世界の7大電子政府「D7」とは? 創設主要国 ニュージーランドに見る、行政サービス電子化の最前線

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2月末、ニュージーランドの首都、ウェリントンで「D5」の閣僚を集めたサミットが開かれた。D5とは「デジタル5」の略で、デジタル化された公的サービスの提供・拡充を目指す5カ国から成るネットワークのこと。今回のサミット開催に際し、さらに2カ国が加盟。これで「D7」となった。

サミットと並行して、D7の創設主要国であるニュージーランド政府は、政府関係者や国内外のデジタル・テクノロジーリーダーを招聘し、「デジタル・ネーションズ2030」も開催。その中で、政府や関連組織が開発した商品・サービスを国内外の関係者に披露し、注目を集めた。

「デジタル権」について協議が行われたD7サミット


D7憲章にサインをするクレア・カラン NZデジタル・サービス大臣とD7加盟国代表
© Department of Internal Affairs

D7の前身であるD5は、政府が熱心にサービスのデジタル化を進める、英国・ニュージーランド・エストニア・韓国・イスラエルの5カ国が参加し、2014年に発足した。相互協力、経験やアイデアの共有を通し、各々の国の情報技術セクターの発展促進を目指している。

今回新たにカナダとウルグアイが加わり、これでD7となった。加盟するには、オープンスタンダード・オープンソース・オープンガバメントなどに努めることを誓った憲章への署名が必要だ。

今回4回目となるサミットでは、「デジタル権」に焦点が当てられ、デジタル世界においてどのようにすれば尊重されるべき基本的人権が保障されるのかを中心に活発な意見交換が行われた。インターネットへアクセスする権利や、ネット上の個人情報の管理権をはじめ、今後AIを活用していく際に考慮すべき倫理問題にまで話は及んだ。

行政サービスのオンライン化が進むニュージーランド

D7の創設メンバーであるニュージーランドは、「デジタル・エボルーション・インデックス(DEI)2017」で、特に「傑出」していると評価された3カ国のうちの1つだ。

DEIは、米国タフツ大学のフレッチャー・スクールによる研究報告、『デジタル・プラネット』で発表される指数で、デジタル・テクノロジーの発展が各国でビジネスにどのような影響を与えているかを示すもの。対象は60カ国で、「供給条件」「需要条件」「制度的環境」「イノベーションと変化」の4つの主要推進要因に大別される、100以上の指標をもとに審査される。

DEIの評価に基づき、対象国は「傑出」「足踏み状態」「勃興期」「留意」の4つの進捗状況にふり分けられる。ニュージーランドがシンガポール、アラブ首長国連邦と並び、「傑出」という高評価を得た一因には、行政サービスの電子化で世界でも指折りという実績がある。パスポートの更新や、所得税の申告・支払いなど、政府と国民間で頻繁にやりとりが行われる10の代表的な事務手続きの70%がオンラインで行われており、向こう数年間でそれはさらに拡充される予定だ。

政府が推し進める、さまざまな分野にわたるデジタル化

デジタル・テクノロジーの進化に正比例し、より便利で、アクセスしやすく、統合された各種行政サービスへのニーズは高まるばかりだ。そのため、ニュージーランド政府は商品・サービスの開発を進めている。

「デジタル・ネーションズ2030」では、そうした14の試みが紹介された。中でも、特にユニークなもの3つを紹介しよう。

●政府の枠組みにとらわれない、国民本位のアプリ――「スマートスタート」

4省庁の協力のもと、開発されたスマート・スタート
© Department of Internal Affairs

一般企業、NGO、市民などの協力を得て、政府省庁が連携し、国民への情報提供を1本化して行おうというのが、サービス・イノベーション・グループによる、「インテグレーテッド・サービス」だ。当面、出産や退職といったライフステージに合わせたアプリや携帯電話用サイトを通じての情報提供ツールの開発に専念する。

現在、運営しているのは、「スマートスタート」というアプリ。間近に子どもが生まれる親を対象とし、プロフィールを設定し、パーソナル化して使う。各人の妊娠の段階に合わせて、やらなくてはならないこと、母子ともに健康でいるためのアドバイス、サポート組織の連絡先などの情報が入手できる。

