AmazonプライムやAdobeのソフトウエアなど、商品やサービスの利用期間に対して支払いをする「サブスクリプション・モデル」がアメリカを中心に大きなビジネスの潮流となっている。

従来は新聞や雑誌などに適用されていたこのモデルは、今や食品、日用品、衣料品から教育、金融、娯楽サービスまで、様々な分野に広がっている。

同モデルの成功のカギは「継続性」と「カスタマイズ性」。この性質に着目し、抜け毛対策などのヘルスケアをサポートするサブスクリプション型ビジネスも登場してきた。


継続性のある抜け毛対策を扱うサブスクリプション型ビジネスも登場(Keepsのホームページより)

元グーグル社員が立ち上げた抜け毛対策「Keeps」

American Hair Loss Association(米抜け毛協会)によると、3人に2人の男性が35歳までに抜け毛の悩みを持つという。

大学時代を共にした元グーグル社員のDemetri Karagas氏とSteven Gutentag氏もそのうちの二人だった。彼らはだんだん薄くなる頭を何とかできないかと、便利で効果的でリーズナブルなサービスを探したが、適当なサービス業者が見つからず、結局自分たちで「Keeps」を立ち上げることにした。

抜け毛対策にはホルモン剤や頭部に直接つける外用薬が継続的に使用されるが、この継続性や、各人へのカスタマイズ性がサブスクリプション・モデルの適用につながっている。


元グーグル社員が立ち上げた「Keeps」のホームページ

ユーザーはまず、Keepsの登録ページで簡単なアンケートに記入し、頭部の写真を送る。すると、専門医がこれを診断し、90日分の薬品がパーソナライズされたプログラムとともに送られてくるという仕組みだ。

抜け毛対策には、原因となる男性ホルモンDHT(ジヒドロテストステロン)の生成を抑えるフィナステリドという錠剤や、頭皮につける外用薬ミノキシジルが使われるケースがあり、フィナステリドを服用する場合は1カ月25ドル、ミノキシジルを使用する場合は1カ月10ドルのサブスクリプション料が課せられる。

これらの薬品は薬局で市販されているが、同社のサービスではこれらの料金が約半分と、リーズナブル。個人によって、どちらの薬品が適用されるべきか(または両者のコンビネーションか)は、医師が診断することになる。

プログラムが開始された後、4~6週間後には医師によるフォローアップがあるほか、1回当たり30ドルで、専門医や薬剤師などによるカウンセリングサービスも提供されている。継続が肝要となる抜け毛対策に、サブスクリプション型モデルは最適と言えるだろう。

バイアグラの定期便も、オンラインで医師に相談

Keepsと同様の抜け毛対策のほかに、「Hims」はスキンケア製品やバイアグラのジェネリック版であるシルデナフィルなど、男性専用のヘルスケアをサブスクリプションモデルで提供する。


「Hims」は勃起不全対策用のシルデナフィルを1カ月20ドルで提供(Himsのホームページより)

同スタートアップがターゲットとするのは、抜け毛や勃起不全など、からだの悩みを抱えながらも医師に診てもらうのを躊躇している男性陣。予約をしたり、待合室で時間を持て余したり、医師と不自然な会話をしたりする面倒を省き、簡潔で、安価なサービスを実現した。

例えば、抜け毛対策にフィナステリドとDHTシャンプー、ビタミンの錠剤がセットで1ヶ月38ドル、勃起不全対策のシルデナフィルは1ヶ月20ドル。専門医によるアドバイスも提供されている。

「Roman」も男性用のヘルスケア・サービスをサブスクリプション型ビジネスで提供するスタートアップ。同社も男性が女性に比べて医師の診断を受ける頻度が低いこと、勃起不全を治療する男性の割合がわずか30%であること、バイアグラは80%がオンラインで購入されることなどに着目し、男性がもっと声を挙げて自分のヘルスケアができるような仕組みを考案したという。

同サイトでは、まずは有料(15ドル)で5分間のオンライン診断を受け、IDと写真を送付。その後、ライセンスを持つ医師により処方された薬が1ヶ月毎、または3ヶ月毎に送られてくる。また必要に応じて、専門家のアドバイスが受けられる仕組みになっている。


男性用ヘルスケア専門のRomanのホームページ

カスタマイズが長期契約のカギ

商品やサービスの利用期間に対して支払いをするサブスクリプション・モデルは、既存の商品の新しい販売方法として注目されており、マーケティング先進国のアメリカでは、従来の物販モデルからサブスクリプション・モデルへの移行は、大きなビジネス・トランスフォーメーションの波となっている。

2017年12月19日付の『ハーバード・ビジネス・レビュー』の記事によると、2017年のアメリカにおけるサブスクリプション市場は、BtoCで1100万人規模に達しており、2011年から年率200%の幅で拡大している。同年8月10日付の『Forbes』によると、アメリカでこうしたサービスを利用する顧客は、「ミレニアル世代またはZ世代」「大学の学位を持つ」「リベラル」「女性が61%」「子供の平均年齢が3~5歳」「家計収入が10万ドル(約1100万円)以上」の層だという。

サブスクリプション型ビジネスへの参入は障壁が低いことから、スタートアップ企業が続々と乗り出している。ただ、まだ市場規模が小さく、スケールメリットを享受しにくいほか、顧客を継続的に惹きつけるのが難しく、ビジネスが失敗に終わるケースも多い。

『ハーバード・ビジネス・レビュー』によれば、「My Subscription Addiction」で取り上げられたビジネスのうち、13%が破綻。また、食事の材料をボックスで届けるサービスで一世を風靡した「Blue Apron」は、急成長を遂げたものの契約を解除する人も多く、その成長性に懐疑的な見方が浮上。2017年6月に上場した際には、株価が当初の公募価格から70%下落するという「史上最悪のIPO(新規公開株)」となった。


食事の材料とレシピをボックスで届ける「Blue Apron」は急成長したが、契約解除も多かった(Blue Apronのホームページより)

サブスクリプション・モデルの要は、「継続性」と「使用頻度」。特に継続性は重要で、企業は長期的な視野でサブスクライバー(顧客)との関係を構築しなければならない。オンラインマーケティングの調査会社「Hitwise」のJohn Fetto氏は、成功のカギとして「パーソナライゼーション(個人化)」を挙げている。個々人のニーズに対応し、カスタマイズされた商品やサービスは、継続して利用される可能性が高いという。

こうした意味で、ユーザーが自分の症状に合った処置を継続的に実行する上記のようなヘルスケア・サービスは、サブスクリプション・モデルに最適と言えるかもしれない。もちろん、医療的サービスに伴うリスクは、事業者もユーザーも十分に注意する必要があるが、今後もヘルスケア分野でますますサブスクリプション・モデルの導入が進むことが予想される。

img: keeps , Hims , Roman , Blue Apron

[文] 山本 直子
[編集] 岡 徳之(Livit