デジタル化の進展に伴い、ビジネスの大小、あるいは企業規模の大小にかかわらず「デジタルトランスフォーメーション」が必須の課題となっている。
デジタルトランスフォーメーションとは簡単にいえば、デジタルによってビジネスに起こる良い方向への変化を指す。では、デジタルトランスフォーメーションは実際に経済や社会にどのような影響を与えていくのだろうか。
今回、マイクロソフト株式会社はIDC Asia/Pacificが製造業に焦点を当て作成した調査報告書 “Unlocking the Economic Impact of Digital Transformation in Asia Pacific(アジア太平洋地域のデジタルトランスフォーメーションの経済的影響を最大化する)” をベースに太平洋地域のデジタルトランスフォーメーションの経済的影響を発表した。
この調査は、アジア太平洋地域の15市場における製造業の615人のビジネスリーダーへのサーベイ結果に基づいている。
年間成長率1.0%の達成や2021年までにGDPを3,870億ドルに
まず、上のグラフを見てほしい。アジア太平洋地域の製造業はデジタルトランスフォーメーションを推進することで、年間成長率1.0%の達成、および 2021年までにGDPを3,870億ドル(約42.5兆円)増加させられることがわかる。
またこの調査では、製造業における経営層において、業務コストの上昇が最大の懸念事項であることが明らかになった。同時に、競合の激化に対応するための新たなビジネスモデル創成の必要性への関心も高まっているとしている。
製造業にとって重要な案件であるデジタルトランスフォーメーションの取り組みを既に開始した組織は、昨年度の13%から17 %に改善されているようだ。今後、3 年間では少なくとも40%の改善が期待されており、顧客支援に最大の効果があるという結果が出ているとしている。
さらに、調査は、業績に直接的な影響を与えるデジタルトランスフォーメーションの効果として以下の3点を挙げている。
- 生産性向上
- 利益率向上
- コスト削減
しかしこの3点に加え、デジタルトランスフォーメーションを推進する企業は長期的利点も想定している。新製品とサービスによる収益向上、そして顧客支援の改善がジタルトランスフォーメーションから得られる利点もトップ5に含まれたという。
Microsoft Asia の製造業担当 Regional Business Lead のスコット ハンター (Scott Hunter)氏はこのようにコメントしている。
「将来的に見れば、アジア地域のデジタルトランスフォーメーションは、プロセスの自動化、最適化、生産性向上から競合優位獲得のための新ビジネスモデルの開発へとフォーカスが移っています」
多数の製造業企業がデータの重要性を認識
さらに調査では、現時点で製造業企業がデータの重要性を認識していることが明らかになっている。実際、回答者の44%は自社のデジタルトランスフォーメーション1つのKPIが、資産としてのデータの活用状況であると指摘している。
スコット ハンター氏はこうコメントしている。
「製造業に関わる企業がデータの長期的価値を認識し始めることで、新しいビジネスモデルを創成するデジタルトランスフォーメーションの可能性を最大化できる可能性も高まっています」
今年度、製造系企業はクラウドとビッグデータ分析、次いで、AI、コグニティブコンピューティング、ロボット、IoT への投資を強化する予定だ。実際IDCは2019年までに、(日本を除く)アジア太平洋地域において、デジタルトランスフォーメーションの取り組みの 40%が、新しい業務と収益化モデルのための重要な洞察を生み出す AIとコグニティブコンピューティングにより支援されると予測している。
リーダーになるための3つのステップとは
調査では、デジタルトランスフォーメーションにおけるリーダーになるために、以下の3つのステップから成るデータ戦略を推奨している。
- データの収集:企業は業務における構造化 / 非構造化データを管理するための戦略を策定する必要がある。ビッグデータ分析とIoTソリューションに投資することで、製造系企業はデータを一貫した方法で収集し、整理することができるようになる。
- データによる既存商品とサービスの最適化:データの活用により、製造業企業は、プロセスとサプライチェーンを最適化し、最終的には既存製品やサービスを改良できる。ビッグデータ分析、機械学習、人工知能を活用することで、企業は予測分析により効率性を向上できる。
- データによる新たなビジネスモデルの創成:データは、最終的には、たとえば、予防保守、3Dモデリング、スマートオペレーションといった新たなバリューチェーンとサービスのために活用されるべきである。
デジタルトランスフォーメーションでビジネスモデルを根本的に変革
ここで、事例としてToyota Materials Handling Europeにおける豊田自動織機の取り組みをみてみよう。
Toyota Material Handling Europeは、資材運搬サービスの市場リーダーになるという目標の下に、テクノロジーに投資し、デジタルトランスフォーメーションの取り組みを開始した。
そして、マイクロソフトからコンサルティングと開発サービスの支援を受け、新たなオールインワンソリューションである「T-Stream 」を開発した。
このソリューションは従業員を支援し、顧客の価値と満足度を向上し、同社の市場トップの地位獲得を支援するという。マイクロソフトのAzureクラウド上で構築され、Windows上で稼働し、Bing MapとGPSシステムを活用して、技術者に故障が発生する前に保守を実行できるよう支援する予防的サービスを提供するという。
将来的には、同社はデータによってビジネスモデルを根本的に変革することができるという。また、ネット接続されたトラックにより、Toyotaは予防サービスを実現し、故障が発生するためにトラックを修理し、無故障運用を目指す方針だ。また、同社は、倉庫内の効率性を向上する未来の工場のビジョンも計画しているという。
この新ソリューションの一部は、製造業向けイベントであるドイツのハノーバーメッセで公表される予定だ。そこでは、フォークリフトにおけるAIの検証のために、マイクロソフトのシミュレーションテクノロジを使用した AirSim のデモが行われる。
ビジネスや社会へ訪れる大きな変革
今回の調査では、デジタルトランスフォーメーションがアジア太平洋地域の製造業に大きな影響を与えていることがわかった。しかし、これは何も製造業に限ったことではない。
以前、日本マイクロソフト株式会社 代表取締役 社長 平野拓也氏は
「デジタルトランスフォーメーションの進展による労働市場の変革により、多くの職種が変化するだろう。失業に対する懸念もある。回答者の58%が自社の従業員が既に将来に備えたスキルを有しており、新しい仕事への移行が可能になっている。」
と述べており、その影響はビジネスや社会に及ぶことは間違いない。
加えて「働き方改革」も進められており、さらにデジタルネイティブであるミレニアル世代が社会の中心として台頭してくる。今後の企業は、デジタルトランスフォーメーションが巻き起こす大きな変革にどう対応するかが、生き残りのカギとなるだろう。
img: Dreamnews