中国Eコマース最大手アリババが中国国内だけでなくアジア全域を睨み、事業展開を進めていることは周知の事実であろう。
そのアリババが次の一手として、アフリカ市場進出を見据えた取り組みを始めている。
今回は、アフリカ進出を見据えたアリババの取り組みを紹介するとともに、アフリカ市場で強まる中国の存在感・影響力についても触れてみたい。
アリババ・ビジネススクール、アフリカの起業家にアリババ流Eコマースを伝授
アリババのジャック・マー会長がアフリカを初めて訪れたのは2017年7月のこと。このときルワンダで開催された起業家向けイベント「YouthConnekt Africa」で、アフリカの起業家育成のために10万ドル(約10億円)を投資する意向を明らかにした。この10万ドルは、マー会長の個人資産で運用されるジャック・マー基金から拠出され、「African Young Entrepreneur Fund」として運用されるという。
またマー会長は、インターネット・テクノロジー、人工知能、Eコマース分野の人材育成のためにアフリカの大学とも提携する可能性にも言及したとされる。
アリババはこれまでにもマレーシアやタイで、Eコマース、人工知能分野の人材育成に向けた拠点開設やスキルプログラムを実施しており、アフリカでも同様の取り組みを行うようである。マレーシアやタイでは人材育成だけでなく、Eコマースの流通拠点を開設。人材とインフラの両方に多大な投資を行っており、地元政府とも強力なネットワークを構築している。
マー会長のアフリカとの関わりは、2016年9月に国連機関UNCTADの若手起業家・中小企業スペシャルアドバイザーに就任したことがきっかけとなり、強まりを増しているようである。
UNCTAD(国連貿易開発会議)は、発展途上国の経済開発を支援する国連機関。支援の一環でアフリカやアジアの起業家育成に向けた活動を実施している。
当初マー会長の任期は1年だったが、2017年9月に再指名されたため現在もスペシャル・アドバイザーとしてアジア、アフリカでの起業家育成に向けた取り組みを行っている。
マー会長とUNCTADは、アリババの強みでもあるEコマース分野に注力。アリババ・ビジネススクールとの提携で「eFounders」と呼ばれる起業家育成プログラムを開設し、今後5年で1,000人を育成していく計画だ。これは2週間のプログラムで、アジアやアフリカの起業家を中国・杭州のアリババ本社に招き、ロジスティクスやモバイルペイメントなど中国のEコマースエコシステムについてのノウハウを伝える。
eFoundersプログラム第1回は、2017年11月に24人のアフリカ人起業家を招き実施された。このときの書類選考では700人以上が申し込んでおり、競争倍率は実に30倍近くとなった。このプログラム開催中の11月11日には、アリババが中国Eコマース最大の商戦日「独身の日」セールで1,500億元(約2兆5,000億円)を売り上げるという記録を樹立したが、プログラム参加者たちは、その様子を間近で体験していたという。
eFoundersプログラム(アリババウェブサイトより)
参加者たちは自国に戻り、Eコマースエコシステムの構築だけでなく、人材育成やコミュニティーづくりなど、ニューエコノミーの担い手として活躍することが期待されている。
eFoundersプログラム第2回は2018年3月末に、アジアの起業家を対象に実施された。このときはカンボジア、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムから37人の起業家が参加したという。また2018年5月には、アフリカの起業家を対象にした第3回目が実施される予定だ。
アリババがアフリカでの事業展開を行う上で、こうした起業家のネットワークは強力なアドバンテージになるはずだ。
数兆円規模の中国マネーが流入、アフリカで影響力を増す中国
マー会長が注目するアフリカだが、その成長ポテンシャルに目をつけ投資を行っている国は多い。しかし、投資額ではすでに中国が群を抜いて世界一になっており、中国抜きでアフリカの経済・市場発展を語ることは難しくなっているといえるだろう。
アーンスト・アンド・ヤングによると、2016年アフリカへの海外直接投資は中国が361億ドル(約3兆8,000億円)と2位のアラブ首長国連邦(110億ドル)に3倍以上の差をつけトップとなっている。また、中国の海外直接投資は前年比106%増と、前年比減となっている米国(5.2%減)や英国(46%減)との投資熱の差を示す結果となった。
またForbes誌が情報筋の話として、中国の習近平国家主席が600億ドル(約6兆4,000億円)の借款・支援金をアフリカに提供したと報じており、中国政府の関心が非常に高いことも伺える。
さらに中国はアジアインフラ銀行(AIIB)を通じても、アフリカへの投資を進めていくようだ。2017年9月、AIIBがエジプト向けに最大で2億1,000万ドル(約220億円)の資金援助を行うと発表。これはAIIBによる初のアフリカ投資となる。
中国政府がここまでアフリカ投資に力を入れる理由は、同国が進めるシルクロード経済圏「一帯一路」にあると考えられる。
一帯一路は、中国西部から中央アジアを経由して欧州につながる「シルクロード経済ベルト(一帯)」と中国沿岸部から東南アジア、スリランカ、アラビア半島、アフリカ東部を結ぶ「21世紀海上シルクロード(一路)」からなる大陸をまたがる巨大な経済圏だ。
一帯一路経済圏
この経済圏の各拠点に中国がインフラを開発することで、後に中国企業が進出しやすい基盤を構築することも狙いのようだ。
アフリカの玄関口になるのは、ケニア、タンザニア、エチオピア、エジプトなど東アフリカ地域だ。
実際、AIIBによるエジプト投資だけでなく、ケニアでの鉄道敷設などこの地域への投資は顕著になっている。ケニアでの鉄道敷設プロジェクトの総コストは32億ドル(約3,400億円)。その80%が中国からの借款で賄われたという。
海外直接投資だけでなく政府間の借款を含めると、かなりの中国マネーがアフリカに流入しており、中国の影響力が拡大しているのは想像に難くないだろう。
中国の一帯一路に対抗して、日本は「自由で開かれたインド太平洋戦略」という構想を掲げている。これはインド洋と太平洋に面したアジアとアフリカを結ぶ地域の経済成長と安定を目指す構想。しかし、多額の資金を投じてインパクトの強いプロジェクトを次々と実施する中国に比べると、アフリカにおける日本の存在感は非常に小さいものであるといえるだろう。
発展速度を高めていくであろうアフリカで、アリババがどのような影響を与えるのか、中国政府とアフリカ諸国の関係はどのように発展していくのか、今後の動向にも注目していきたい。
文:細谷元(Livit)