“当たり前”を疑うことは難しい。知らず知らずのうちに、既存の価値観に縛られていることが多くある。誰もが口にしたことがある「カレー」も、その一つだ。
実は、ご飯にカレールーをかけて食べるというカレーライスのスタイルはずっと変わっていない。そんな状況に疑問を覚え、新たなカレーを開発しようと取り組むプロジェクトがある。「6curry」だ。
クイックかつミニマムに。“デリバリー専門店”としてスタート
2017年11月に6curryはUberEATS専門店としてローンチした。
ニューヨークを中心としたアメリカの大都市では店舗を持たない「ゴーストレストラン」が登場している。
6curryも同じくデリバリー専門店として展開することで、出店の敷居を下げ、クイックかつミニマムに商品を提供を開始した。
「カレー好き」という共通項でチームを結成。新しいカレー文化の創出に挑む
6curryは、カレーでありながら、炭水化物は少なく、カレーを食べる時の罪悪感を覚えなくて済む。そんなサラダ感覚で食べられる新感覚のカレーを手がけたのは、高木新平氏率いるクリエイティブ・カンパニーNEWPEACEだ。
NEWPEACEは、自動運転やロボアドバイザーからメンズコスメや卓球まで、幅広い領域のプロデュース・クリエイティブを手がけている。2017年に自社事業として、 “住所不定”のモバイルプロダクトブランド 「ONFAdd」と、前述のカレーブランド「6curry」の展開をスタートさせた。
6curryはNEWPEACEの事業という位置づけだが、関わるメンバーの8割は、NEWPEACEの社員ではない。6curryを生み出したのは、社内外から同じ志のもとに集まったユニークなチームだった。
廣瀬「弊社代表の高木がFacebookに『カレーが好きな人集まれ』と投稿したのが始まりです。彼の投稿に反応した人と、その紹介からメンバーが集まり、徐々にプロジェクトになっていきました」
メニュー開発やキッチン、PRなど、さまざまな専門性を持ったメンバーが関わっているが、参加の条件は一つ。「カレーが好きなこと」だ。
廣瀬「全く新しいカレー文化を創り、世の中を驚かせる。『新しい価値観を社会に提供する』というビジョンに共感してくれたからこそ、プロジェクトに関わり続けてもらえたと考えています」
プロジェクトに関わる社外メンバーは、とにかく面白いプロジェクトに関わりたい、という思いで、プロボノ的に動いている。金銭的な契約がない分、メンバーはいつでもプロジェクトから離れられる。
廣瀬「NEWPEACEとして、いつでも辞められる環境の中で続けてもらうために『楽しさ』を提供し続けることを意識しています。大人の文化祭のような感じですね。常に新しいコトを仕掛け、それが形になっていく。純粋にそれが楽しいんです」
結果として、プロジェクトが立ち上がった2017年5月から半年後の11月には、6curryは営業を開始した。
大手の独占市場を切り崩し、世界で通用する新しいコンセプトのカレーを生む
6curryが目指すのは、大手メーカーが独占的に支配しているカレー市場を切り崩すこと、カレーを世界で戦える日本食にすることだ。
廣瀬「カレーは皆が好きな食べ物なのに大手メーカーの独占市場であり、そこに自由度や多様性が少ない。常識を覆す、新しいカレーを生み出したいという発想からプロジェクトはスタートしました」
多くの人が好きなカレーだが、女性にとってカレーは、炭水化物の塊でダイエットの敵。しかも、外食チェーンで最大手の「CoCo壱番屋」は男性向けの店構えで女性には入りづらい。
「女性が気軽に食べられる健康的なカレー」が、6curryの原点だ。試行錯誤を経て、現在の6層カレーにたどり着いた。
飲食業での開発・販売経験のあるわけではないチームが、「女性が気軽に食べられる健康的なカレー」というアイデアの種を、どのようにプロダクトへ落とし込んでいったのだろうか。
そこには、メニュー開発、キッチン、デザイン、マーケティングといった各メンバーのもつ専門性が活かされていったという。
メニュー開発とキッチンを担当したのは、新井一平氏だ。新井氏は本業で技能継承や経営に関するコンサルティングや、地方でものづくりをしている企業のWebコンサルティングを手がけている。本業の傍ら全国各地で手に入れた食材を使い「旅するカレー屋」というプロジェクトを行っていた。1年に8,000食ものカレーを作っていたという。
