世界を旅しながらリモートで働く“デジタルノマド”。このライフスタイルが、海外を中心に話題になって数年が経つ。場所にとらわれず自由に生きる姿が、日本のメディアに取り上げられる機会も増えた。

充実した暮らしを送るようにみえる彼らだが、もちろん苦労する面もある。住居探しや仕事場の確保など、生活に慣れるまで苦労している人も少なくない。

そうした困難もデジタルノマドの醍醐味かもしれないが、健康的な習慣を維持したまま、世界を渡り歩く生活を求めている人も多いのではないだろうか。

ノマド生活の充実に欠かせないインフラとコミュニティ

そんな問いがきっかけとなって生まれたのが、デジタルノマドの女性を支援するプラットフォーム「Behere」だ。同サービスはアパートメントやコワーキングスペース、ジムのメンバーシップ、コミュニティへの参加などの権利を有料で提供している。

Behereを利用したいユーザーは、ウェブサイトで滞在したい都市と期間(最低1ヶ月以上)を選び、自身のプロフィールを登録する。その後、電話によるプロフィールの承認が完了すると、希望した都市の滞在エリアやアパートメントなど滞在プランの候補が送付されてくる仕組みだ。

滞在先となる都市には、英語を話すBehereのコミュニティマネージャーが常駐。Behereのメンバー同士の交流イベントや、互いの母国語を学びたい人がペアになり、定期的に言語を教え合う「ランゲージエクスチェンジプログラム」などを実施する。

パッケージの値段は場所や期間によって異なり、月額1,400ドルから。初回はデポジットとして990ドルを支払う。安価なホテルを利用した場合と比較すると、1ヶ月に15万円は高く感じられるかもしれない。しかし、現地で仕事をする場合はカフェやコワーキングスペースの利用料が必要になる。ちょうど良い仕事場を探す手間や席代を差し引けば、決して高すぎる金額ではないだろう。類似サービスの月額料金も1,300ドル〜2,200ドルあたりが相場のようだ。

Behereは現在ヨーロッパや東南アジアの12都市でサービスを展開しており、2018年はさらに対象地域を広げていくという。

「会社にリモートワークを説得できない」というユーザーの声に応え、サイトでは会社にリモート勤務を許可してもらうための資料も配布している

創業者の気づきが原点に「女性が海外に住む選択肢を」

女性にターゲットを絞った背景には、CEOのMeesen Brown氏がデジタルノマドとして過ごした際に得た気づきがある。

Brown氏はオーストラリアのNPOに勤務したあと、18ヶ月間にわたるデジタルノマド生活を送った。夢にみたライフスタイルを手に入れた彼女だったが、数ヶ月が過ぎる頃には「疲れきった自分に気づいた」そうだ。

新しい都市に適応するまでが「まるでフルタイムの仕事のように感じた」と当時を振り返る。

Brown氏:当時のわたしは同じ辛さを共有する女性との交流を求めていました。どこでも働ける自由を愛していると同時に、サポートシステムの欠如に私は消耗していたのです。(中略)安全の心配やコミュニティの不在によって、女性が海外に住むという選択肢を踏みとどまってしまう状況を変えていきたい(筆者訳)

CEOのMeesen Brown氏

2017年の夏にBehereをローンチすると1,000人を超える女性から応募が集まったという。応募者の職業はコンサルタントや起業家、コンテンツクリエイターなど多岐にわたった。

Brown氏はチェンマイで2日間限定でポップアップのコワーキングスペースを設営するなど、リアルな場づくりにも積極的だ。2018年はポップアップのコワーキングスペースを世界各地で展開していく予定だという。

Brown氏:Behereのメンバーは柔軟に住む場所を変えて暮らしていける。と同時に、関心の近い女性と集い、支え合い、協力し合うグローバルなコミュニティにも属しているのです。

今後も順調に利用者が増えていけば、世界中にコミュニティスペースを構える「WeWork」のように、Behereが女性のノマドを対象にコワーキングスペースやジムを世界各地で運営していくかもしれない。

デジタルノマドな女性が集う活発なコミュニティを構築することで、女性向けの商品提供など多様なマネタイズのポイントを設けることもできるだろう。

世界で広がるデジタルノマドを支えるサービス

Behereのようにデジタルノマドにインフラとコミュニティを供給するサービスは、海外を中心に近年増えつつある。

例えば、2015年にローンチした「Remote Year」は、住宅やコワーキングスペースの提供、そして現地での交流イベントを組み込んだプログラムを提供するサービスだ。初年度には25,000件を超える申し込みが集まった

Remote Yearのウェブサイトには「わたしたちはグローバルなプロフェッショナルの国である」と記されている。プログラムを終えてからも支え合う“国”では、プログラムの修了者が「Citizens(市民)」と呼ばれる。

ウェブサイトには「『Remote Year』は単なるワークトラベルプログラムではない」とある

同じく2015年に創始した「Roam」は、世界各地にある「coliving(コリビング)」用施設とデジタルノマドをマッチングするサービスだ。彼らの定義する「coliving」とはトイレやベッドを備えた個室とイベント用スペースの揃った施設で、コミュニティに属する安心感とプライバシーが確保された生活を指す。

すでにマイアミや東京、バリなど世界4都市に展開しており、近日中にサンフランシスコにも新たな拠点が完成するという。

Roamが提供する価値は「心地よさ」と「コミュニティー」、そして「生産性」の三つだ

2011年にPwCが75ヶ国を対象に実施した調査によると、世界のミレニアル世代の女性のうち71%は海外での就労に関心を寄せている。

最近では旅先で仕事をする「ワーケーション」や、出張後に休暇をとって観光を楽しむ「ブリージャー」といった概念も話題だ。徐々に旅と仕事の境界は薄れつつある今、各地を飛び回りながら働く生活を選ぶ若者も増えていくだろう。

とはいえBehereのBrown氏も指摘したとおり、慣れない土地での生活には不安や寂しさがつきまとうもの。場所にとらわれず働くビジネスパーソンにコミュニティを提供するサービスは、今後も需要が増えていくはずだ。

img:Behere , Remote Year , Roam