アプリ上で事務手続きを行うことも可能。出生届の提出や、当事者が承諾さえすれば、新生児の納税者番号の取得、そのとき受給可能な福祉手当の申請といった、複数にまたがる省庁での手続きを一度に済ませることができる。

2016年12月のサービス開始時から、1年間で17万人以上が利用しており、近々、ユーザーの近隣で行われる両親学級や、授乳に関するサポート施設といった情報も加えられる予定だ。

●声なき大衆の代弁者――「バーチャル政治家、サム」

ウェブ上で試みた、サムとの会話

国民の要求、政治家の約束、政治家が提案した政策から国民が得られるもの、それぞれに隔たりがあると感じたことはないだろうか。「バーチャル政治家、サム」はそれをなくそうと創り出された。

人と同じように話し、ふるまうサムは、さまざまな意見を持つ国民の代理人を目指す。サムを支えるのは、データ処理、自然言語推論技術、認知アーキテクチャ、自然言語コミュニケーションといったテクノロジーだ。

その能力は、現段階では、前もって設定された質問に答えるだけに限られている。しかし、代表的なニュースやソーシャルメディアを常にモニターしたり、一般人がフェイスブックなどに自分の考えを書き込み、やりとりをしたりすることで、サムは学習し、国民が気にかけている問題が何なのかを把握できるようになる。

サムの優れた点はいくつもある。例えば、国民がサムと対話するのに、時間と場所を選ばずに済む。また、各人の立場を理解し、考察。偏りのない、極めて平等な結論を導き出すことができる。ウソをつくことも、事実を曲げて情報を伝えることもない。

サムの開発者は、次回の総選挙が行われる2020年までに、サムは国民の代表として出馬できるまでの能力を備えるだろうと予想している。

●テクノロジーを通じ、歴史文化を身近な存在に――イノベーション・ハブ「マフキ」

ジャシンダ・アーダーンNZ首相がマフキの展示を視察
© Department of Internal Affairs

美術館、図書館、文書館、博物館(GLAM)において、最新テクノロジーと、自国の文化や伝統の融合を図るのが、「カルチャー・テック」だ。国立博物館であるテ・パパ・トンガレワ内に設けられた、イノベーション・アクセラレータ・プログラム「マフキ」は2016年、世界に先駆けてカルチャー・テックを実践する施設として創設された。

マフキでは、GLAMが直面する13の課題の解決方法を提示する、2~4人で構成されたチームを毎年公募する。選ばれたチームは2万NZドル(約155万円)の資金をもとに、館内はもちろん、国内外の各分野の専門家のアドバイスを得ながら、4カ月間でアイデアを形にしていく。最後の1カ月では、海外研修も経験する。

2017年には8チームが選ばれた。「モーフ」は、博物館がビジターごとにパーソナル化した経験を提供するにあたっての情報を入手するためのツール。ビジターの行動を分析し、AIを用いてリアルタイムで嗜好を把握し、次の行動を予測する。

ほかには、幅広い年齢層に博物館をより楽しんでもらえるよう、展示にARとゲームを取り入れた「スキミター」、世界中の失われつつある言語を習得するためのツール、「タイド・トーク」、展示にある、歴史上の人物と実際会話をし、その人物や時代をより深く理解するためのデジタル・ポートレート、「ヴァカ・インタラクティブ」などが開発された。

『デジタル・プラネット』で、他の多くの先進国が「足踏み状態」と評価される一方で、立ち止まることなく、常に前進しようという努力を貫いていることが認められたニュージーランド。テクノロジーの進化に伴い、より迅速かつ簡便な行政サービスを求める人びとの要望に応え、今後も省庁間の連携を密にして、商品やサービスのデジタル化を進めていく。

加えて、テクノロジーの導入で、定型業務から解放されたスタッフを、人でなくては対応し切れない、より込み入った事情を抱える国民をサポートする職務に投入するなど、政府内にもたらされる変化にも前向きに対応している。

文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit

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