新井「地域の農家やつくり手を応援したいという想いで、各地域の食材を使ったカレーづくりを行っています。カレーというツールで、その地域の人や地元を発信しています。6curryの面白さは、チームで取り組めること。自分ひとりではたどり着けない場所にいけるんです」
現在の6層に至るまでに、さまざまな食材の組み合わせで、テストを実施。美味しさ、見栄え、食感、味の変化など食べる上での体験、オペレーションの煩雑さなどを踏まえ、リリース後も試行錯誤を繰り返している。
新井「血糖値の急上昇を防ぐ、ベジファースト構造になっています。野菜の並べる順や種類、味付けなど、かなり試行錯誤を繰り返しています。何度も試食会を開いて、フィードバックを受けて作り直しをしました」
6curryは、ローンチ後も、より美味しいカレーを目指して、メニューに改善を加えている。2018年2月には大規模なリニューアルを実施。玉ねぎのピクルス、オリジナルスパイスふりかけ、パクチードレッシング、レーズンライスなど、大人がやみつきになる要素をふんだんに盛り込んだ。
ブランドカラーの「青」は、既存のカレーに対するアンチテーゼ
6curryというブランドを体現するロゴなどのグラフィックデザインにも注力した。手掛けたのは、NEWPEACEアートディレクターのYOPPY氏、デザイナーの井坂氏だ。
6curryは商品自体の見た目が“かわいい”ため、ロゴはスタイリッシュにすることを意識してデザインしたという。また、6curryの「6」には「第六感を刺激する」という意味が込められている。そのため、タイポグラフィの部分に斜線を入れ、「刺激を与える」という意味を付与した。デザインする上で強くこだわったのは、ブランドカラーを青色に定めたことだった。
井坂「カレーには黄色や赤色のイメージがありますよね。6curryは既存のカレーに対するアンチテーゼとして『青』をブランドカラーに据えました。過去に飲食業界では今までの価値観とは異なるブランドが登場するときに、既存の大きなプレイヤーへの反攻を示すために異なる色を使ったケースがあります。たとえば、Starbucksの緑色に対してBlueBottleの青色、マクドナルドの黄色に対してShake Shackの緑色のように。カレーにおけるそれは青だと考えました」
次のステップは「実店舗」と「世界進出」
まずはUberEATS専門店として展開を始めた6curryだが、今後は実店舗のオープンや世界展開も視野に入れている。最近ではカレーをヨガイベントやボードゲームカフェで提供するなど、異業種とのコラボレーションを進めてきた。
廣瀬「実店舗を持つことで、UBEReatsでは届けられなかった人にも6curryを楽しんでいただけるようになります。また、実店舗を通じて、新しい仕掛けを試していきたい。たとえば、6curryはカスタマイズしやすいので、その場で自分だけの6curryを作るといった企画もできると楽しいですよね」
ユーザーの声を反映しながら、6curryは常にアップデートされる。実店舗があれば、ユーザーの声やニーズをさらに集めやすくなる。6curryの進化がさらに加速することは間違いない。
6curryは2018年中の世界展開を目標に、事業展開を進めていくという。
廣瀬「半年で営業開始までたどり着けたので、また次の半年で違う世界が見られると信じています。世界に打って出るならば現地の食材も使いながら、6curry自体も進化させていきたい。カレーを世界に通用する日本食にするために、チャレンジし続けていきます」
革新的なプロダクトは、ユニークなチームから生まれる。廣瀬氏の「わたしたちは、やりがいを大切にする世代。その世代がスキルも身につけてプロフェッショナルとして活躍できるようになってきた。スキルを持ったメンバーが集まれば、いろんなことに挑戦できる」という言葉が印象的な取材だった。誰かが旗を立て、掲げたビジョンに共感するメンバーが社内外から集まり、プロジェクトが立ち上がる。
6curryのような挑戦が世の中でもっと生まれていけば、面白い時代になるに違いない。