家のない友人が二人いる。

二人のうち一人は自らが経営するバーに、もう一人は勤めている会社のオフィスに住んでいる。

「なぜ部屋を借りないの?」と尋ねると、彼らは平然とした顔で「部屋にいない時間の賃料がもったいないから」と答える。日中は仕事に出ているため、部屋は実質睡眠のためだけにしか使わない。それならば、「職場で寝てしまえばいい」というのが彼らの考えだ。

彼らのような特有の“共有観”を持つミレニアルズにぜひとも紹介したいサービスがアメリカにある。倉庫に格納しており使っていない私物を、必要な人に貸し出すことができるサービス「Omni(オムニ)」だ。

ミレニアルズのキーワード「シェア」は、倉庫の荷物を社会に還流させる

Omniの基本的な機能を一言で説明すれば、「レンタル倉庫サービス」といえる。しばらく使わないであろう荷物を段ボールに収納し、倉庫に預けることができるのだ。

預けた荷物の状態を写真で定期的に確認することができ、欲しいときに自宅まで配達してもらうことも可能。日本の類似サービスとしては寺田倉庫が提供する「minikura」が挙げられる。

Omniが類似サービスと異なる点は、倉庫に格納した私物を、他人に有料でシェアすることができる点にある。部屋に置けない私物を倉庫に格納しておくだけで、お小遣いが稼げてしまう、一挙両得なサービスといえる。

アカウント登録をして、パッケージングした荷物の配送が完了すると、格納した荷物一つひとつに貸す・貸さないかを設定できるようになる。貸すことのできない大切なものは“Personal”、Facebookと同期した友人にのみ貸すことができるものは“Friends”、他人に貸してもよいものは“Everyone”といった具合だ。私物の貴重さに準じて分類できるため、不用意に他人の手に渡ってしまう心配はない。

実際にOmniをのぞいてみると、まとまった期間での利用が多いアウトドア用品やDIY工具、カメラ、買う前に試しておきたいゲームやガジェットが多数を占める。しかし、中には洋服やボードゲーム、家具、着ぐるみがあったりと、欲しいものはなんでも揃っていそうな印象だ。

Omniレンタル画面。さまざまな商品が並んでいる

なかには「サメの着ぐるみ」も…

アメリカのトランクルーム市場は2兆円と巨大だ。なかでも「Clutter」、「MakeSpace」、「Trove」、そしてOmniの4社が、保管の安全性や低価格、配達の俊敏さなどを武器に覇を競っている。こうした状況のなか、Omniは「私物をシェアできる」ことに焦点を当て、差別化の大きな一手に出たわけだ。

単なる“倉庫”はもう古い。ファーストペンギンを狙う日本の個性的な倉庫サービス

アメリカのトランクルーム市場が巨大な一方、日本の同市場は500億円とまだまだ発展途上にある。しかし、年次10%増の成長を続けており、2020年には700億円を突破する見込みだ。日本には上述した「MINIKURA」以外にも個性的なレンタル倉庫サービスが生まれてきている。日本の代表的なサービスをいくつか紹介しよう。

minikura teburaTRAVEL:旅行での面倒な荷造りを省略。「手ぶら旅行」が可能に

「minikura teburaTRABEL」の基本的な機能は「minikura」のようなレンタル倉庫と同様。だが、旅行にいく際に必要なものを選定し申し込むと、旅行先まで専用のスーツケースに入れて届けてくれる。旅行が終わると返送が可能で、洋服などはクリーニングされ、大切に保管される(要追加料金)。サービス名のとおり、「手ぶらで旅行ができるサービス」なのだ。

「minikura」シリーズは、ほかにもECや実店舗で購入したモノを直送・保管し、自分の好きなタイミングで受け取ることができる「minikura LOCKER」や、レンタル倉庫機能にグループ限定のSNS機能やスケジュール共有などのコミュニケーション機能を追加した「クラウド部室」など、倉庫を起点とした新しいサービスを次々に展開している。

Summally Pocket:ヤフオクへの出品も可能なレンタル倉庫

Sumally(サマリー)」は“モノの百科事典”をうたうSNS。ユーザーがタイムラインに流れてきたアイテムの中で欲しいものを「want」、持っているものを「have」に分類し、リスト化できる。そのなかで気になったアイテムを購入したり、ユーザー同士のやり取りで売買を成立させたりすることも可能だ。

そんなSumallyに寺田倉庫が力を付与し、誕生したのが「Sumally Pocket(サマリーポケット)」。従来のレンタル倉庫サービスに加え、オプションとしてヤフオクへの出品やクリーニング、靴の修理をしてもらうことができる。今のところSumallyとの連動は果たしていないが、いずれCtoCでの売買や貸し借りの機能が追加されることが予想される。

souco:企業向け倉庫斡旋サービス

「souco(ソウコ)」は企業向けに倉庫を斡旋するサービス。ネット上で倉庫を貸したい企業と借りたい企業のマッチングをおこない、小ロットかつ短期で倉庫を借りることが可能になる。現在、東京、千葉、埼玉、神奈川の4都県でサービスを展開中だ。

hinata trunk!:アウトドア用品向けのオンデマンド倉庫サービス

「hinata trunk!(ヒナタトランク)」はアウトドア用品専門の保管・配送サービス。預けたアウトドア用品は倉庫に保管され、スマホで状態を確認することができる。

キャンプにいく際は、取り出す荷物を選択し配送先のキャンプ場を指定するとキャンプ場の管理棟まで配達してくれる。使用後は返送した私物のクリーニングまで担う。アウトドアマンにとっては至れり尽くせりのサービスだ。

Sumally Pocket がCtoCで貸し借りできるようになれば、日本におけるOmniに近いサービスになる。預けた荷物をシェアリングできるサービスはビジネスモデル的にも組み合わせやすく、既存のレンタル倉庫サービスを中心に増えていくのではないだろうか。

モノに隠れた“想い”をくみ取ったサービスが、単なる「倉庫」に付加価値を持たせる

シェアリングエコノミーが生活に浸透しつつあるなか、「ミニマムな暮らし」や「モノを増やさない」が現代を象徴するキーワードになっている。

その文脈においても、本記事で主題に据えた「倉庫」や「私物シェア」のサービスはこれから盛り上がりをみせていくことが期待できる。

hinata trunk! のような特定の文脈における保管サービスも市民権を得ていくだろう。芸術作品やスポーツ用品、書籍など、安心して保管できる場所はニッチながらも根強いユーザーが獲得できる。これから市場が広がっていくにつれて、倉庫サービスの「差別化」が広がっていくと推測される。

倉庫サービスは単に「モノを預けるだけ」に存在しているのではない。モノには所有者一人ひとりの「想い」や「ストーリー」がある。そんな人びとのモノへの「想い」をくみ取ったサービスが、ユーザーを獲得していくのではないだろうか。

ing:Omni , Elaine Casap , chuttersnap