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「どれだけスクリーンを見ていれば気が済むの? 宿題は済んだの?」「あと5分だけだからいいじゃない!」・・・親子間のこの手の会話は、おそらく世界中で頻繁にやりとりされているに違いない。
2016年に米国の13~18歳の子どもとその親に対して行われた、テクノロジー依存症についての報告書『テクノロジー・アディクション』では、親の79%、子どもの70%が毎日のように、もしくは日に何回も、子どものデバイスの使用が原因で口論になるとしている。
報告書は、子どもたちの福利の充実を目指し、テクノロジーに特化した情報を提供している非営利の超党派組織、コモン・センス・メディアによるものだ。
近年、一般人が子どものデバイス使用に対し、危機意識を強める中、世界のIT大手も徐々に対応策を講じつつある。
デバイス使用をめぐっての親子げんかは少なくない
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テクノロジー依存症は精神障害? 脳への影響も
子どもたちが毎日どれぐらいの時間をメディアに使っているか、ご存じだろうか。
コモン・センス・メディアが2017年に発表した、デバイス使用に関する報告書、『コモン・センス・センサス』によると、0~8歳児がスクリーンメディア(メディアを「見る」こと。音楽を聴くことや本を読むことは除く)全体に、日に2時間19分、うちモバイル・デバイスに48分を、8~12歳は全体に4時間36分、うちモバイル・デバイスに1時間53分を、13~18歳は全体に6時間40分、うちモバイル・デバイスに3時間01分を費やしていることがわかっている。
13~18歳の子どもの保護者の59%は、子どもがテクノロジー依存症なのではないかと心配し、子ども自身も50%がそれを不安に思っているそうだ。
過度なデバイスの使用は、睡眠不足、生活習慣の乱れのみならず、多くの問題を招く。ネットいじめ、自信喪失、孤独感、自殺、集中力の低下、うつ、対人関係の悪化などだ。
実際、脳にも影響があり、計画や決定、衝動制御を司る灰白質の減少が見られるという。
テクノロジー依存症が、精神障害なのか否か、またその診断基準はいまだ明確になっていない。しかし、一般的には、「のめり込んだようにデバイスを度を越して使うことが原因で不都合が生じるケース」とされている。
2011年に発表された、複数の文献を系統的にまとめた報告書では、米国の大学生以下の子どもたちのうち、多く見積もると26%が「テクノロジー依存症」と考えられているそうだ。
SNSを通してのネットいじめが自殺を招くこともある
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シリコンバレーの親は、子どもにデバイスを簡単に渡さない
一般人が気づく前から、開発者は問題を知っていた。グーグル、アップル、ヤフーといった、シリコン・バレーのトップ企業の従業員の多くは、子どもをデバイスから遠ざけ、コンピュータを使わずに学習を行う学校に通わせているという。
マイクロソフトの元CEO、ビル・ゲイツ氏は娘がビデオ・ゲームに夢中になり過ぎた際、制限時間を設け、携帯電話も14歳まで与えなかったという。
アップルの共同設立者、故スティーブ・ジョブズ氏も同様で、新しいiPadが発売になっても、子どもに買い与えることはせず、家庭でのデバイスの使用を最低限に抑える努力をしていたそうだ。
米国の著名投資家であり、グーグルやフェイスブックに早くから投資を行っていたことで知られるロジャー・マクナミー氏は、「自らが開発に携わる、シリコンバレーのITエリートたちは、デバイスのマイナス面を知っており、自分の子どもたちには使わせない。しかし、それに対策を講じることなく、世に送り出した。一般の子どもたちへの配慮に欠けている」と、怒りをあらわにする。
同時に彼は「デバイスを過度に使用する問題が深刻化する前に手を打つべきだった」とも語っている。
「コンピュータを使わない学習を」と、ITエリートが子弟を通わせるシュタイナー学校
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アップルは新機能を追加、テンセントは「デジタル・コントラクト」
デバイス依存症への懸念が広がるにつれ、世界の大手IT企業も対応策を講じている。
アップルは今年に入ってすぐ、保護者が子どものiPhoneを管理できるよう、新機能を追加する計画を発表している。株主である2団体が、子どもの長時間にわたるスマートフォンの使用と、その心身への影響を懸念し、対応を求める書簡を送ったためだ。
一方、中国の大手IT企業、テンセントは3月、親子で相談して、ビデオゲームで遊ぶ時間を決める「デジタル・コントラクト」を取り入れる予定があることを明らかにした。
「デジタル・コントラクト」を結び、家事の手伝いをしたり、設定された学習目標に達成したりすると、ゲームで遊ぶ時間を与えられる。子どもは友達を契約の立会人にすることもできる。
これは、テンセントのゲーム、『王者栄耀』が空前のヒットとなり、長時間にわたって遊ぶ子どもたちに悪影響が出ていると、中国政府から批判を受けたため。すでに昨年7月から、年齢によりゲームの使用時間に制限が課せられており、「デジタル・コントラクト」はそれに続く対応策となる。
ゲーム依存症は、昨年末発表となった世界保健機関(WHO)の疾病及び関連保健問題の国際統計分類第11版の草案に加えられている。これは、異なる国から異なる時点で集計された死亡・疾病のデータを体系的に記録・分析・解釈・比較するため、WHOが作成するもの。実際第11版にゲーム依存症が盛り込まれるかどうかは、5月に行われるWHO総会で採択される予定だ。
株主から、子どもの長時間にわたるiPhone使用への対応を迫られたアップル
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子どもの依存症防止に立ち上がった、ITのベテラン集団
大企業が自発的に依存症防止・解決策を提示しないのを受け、これ以上子どもをデバイス漬けにすることはできないと創設された団体がある。「センター・フォー・ヒューメイン・テクノロジー」だ。
IT関連の職務経験者が集まっている。創始者の1人であり、エグゼキュティブ・ディレクターを務めるのは、トリスタン・ハリス氏。グーグルのデザイン倫理家など、過去10年にわたり、IT関連の要職を経てきており、TEDトークにも登壇している。ロジャー・マックナミー氏も設立アドバイザーとして名を連ねる。
「センター・フォー・ヒューメイン・テクノロジー」は、コモン・センス・メディアと組み、「トゥルース・アバウト・テック」というキャンペーンを行っている。IT業界に倫理基準を設けることを求め、政府に法律の作成や、リサーチを行うよう呼びかけるなどの活動を展開している。
米国小児科学会 (AAP) が推奨する「2歳以下の子どもにテレビを見せるのはご法度」というルールは、今や常識になっている。
このルール作成にコンサルタントとして携わった、ビクター・ストラスバーガー氏は、テクノロジー依存症の子どもの増加が問題化する中、業界のルール設定や法律も大切だが、「最終的には保護者が『フィルター』にならなくてはならない」としている。
先の報告書、『テクノロジー・アディクション』によると、8~13歳の子どもの54%が、親がデバイスをチェックする頻度が多すぎると感じているそうだ。また32%が、携帯電話で通話中の親は自分のことをおざなりにしていると受け取っている。
子どもに注意するばかりでなく、まずは保護者自身がデバイスとの付き合い方を反省する必要がありそうだ。
文:クローディアー真理
企画・編集:岡徳之(Livit)