近年、LCC(ローコストキャリア)の登場により、飛行機の利用が身近になっている。運航コストの低減・機内サービスの簡略化・航空券販売コストの節減を通して、リーズナブルな料金を実現しているのが特徴だ。

従来の航空会社のターゲットは、ビジネスでの利用やパックツアーの団体客などだった。LCCでは、個人や若年層の旅行客をターゲットにしている。多くの若者が、バスや鉄道を利用する気軽さで、より長い距離の移動することが可能になった。

一方で、地方都市では、観光振興と人口減少対策が解決すべき課題となっている。こうした課題を、産学官が連携し、LCCのメリットを生かす形で実現しようとする動きが始まった。

国内LCC・地方自治体・大学による初の産学官連携協定を発表

2018年4月3日、大分県、大分大学、ジェットスター・ジャパンは、産学官連携協定を発表した。これは、国内LCC・地方自治体・大学による、初の試みとなる。

大分=東京(成田)線は、ジェットスター・ジャパンが初めて就航した、地方路線だ。2013年3月31日に開設され、今年で5周年を迎える。2017年7月には、大分県とジェットスター・ジャパンの間で、包括的連携協定を結び、LCCの低運賃を活かした観光振興と地域振興への取り組みを始めた。

取り組みの中では、他県と連携した広域観光の環境整備や空港アクセスの充実・公共交通空白地域からの整備などが行われている。

今回の、大分大学を含む3者の連携は、この包括協定の一環として発表された。LCCの利用者に若年層が多いことから、大分大学の学生による個人および若年層旅行者の増加、大分県の観光振興への取り組みを期待する。大分大学経済学部に、産学官連携による地域課題解決演習を開講し、学生の参加を呼びかける。

産学官の連携にいたるまでの両者の取り組みや、今後の展望について、ジェットスター・ジャパンおよび大分県の担当者に聞いた。

否定的な意見が多かった大分=東京(成田)路線の就航と、両者の連携による取り組み

大分県観光振興部 観光・地域振興課 課長 土田宏道氏(以下、土田氏)「ジェットスター・ジャパン様が、基幹空港以外の地方空港に、初めて就航したのが大分空港です。LCCが地方空港に就航する初めてのケースにもなりました。

それから5年が経ち、大変多くのお客様にご利用いただき、ジェット・スタージャパン様の路線は、本県の観光振興や地域活性化に欠かせないパートナーになっています。」

ジェットスター・ジャパン株式会社 事業・戦略本部 ネットワーク企画部長 福島志幸氏(以下、福島氏)「大分=成田線への就航は、当時の状況から、関係者の皆様からは、心配の声もいただいていました。

しかし、2013年3月31日の就航当初から約5年間に渡り、大分県知事をはじめ多くの大分県の関係者の皆様の多大なる支援を賜り、また路線の定着化に向けて共に歩んでいただいたおかげで、当初の心配をはねのけ、大分県の多くの皆様にご利用いただける路線に成長し、包括的連携協定を締結することができました。」

連携協定締結に至るまで、両者はさまざまなプロジェクトを行っている。他県と連携した広域観光の環境整備として、ジェットスター・ジャパンが就航する愛媛県と連携した取り組みを行なった。ジェットスターが就航する両空港をむすぶ、広域な観光コースの魅力を、若年層をターゲットに、オンラインでPRするというものだ。

また、空港アクセスの充実、公共交通空白地域からのアクセス整備として、大分空港と豊後大野市(JR三重町駅)を結ぶ直行タクシーの情報を、ジェットスターに提供する、という連携も行っている。

福島氏は、こうした大分県との連携プロジェクト成功の秘訣について、

  • 路線の課題を常に共有し、解決する努力を一緒に続けられること
  • その協業の取り組みを通じて、成功経験やその取り組みの効果をお互いに共有できること
  • その中で低廉な航空運賃が生み出す効果自体をお互いに理解するパートナーになれること

の3点を挙げた。

就航から6年「新たな領域」へのチャレンジとは

今年は、ジェットスター・ジャパンと大分県が積み上げてきた経験や成果を、新たな大分大学との連携に活かし、新たな領域へチャレンジしていく段階となる。

新たな領域として挙げられるのは、若年層やインバウンドの個人旅行者のさらなる誘客促進と移住促進の2つだ。

 

福島氏「若年層やイバウンドの個人旅行者のさらなる誘客促進については、低運賃を打ち出した観光振興を積極的に推進してきた経緯があり、これからのステージでは、就航先の魅力と低運賃をどう結びつけて旅行動機をさらに高めていけるかがカギとなります。」

