「AI美容」が活況ーー美のパーソナライズが本格化、顔のシワ分析も

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自分の顔の美しさを “正当に” 評価するのは難しい。毎日鏡を見る人でも、新しくできた小さなシワや薄いシミなどミクロサイズの変化には気づきにくい。他人に聞いても美肌や老化の基準は人によって異なるが、そもそも正直に答えてくれる人自体少ないだろう。

今、海外で話題のアプリ「RYNKL」では、人工知能(AI)が顔のシワを分析してくれる。他にも、「AI美容」サービスがここ数年で続々登場している。AIは人をどのようにより美しくしてくれるのか。AI美容市場の活況の背景にある人びとの新しいニーズにも迫るーー。

シワの変化を可視化し、ユーザーに最適なスキンケアを

「RYNKL」は、香港・ロシア・韓国に拠点を置く研究チーム「Youth Laboratories」が開発した、その名の通り「シワ(Wrinkle)」を分析するアプリ。

ユーザーはアプリを起動し、スマートフォンのカメラで顔を自撮りすると、額・目元・頰・口元の4つのエリアにあるシワを0〜100のスコアにして表示してくれる。シワの日々の変化は、スコアのグラフで確認できる。


4つのエリアのスコア平均値が「RYNKLスコア」となる

筆者も実際に使ってみたが、特にユニークに感じたのは、自分のスコアを同年代の平均値と比較することで、自分が相対的にどの位置にいるのかを知ることができる機能。ゲーム感覚のように楽しめ、継続的にアプリを利用するモチベーションとなった。


年代別平均値のグラフで自分の位置を把握

シワの分析にはAIを活用。顔写真からシワを見つけて、アルゴリズムで分析しスコア化。それだけでなく、年齢や性別、人種、身長と体重から割り出されるBMI指数などのユーザー固有の情報をもとに、パラメトリック手法とディープラーニングでシワの量や深さまでも計測する。

さらに、計測期間中、自分が使用しているスキンケアアイテムの情報も入力できるため、アイテムを変えた前後の変化も可視化できる。今までは、肌の質感や明るさなどで「なんとなく」しか感じられなかったアイテムの良し悪しを、より正確に測ることができる。


日次の変化を表すグラフ。使い続けることで肌の調子をより正確に把握

Alexey Shevtsov CEO率いるYouth Laboratoriesは、これまで他社の多くが、心拍数や消費カロリー、体重など「からだ」に関する数値を計測するアプリやデバイスを開発してきたのに対し、人の印象を決定する「顔」を計測するものがないと知り、RYNKLを開発した。

2016年にローンチしたこのアプリは今後もアップデートを続け、将来的には個別のユーザーにとって最適なスキンケアを提案する機能を実装する予定だという。

AI美容、続々登場ーー背景には、美に対する「新たなニーズ」

Youth LaboratoriesはRYNKLの他にも、ユーザーの顔をAIで分析し、同年代の他のユーザーやモデル、有名人と比較するビューティーコンテストアプリも提供している。AIを美容に活用しようとしているのは同チームだけではない。

カナダ発の美容シミュレーションアプリ「ModiFace」は、デバイスの画面に映されたユーザーの顔のライブ映像が、一瞬でメイクをしたように変化するというもの。ユーザーは店舗に設置されたデバイスを使って、新色のアイシャドウやリップなどを “試す” ことができる。


「ModiFace」は日本でも昨年から提供開始(Facebookページより)

ModiFaceはすでに大手化粧品メーカーも採用。フランスの化粧品・香水ブランド、セフォラが提供するメイクのお試しアプリ「Virtual ARTIST」もその一つ。

Virtual ARTISTでは、カラーマッチング機能を使ってユーザーが使っている他のメイクアイテムの色合いなどからオススメの商品も紹介する。


店舗に行かずとも新色をトライできる「Virtual ARTIST」

同じくフランスの世界最大手粧品メーカー、ロレアルも、AIをマーケティングに活用する技術を開発するカナダのスタートアップ、Automat Technologiesとタッグを組んでいる。

なぜ、AI美容が盛り上がりを見せているのかーー。その背景としては美容を含むサービス全般に対して、消費者が「パーソナライズ」を求めるようになってきたことが挙げられる。

AIの発達がパーソナライズを身近な存在に

セールスフォース・ドットコムが2016年末に発表した意識調査結果によると、消費や購入に関するパーソナライズされた情報を受け取るために「個人情報を提供したい」、または「提供してもよい」と考える人は、ミレニアル世代で6割を超えたという。


パーソナライズされた情報に関する世代別の意識調査結果(Salesforce Blogより)

ミレニアル世代の1つ上のX世代でも、5割を超える人が個人情報の提供に抵抗がないと答えているように、パーソナライズへの関心が高まっている背景には、モノの需要・供給が関係していると考えられる。

過去の大量生産・大量消費時代には、少量生産のブランド品を持つことがステータスとされていた。しかし、それすら人びとに行き渡ると、他の人が持てないものを持つことへの欲求、ひいては自分を他人と比べること自体への欲求も失われる。

すると、消費者の欲求のベクトルは、他人ではなく「自分」がいいと思うもの、「自分」に合うものへと向かっていきやすい。こうして、何かを「パーソナライズ」することが新たな価値となっていった。

これまで「パーソナライズ」といえば、オーダーメイドやコンシェルジュサービスなど、高価なモノが多かった。しかしその役割を人間ではなく、AIが担うことによって、誰もが手の届く存在に。「AI×パーソナライズ」は、美容以外の領域にも広がっていくことだろう。

編集:岡徳之(Livit

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