ニューヨーカーはお酒ではなくジュースではしご? 拡大するノンアルコール市場とミレ二アル世代がコミュニケーションに求めるもの

週末のブランチはミモザとセット、美味しいマティーニを出す店を知っていることは大人としての嗜みーー。

「お酒」はこれまで、常にアメリカの都会文化の一部であり続けたが、それはもう過去のものとなりつつある。近年、ミレ二アル世代の若者を中心に「脱アルコール」のカルチャーが芽生えているのだ。

NYCに突如現れたお洒落な “Bar”、しかしメニューはノンアルカクテルのみ

「Mocktail」とは「模倣する」の意を表す「Imitate / mimic」と「Cocktail」を掛け合わせた造語。つまり、味や見た目はカクテルそっくりだが、アルコール抜きの飲料を指す。今、そのMocktailがアメリカではブームの一つとなっている。

アメリカでは他の先進国と並んで、年々、健康意識が高まっており、オーガニックやグルテンフリーなど食に関するさまざまな選択肢が存在する。同様に、飲み物の選択肢の一つとしてノンアルコールドリンクを求める人が増えてきている。

昨年(2017年)夏、ニューヨーク・ノリータエリアの一角にオープンした “Bar” がお洒落なニューヨーカーたちの間で話題となった。ノリータといえばアパレル店や人気レストランなどが軒を連ねるニューヨーク随一の人気スポット。


「The Drug Store By Dirty Lemon」 (Dirty Lemon公式Instagramより)

キュートなBarの内装は、1920年代にアメリカにあったドラッグストアを模したもの。お洒落に敏感なファッショニスタたちにヒットし、ひと夏限定のポップアップストアは大盛況だった。

しかし、Barと言えどこの店で飲めるのは「ノンアルコールカクテルのみ」。しかもメニューは、レモン風味をベースとしたMocktailに限定。しかもこのMocktailは、飲む人に元気を与えたり、質の高い睡眠をもたらしたり、肌や髪の質を改善したりする成分が配合されている。

種明かしをしよう。実はこのポップアップ、仕掛けたのはウェルネス系ドリンクを手掛けるメーカー「Dirty Lemon」だった。

しかし、地元のバーテンダーたちによるミキシングとレトロでスタイリッシュな店内の雰囲気のおかげで、「いかにも健康ドリンク」といった雰囲気は感じさせない。それに酔っぱらうことなく、健康に気を配りながらもBar特有のコミュニケーションを楽しめる。

はしご酒ならぬ「はしごジュース」もーー活況を迎えるノンアルコールシーン

このように、アメリカ各地で「アルコールフリー」を謳ったイベントが増えている。

ニューヨーク、ロサンゼルス、そして海外の大都市ではロンドンでも2カ月に一度開催されるアルコールフリーイベント「Shine」は、ローカルバンドの音楽や短編映画、グループメディテーション、食事や講演会などを楽しむイベントだ。


アルコールフリーイベント「Shine」(Shine公式ウェブサイトより)

参加者が実りのある会話を通してさまざまなインスピレーションを得て、今後も続く関係を作ることを目的として開催されるShineは、主に20~30代男女に人気。

ボランティアによって運営され、2014年にカリフォルニアで発足し、参加者の数はたった10人のみという非常に小さな規模から始まったこのイベントは、みるみるうちにチケットが取りづらくなるほどの巨大コミュニティーへと成長した。

Shineの他にも、同じくニューヨーク・ソーホーでは「はしごジュース」イベントが開催。ヘッドフォンを装着した50人の参加者が同じ音楽を聴きながら、イベント加盟店のジュースのサンプルを飲み歩くというイベント。

ヘッドフォンから流れる音楽に身をまかせて踊る参加者たちの様子は、クラブで踊る客さながら。しかし彼らが飲んでいるのは、ケールやアボカドなどが入ったヘルスコンシャスなコールドプレスジュース。

さらに他にも、音楽や雰囲気は夜のクラブ同様だが、アルコールの代わりにコーヒーとフルーツジュースがバーカウンターで配られる「朝レイブ」が開催。大手コミュニティーサイト「Meetup」が開催する「アルコールフリーソーシャルネットワーク」の参加人数は1,800人を超えるなど、ニューヨークのノンアルコールシーンは年々盛り上がりを見せている。

ミレ二アル世代がコミュニケーションに求めるモノとは?

ノンアルコールブームは、イギリスでも。象徴するブランドが、ロンドン発のノンアルコールスピリッツ「Seedlip」。


洗練されたパッケージングデザインのSeedlip(Seedlip公式ウェブサイトより)

Seedlipは、ロンドン、ロサンゼルスの高級Bar、レストラン、さらにニューヨーク最高峰のレストランの一つであるEleven Madison ParkやNoMad Hotel内にあるBar、さらにはアメリカ国内のDEAN&DELUCA各店でも販売。ノンアルコールカクテルを楽しむ生活を提唱している。

「ムードを作るのは、アルコールでなく人。すてきな音楽と空間があれば、アルコールなしでも良い時間を過ごすことは可能」ーー。

The New York Times誌のインタビューでそう話すのは、ロンドンに自身2店舗目のBarをオープンするCatharine Salway氏。彼女のBarが店を構えるのはいずれも若者に人気のエリアで、マティーニならぬビーツを使った「beet-o-tinis」、ココナッツを用いた「coco-rita」などのヘルシーなMocktailが目玉メニューだ。

たしかに、お酒の席での会話は、あまり中身がなかったり、翌日には何を話したか覚えていないなんてこともざら。しかし、アルコール抜きなら落ち着いて深い話をすることができ、結果、精神的な充足も得られる。ミレ二アル世代は、心から楽しめる質の高いコミュニケーションにアルコールは必要ないと考え始めている。

日本では、お酒に対するネガティブなイメージから、若者の酒離れが進んできたように見受けられる。しかし今や、健康志向や、心から楽しめる質の高いコミュニケ―ションを交わしたいなど、むしろ「ポジティブな理由」で、積極的にノンアルコールを選ぶ人が増えてきているのだ。

アメリカでは2011年以来、初めてアルコール市場が縮小。対照的に、2016年は9670億ドル規模だったノンアルコール市場が2025年までには1.6兆ドル規模にまで拡大すると予測されている。BBCが選ぶ「2018年のフードトレンド」の一つにMocktailがランクインしていることからも、ノンアルコールは今後ますます一つの「ポップカルチャー」になっていくであろう。

執筆:橋本沙織
編集:岡徳之(Livit

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