そのためには、新たな着地型商品の開発をするとともに、既存のサイクリングといった潜在力のある旅行アイテムを推進していくことが必要となる。アクセスや宿泊の多様化するなど、旅行しやすい環境整備も重要となってくるそうだ。

三者が取り組むもう一つのチャレンジは、移住促進だ。人口減少への対策は、大分県の大きな課題となっている。

大分県へのU・I・Jターンなどの移住情報を発信する際には、大分県がLCCの就航する地域であり、首都圏との行き来が容易であるという利便性をアピールすることが重要となる。

福島氏「特に、移住希望者のうち、20~30代の若年層の割合が高くなっていることから、ジェットスターでの大分旅行経験により、大分県への移住検討のきっかけを作るような取り組みも考えられますね。」

新たな旅行者獲得へ向けた「産学官連携」の取り組みとは

これまで大分県とジェットスターは、さまざまな取り組みを行ってきたが、今回、大分大学を含む産学官の連携へと踏み出した。大分大学との連携における強みは、LCCのターゲット層の一つである若年層を巻き込めることであると、土田氏は語る。

土田氏「大分大学様は、教育と研究を通じて地域の発展に取り組んでいるため、産学官連携における有力なパートナーであると考えます。また、LCCとしてジェットスター様のターゲット層が個人および若年層の旅行者と明確です。

団体ツアー旅行だけでなく個人旅行も増加し、旅行に対するニーズも多様化するなど、観光を取り巻く環境が変化していく中で、本県としても新たな旅行者の取り込みを図ることが重要になっています。

この取り込みを図るための施策を、ジェットスター様の強みを活かして、若年層である学生の皆さんに、直接考えてもらう機会を創出できることは、三者連携の大きな強みです。この機会を、最大限に活用し、新たな旅行者の取り込みを、一層強化していきたいと思います。」

福島氏「当社は、これまで様々な形で産学連携を進めてきました。例えば、昭和女子大学での機内食の開発、明治大学のゼミ研究との連携、小学生を対象としたLCC体験ツアー(産学官連携)等が挙げられます。

特に、産学官での連携は、LCCのメリットを地域でどこまで活かすかという一言に尽きるのですが、現在はまだまだ導入期であり、そのような活動は、その提供者のジェットスターや就航地である行政が主導する段階かもしれません。

近い将来は、地元で活躍する方々がそのような視点を持って、さまざまな活動の中で、その効果を活かしていただければと思っておりますし、そのような主導者が各分野に登場していただけることを期待したいですね。」

地域の課題解決におけるLCCのメリットとは

ここまで、ジェットスター・ジャパンのと大分県の取り組みについて両者に語ってもらったが、今後、首都圏との短時間移動を低運賃で可能とするLCCのメリットを活かすための重要ポイントはどこにあるのだろうか。福島氏は、行政主導の重要性についてこう語った。

福島氏「地域課題の解決において、LCC就航によるメリットを、行政主導でどこまで地域に活かすことができるかが成否を分けます。」

地域の交通インフラが、行政主導で発達してきた過去の歴史から見ても、まずはあらゆる政策の中でLCCを活用する仕組みの構築は重要だ。たとえば、芸術やスポーツ団体の遠征強化などは、これまで移動にかかる費用負担が大きく、企画の規模・頻度に一定の制約があった。LCCを活用することで、財政負担を強いることなく移動負担が軽減されれば、その規模や頻度を高めることが可能となる。

福島氏「その対象者も参加しやすくなる上に、友人や知人も誘いやすくなるので、チーム強化だけではなく参加人口の増加、ひいては関連業種の発展など、地域に還元される効果も期待できるのではないでしょうか。」

また、LCC就航のメリットとして、ターゲットの明確化が挙げられる。低運賃での航空移動の提供により、アクティブな旅行者の利用が多くなる傾向がある。そのためPRや情報提供、さまざまな課題対策を明確なターゲットに向けて提案することができる。

LCCのメリットを活用した地域課題の解決を、日本全国へ

LCCの登場により、格安運賃での飛行機の利用が可能になった。それは、若年層の旅行を活発化するという効果を生み出している。LCCを利用して長期休暇に旅行をする大学生も多いだろう。

一方で、日本の各地域は、観光の振興と人口減少対策という課題を抱えている。今回のLCCと県と大学による、産学官での連携はこうした課題へのチャレンジを行う。LCCは地域の空港に就航し、格安の移動手段を提供する。行政は、受け入れる環境を整え情報を提供。学生には、若年層ならではの、アイディアが期待される。

首都圏との行き来が、短時間且つ格安になることで、地方への観光と移住が促進される。今回の産学官連携のチャレンジが成功すれば、その経験が全国へ広がり、各地域での課題が解決の手がかりとなっていくことになるだろう。