日本のマスコミが取り上げないロシア・ミレニアル世代の姿 — ユニークなデジタルライフと仕事観【連載:電子国家エストニア】

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ミレニアル世代といっても世界各国その特徴はさまざま。同じデジタルネイティブであるが、使っているソーシャルメディアや楽しむコンテンツも国・地域によって大きく異なる。

親世代が社会主義体制真っ只中を生きてきたロシアのミレニアル世代はそのユニークさが際立っている。

メディアであまり取り上げられないこともあり、謎につつまれたロシアのミレニアル世代。今回は、ロシアのミレニアル世代のデジタルライフや仕事観について、その一端に触れてみたい。

親世代は社会主義体制、ロシア初の「消費者」として育ったミレニアル世代

ロシアの人口は1億4400万人と日本と同じくらいの規模だ。国内総生産(GDP)は4兆ドル(約430兆円)で世界6位。1人あたりのGDPは2万8000ドルで、マレーシアやギリシャと同等の水準となっている。

ロシアの人口全体のうちミレニアル世代は、X世代や団塊の世代より数が多く、最大の世代グループを構成している。

ソビエト連邦が崩壊したのは1991年。したがって、ミレニアル世代(1980~90年代生まれ)のおよそ半分はソ連崩壊前に生まれ、もう半分はソ連崩壊後に生まれたことになる。

Hill+Knowltonは、ロシアのミレニアル世代はこの国で初となる正式な「消費者」であると説明している。ソ連時代にはブランドが存在しなかったためだ。ロシアのミレニアル世代が生まれた90年代ごろから海外ブランドが流入し始め、それまで親世代が体験したことのない商品が溢れる経済を生まれたときから享受している。

ミレニアル世代の海外ブランドへのあこがれは強いとされるが、親世代ほど強くはないという。なぜなら親世代は、ソ連崩壊後の経済において選択肢が海外ブランドしかなかったようだが、いまでは海外ブランドに負けない国内ブランドが育っており、ミレニアル世代は海外・国内問わず自分に合ったブランドを選べるからだ。

世界最大の国土を持つロシアでは移動距離が長くなり買い物が大変そうであるが、Eコマースの登場でミレニアル世代の消費はより活発になっている。

驚くことにロシアEコマース市場で最大のプレーヤーとなっているのが、中国アリババグループのEコマースAliExpressだ。2015年にロシアでサービスを開始。2017年にはユーザー数が2360万人となり、ロシアEコマース市場で最大規模になったという。


AliExpressロシア

一方、ロシアのソーシャルメディアで最大規模を誇るのが、ロシア版フェイスブックと呼ばれる「Vk.com」だ。makeuseof.comによると、Vk.comの月間ユニークユーザー数は4000万〜5000万人。そのユーザーの多くが30歳以下で、35歳以上のユーザーが多いとされるフェイスブックとは年齢層が異なるようだ。

ドイツのハインリッヒ・ハイネ大学がVkとフェイスブック両方を使っているユーザーを対象に実施した調査では、Vkの方が簡単に利用でき、信頼度が高いと評価されていることが明らかになった。フェイスブックとVkの大きな違いの1つはファイル共有ができる点で、音楽や動画ファイルが頻繁にシェアされているという。


Vk.com

Vkのほかにロシアで人気の高いソーシャルメディアには、OK.ruやMoi Mirなどがある。OK.ruは3000万人以上の月間ビューワー数を誇り、女性ユーザーが多い。Moi Mirはロシア版グーグルプラスと呼ばれており、1700万人ほどのユーザーがいるとされる。またインスタグラムも人気が高く、ユーザー数はフェイスブックを超えるという。

ミレニアル世代、Z世代の動画コンテンツ人気が高いのも他の国と同じで、YouTube利用は非常に多い。一方、YouTube動画がブロックされることもしばしばあるため、ロシア版YouTube「Rutube」など、ほかの動画サービスを併用しているユーザーも多いという。


Rutube

欧米諸国ではソーシャルメディアの普及とともにシェアリングエコノミーが発展してきたが、ロシアでは少し様相が異なるようだ。Hill+Knowltonは、ソ連崩壊前後や1990年代の経済・社会不安の記憶が新しく、他人と何かをシェアすることに抵抗を感じる人々がまだ多いためと指摘している。

ロシアのミレニアル世代が育った環境や、デジタル環境が欧米や日本のものとかなり異なることが分かっていただけたのではないだろうか。

先行き不透明で将来が心配だが、起業意欲は旺盛なロシアのミレニアル世代

ロシアのミレニアル世代の仕事観はどうだろうか。

ロシアのミレニアル世代はグローバル比較で経済の先行きを若干不安に感じており、どちらかというと正規雇用で働きたいという割合が多い。

2017年にデロイトが実施したロシアのミレニアル世代を対象とした調査では、次の1年、経済状況が改善すると考えているロシアのミレニアル世代の割合は30%と、グローバルの45%を大きく下回ることが分かった。また、次の1年社会・政治状況が改善すると見込んでいる割合は26%で、こちらもグローバルの36%を下回った。経済、政治、社会に関して悲観的に見ているミレニアル世代が多いことを示唆している。

個人的に懸念している事柄トップ5は、

  1. 戦争/紛争:39%
  2. テロ:34%
  3. 経済格差:32%
  4. 企業や政治内の汚職:29%
  5. ヘルスケア/病気予防:28%

という結果だった。
身近に紛争やテロがあることが、悲観的な見方につながっているのかもしれない。

仕事については、正規雇用で働きたいという割合がロシアのミレニアル世代では71%と、グローバルの65%を若干上回る結果となっている。また、フリーランスで働きたいという割合はロシア26%、グローバル31%だった。先行き不透明感から、フリーランスではなく、正規雇用で安定的に働きたいと考える人々が若干多いようである。しかし同時に、現在の勤め先で働く期間は2年以内と考えている割合が43%と、半数近くが2年以内の転職や起業を視野に入れていることも明らかになっている。

ビザのレポートでは、ロシアのミレニアル世代のなかで将来的に起業したいと考えている割合が62%(全体平均49%)で、調査対象となった新興11カ国のなかで3番目の起業意欲の高さを示していることが分かった(1位インドネシア88%、2位フィリピン81%)。デロイトの調査と照らし合わせると、正規雇用を求めながらも、内心起業したいと考える活力あるミレニアル世代が多いことが分かる。

人口1億4400万人と比較的大きな国内市場を持つロシアでは、国内だけでもビジネスを成り立たすことが可能で、VkやRutubeなどユニークなプロダクト/サービスが普及している。今後、起業意欲旺盛なロシアのミレニアル世代による起業も増えていくと見込まれることから、さらに多くのユニークなビジネスが登場してくるはずだ。

文:細谷元(Livit

【連載】電子国家エストニア

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