせたコンテンツをどう制作するか考えていく。戦略を策定するタイミングが制作の前段階にあるのです」

明石氏も今回の取り組みを振り返りながら、メディア企業が一社で映画制作を担うメリットとして、SNSでの戦略を含めて一気通貫でデザインできる点を挙げた。

明石氏「今回は一社で映画制作をやり切る大変さを改めて実感しました。複数の企業が出資する制作委員会方式の制作は、良い仕組みだったのだなと。

ただし、自分たちの資金ですべてやるからこそ得られる自由もある。さらに僕らのようなメディアはSNSにどうコンテンツを流せばいいかも知っているので、新しい試みを仕掛けていける自信がある。

分散型メディアが映画館で映画を上映するというのは、一見“矛盾”する動きに思えるかもしれない。しかし今夜上映を行い、お二人とも話をする中で、この時代にメディアが映画に乗り出す意義や可能性を強く感じました」

明石氏が指摘した通り、コンテンツを多様な流通に乗せて届ける戦略づくり、そうした仕組みを前提としたクリエイティブの設計は、動画メディアが得意とする領域だ。配給と配信の境界が曖昧になりつつある今、彼らのようなプレイヤーが映画業界にゲームチェンジをもたらしていくはずだ。

新しい領域にその先頭に立って手を動かし続けるONE MEDIAは、映画という枠組みをどうクリエイティブに解体していくのだろうか。