執筆した記事が無断で全文転載されていた。気づけたのは偶然だった。
以前から他サイトのコンテンツを「リライト」する形で、安価に記事を量産するメディアの話を聞くことはあったが、まさか全文そのまま転載されるとは。正直思ってもみなかった。
テキストや画像、イラスト、動画、音楽などあらゆるコンテンツのデジタル化が進むことは消費者にとって有益だ。その一方で、多くのクリエイターが著作権の問題に悩まされている。
そもそも権利者自身で違法利用された著作物を見つけるのに苦労する上に、削除要請をするための証明や手続きを毎回やるのはストレスでしかない。
写真家やイラストレーターなど、自らの作品を販売して生計を立てているクリエイターにとってこれは死活問題だ。
クリエイターの権利保護に老舗フィルムメーカー「コダック」が立ち上がった
この問題の解決に向けて、ある老舗メーカーが2018年1月に新たな構想を発表した。かつてフィルムメーカーの雄として君臨したイーストマン・コダックだ。
一時はデジタルイメージングなど新興技術の普及に乗り遅れ、経営状況が急速に悪化。危機的な状況に陥ったとこともあったが、ここ数年復活を遂げてきた。
コダックが明かしたのは、写真家の権利を保護するための二つのアイデア。ブロックチェーンを活用した画像の著作権管理プラットフォーム『KODAKOne』と仮想通貨『KODAKCoin』だ。
KODAKOneでは写真家が自身の作品をサービス上にアップロードすると、正式な権利者として登録され、プラットフォーム上で権利の管理、運用ができる。
他者にライセンスを付与する際には、KODAKOne上で利用できる独自通貨KODAKCoinを活用。写真家は販売直後にライセンス料をKODAKCoinの形で受け取れるようになる。コダックはこれらの構想を通じ、写真の登録から管理、収益化までをシームレスにサポートすることを目指している。
カギは「パトロール」と「権利手続き」の自動化
冒頭でも紹介した通り、そもそもクリエイター自身が「違法利用に気づけない」ことが多々ある。自分自身で常に世界中のサイトをパトロールするのは不可能であり、かといって業者に依頼するのはコスト上現実的ではない。この悩ましい作業を「自動化」するのがKODAKOneだ。
同サービス は、登録済みの画像が非合法的に使用されていないか、Webサイトを自動で監視し続ける。仮にライセンスなしで使用しているサイトを見つけた場合、写真家が正当な支払いを受けられるようにライセンス処理までを実行するという。(支払いを求めるのか、訴訟を起こすのかなど具体的な処理の内容については明かされていない)
この「ライセンス処理までを実行する」というのがポイントだ。たとえばライセンスを有償で付与する場合、現在はストックフォトサービスが間に入る形で権利手続きをサポート、安全面を担保してきた。
KODAKOneの場合はこれらの手続きをあらかじめブロックチェーン上にプログラムしておくことで、写真の購入や料金の徴収を自動化する。これは「スマートコントラクト」と呼ばれる仕組みだ。
スマートコントラクトは管理者の介入なしに取引を自動で処理する技術。自動販売機や券売機を例に紹介されることが多い。お金を入れてボタンを押せば自動で飲み物やチケットが出てくるように、写真を購入する際に一連の手続きを自動で処理する。
自分自身が写真の権利者であることを証明でき、人力では難しかった不正利用のパトロールも自動化することで権利を保護。ライセンス付与にかかる手間をスマートコントラクトや独自通貨を用いて効率化する。この一連の流れがKODAKOne構想のキモといえるだろう。
ブロックチェーンがクリエイターを救う?
KODAKOneを支えるブロックチェーンは、仮想通貨を支える技術として知られるが、近年は金融以外の領域でも活用する動きが進んでいる。その中にはクリエイターの正当な権利を保護する目的から生まれたアイデアも多い。
たとえばサンフランシスコ発の『Binded(旧Blockai)』はKODAKOne同様、クリエイターが作品の著作権を管理できるプラットフォームだ。Instagramに投稿するような感覚で画像を登録すれば、固有の証明書が発行される。ほかのユーザーが許可なく使用しているようであれば、その証明書を通じて正当な権利を主張できる。
ブロックチェーンは分散型台帳と訳されるように、複数のノード(ネットワークの参加者)が同じ取引データを保有する。そのためデータの改ざんが難しく、ブロックチェーン上に自分の作品を保存しておけば著作権を主張しやすくなる。
そこに上述したスマートコントラクトの仕組みを用いれば、ライセンスの付与や決済取引を自動で決行。余計な中間マージンを取られることもない、効率的に収益をあげられるプラットフォームに進化する。
ほかにも、音楽配信プラットフォーム「Ujo Music」や、アート作品の売買・管理プラットフォーム「Aartlery」のように写真以外の領域でも活用事例が生まれている。
写真家の権利保護を考え続けてきたコダックの挑戦
「コダックは、写真を民主化し、写真家にフェアな形でライセンス供与が行われる道を常に模索してきました。今回の技術は、これを実現する革新的で簡単な方法を写真家コミュニティに提供するものです」
これはコダックの最高経営責任者であるジェフクラーク氏が、KODAKOneの発表に際して残したコメントだ。
クリエイター自らが違法利用された著作物を見つけ出し、権利の証明や削除要請の手続きを毎回行うことは現実的ではない。そもそも本来はそのような作業に時間を使うのではなく、作品を作ることに集中するべきだ。
長年、写真家に寄り添ってきたコダックがブロックチェーンを通じて権利保護に挑戦することは、ほかのプレイヤーには出せない業界への大きなインパクトがあるのではないだろうか。