日本では、東京の都市部に住む人間にとって、自動車は必要不可欠なものではなくなってきている。電車やバスなどの交通機関の発達に加え、Uberなどの出現により、タクシー業界も配車アプリを出すフェーズにまで押し上げられ、レジャー目的ではカーシェアリングを利用するといったスタイルが定着しつつある。

しかし、そんな状況に自動車業界も手をこまねいている訳ではなく、自動運転技術の発展に力を入れ、コネクテッドカーも今後自動車市場のシェアの大半を占めていくことになるだろう。

総務省によると、コネクテッドカーは、ICT端末としての機能を有する自動車のことである。車両の状態や周囲の道路状況などのさまざまなデータをセンサーにより取得し、ネットワークを介して集積・分析することで、新たな価値を生み出すことが期待されている。

Counterpoint社のIoTトラッカーサービスの最新の調査によれば、世界のコネクテッドカー市場は2020年までに270%成長し、接続機能を搭載して出荷される乗用車は、2018年から2022年の間に1.25億台に達する見通しであるという。

今回は、その調査結果を紹介する。

EUのeCall義務化と中国の採用の高まりが市場をけん引

調査ではこの成長の要因として、EUにおけるeCall(事故時などの緊急通報システム)の義務化と中国における採用の高まりを挙げている。また欧州においてはクルマ社会であるドイツ、イギリス、フランスが市場拡大の推進役を担っているとしている。

Counterpoint社のIoTとモバイル領域を専門とするシニア・アナリスト、Hanish Bhatia氏は以下のような見解を述べている。

「市場への浸透度という点では、現在のところドイツ、イギリス、米国が市場をけん引しており、3か国合計の2017年における接続機能搭載車の出荷数は最も多い。欧州のeCall義務化によって市場が動き、欧州内の他の国でも普及が進むだろう。さらに欧州がeCallを採用したことがコネクテッドカーのエコシステムにおける触媒の働きをし、ほかの地域へも波及するだろう。」

また、2017年~2022年のメーカー別出荷シェアを見ると、トップがゼネラルモーターズ(GM)で46%、以下、BMWが20%、Audiが14%、メルセデスベンツが13%と続く。

この調査では、日本の自動車メーカーはセルラー接続(携帯通信を用いた接続)の搭載では成長曲線に乗り遅れているが、量産規模があるので今後の成長は早いだろうと予測している。

2017年~2022年の国別出荷シェアをみると、2017年現在、中国と米国が出荷の45%を占め、中国だけで32%におよぶ。これは中国の乗用車市場が極めて大きいためである。

欧州では、eCall義務化による早期導入の効果もあり、経済大国であるドイツ、イギリス、フランスなどにおいては2020年までにコネクテッドカーがほぼ100%になると予想されるとしている。

5Gは日本と韓国が市場のけん引役となるか

接続に使用する技術では、いまだ2G/2.5Gが主流であるが、2017年から3Gも使われるようになった。しかし、4Gが次第に勢いづいて、世界市場の90%の接続を占めるようになる可能性が高いとしている。5Gについては日本と韓国が市場のけん引役となる可能性があると予測している。

これについて、Counterpoint Research社のリサーチ・ディレクターNeil Shah氏は以下のように述べている。

「現在のところ市場の製品は2G/3Gのモバイルネットワークが主流である。しかし、4G LTEへの移行が急速に進んでいるため、2022年までに接続機能搭載の乗用車の90%が4G LTEを使うだろうと予測される。さらに5Gによる接続も2020年から採用が始まるが、その採用は2022年までは少ない見通しだ。自動運転のレベルが上がるにつれ、4Gや5Gの技術を車に搭載することが、現在も、5Gが普及する2022年以降も、ますます重要になるだろう。また、5G NR(スタンドアローン、SA)モードによる低遅延は、次の10年において自動運転車の市場が変曲点を迎えるうえでの重要技術となるだろう。」

5Gとは、第5世代移動通信システムのことで、現在、規格の標準化が進められている次世代の通信技術である。今後の情報通信の高速化、大容量化には欠かせない技術であるだけではなく、社会のスマート化のベースになるインフラ技術と期待されている。

IHS Markit Technologyによると、4Gと比較してピーク速度で10倍、システム容量で1,000倍、接続機器数で100倍となることが条件であるという。

今後のコネクテッドカーには5Gは欠かせない技術なのだ。

トヨタはAIで自動車に何を求めるのか?

一方、日本ではこんな動きもある。以前、AMPでも紹介したが、LINE株式会社とトヨタ自動車株式会社はコネクテッドカー分野において協業基本合意書を締結した。

両社は、LINEが開発するクラウドAIプラットフォーム「Clova」と、トヨタをはじめとする自動車メーカーや自動車周辺機器メーカー各社が推進する車載機器とモバイルアプリの連携規格「Smart Device Link(SDL)」を活用し、協業の可能性を探っていくという。

Clovaは2017年3月に開催されたMobile World Congress 2017の場で発表されたLINEのAIプラットフォームだ。LINEと親会社の韓国NEVERが共同で研究開発を進めている。

アジア圏でトップシェアを持つコミュニケーションアプリ「LINE」を通して集めたコミュニケーションデータと、韓国内の主要検索ポータルである「NEVER」の検索データを活用した開発が行われている。

トヨタが目指しているのは、AIの搭載により、自動車がドライバーを理解した上で、車側から会話を誘導したり、ドライバーの趣向に応じた話題や関心の高いニュースを提供したりといった運転中の情報提供や、趣味趣向に合わせた運転ルートの変更などを行うことだ。

また、疲労などドライバーの運転時の状況に合わせて、自動運転への切り替えを促すなど、あらゆる角度からドライバーをアシストし、AIがより快適な運転体験を提供するためのアシスタントとなることなのだ。

ついに自動運転が現実化する時代に

今回の調査によると、意外に早く自動運転の時代が到来しそうだ。かつてはSFの世界の中でのことでしかなかったことが実現するのだ。

日本では、自動車は確かに都市部ではそれほど必要ではないかもしれないが、地方ではまったく逆だ。自動車がないと生活できない地方都市や町がほとんどといってよい。

そこで、苦労している高齢者や障がい者などの交通弱者も安心して暮らせる社会は目の前まで来ているのかもしれない。

img: PR TIMES