日本では「イクメン」という言葉がすっかり定着している昨今であるが、韓国でもここ10年で男性の育児への参加が急速に進み、意識が大きく変化している印象を受ける。街中では、子どもを抱っこしたり、ベビーカーを押して歩いたり、幼稚園や学校の行事や送迎に父親が参加している姿を多く目にするようになった。

ちなみに韓国では、こうした育児に積極的に参加し子どもとの関わりを大事にする男性のことを「デミ族」と呼ぶ。英語の「Daddy(ダディの発音が韓国語的に発音にすると「デディ」となる)」と「Mammy(マミー)」と融合させ「父親役も母親役もこなす男性」という意味から作られた言葉だ。


キャンプを楽しむ親子。

韓国ではアウトドアブームにより各地でオートキャンプ場が増加。このように父親が子どもたちと旅やスポーツなどレジャーを楽しむ姿も一般的となった。

元々、儒教の影響が色濃く残る韓国では、家庭において家長でもある父親は絶対的な存在とされ、女性である母親は父親に従い「家を守り、跡継ぎである子どもを立派に育てる」という意識が今でも高齢者の間では根強い。

「威厳が強くどこか近寄り難い」という韓国の父親のイメージが、「育児に奮闘する父親」として大きく変化しつつあることはとても驚きである。

韓国が抱える切実な「少子化」問題

このような変化の背景には、韓国が抱えている「少子化」という切実な問題がある。

日本以上に少子化が進む韓国では、昨年上半期に出生した乳児の数は18万8,000人(保健福祉部発表)と過去最少を記録した。「一人の女性が生涯に出産する子どもの平均数」を示す合計特殊出生率はこのままでは、やはり過去最低となる1.03人となる見通しだ。

また、かつては三世代などの大家族であったり、母親は専業主婦として家事と育児を一手に引き受けていたモデルケースは、現在では都市部を中心に「核家族化」「共働き世帯」として変化を遂げた。このため、「男女が共に働き家事育児をすること」が家庭を築く上で必要不可欠とされている。

聯合ニュースの報道によると、このような背景から国や大企業が男性に対して積極的な育児の参加を呼びかけたり「育児休暇取得」の推進を行っているとのことだ。

昨年1月に大手財閥系企業であるロッテが「男性育児休職義務化制度」を設けた。韓国の企業で初めての試みとして注目され、これに続き5月にはCJグループも男性の育児休暇取得制度に乗り出した。昨年の韓国での男性による育児休暇取得者は約1万2,000人でこのうちの10人に1人はロッテやCJの社員であったとの統計だ。

国や企業による男性の育児休暇の推進は一見、画期的に見えるものの、現状は大企業に限られている。中小企業からは「うちではとても実施できない」という否定的な声も挙がっていて、すべての企業に浸透させていくことは非常に難しいと言える。それでも、国が未就学児の無償保育や、男性の育児休暇取得を進める背景には歯止めがかからない「少子化」への焦りが感じられる。

イクメンブームの火付け役「スーパーマンが帰って来た」


イクメンブームの火付け役ともなったバラエティ番組「スーパーマンが帰って来た」の一場面より。

子どもたちの純真爛漫な行動とそれに翻弄されながらも奮闘する父親たちの姿が視聴者たちに受けている。

そして、イクメンブームの火付け役ともなったのが、KBSで放送されている「スーパーマンが帰って来た」というバラエティ番組だ。2013年より放送中の当番組はタレントやスポーツ選手といった有名人たちが予告なしに突然、自分の子どもと2日間を過ごし自分の手で育児を行うといったコンセプトである。

子どもとのふれあいは家の中のみにとどまらず、外出をしたり、旅行をしたりと様々である。ハラハラドキドキ感に加え、笑いあり涙ありの演出によるテイスト感はどことなく「はじめてのおつかい」にも通ずるものがあるが、韓国でこの番組が大きな反響と人気を博した背景には「普段見ることができない有名人たちの意外な一面が見られること」、何よりも「男性が育児に関わる」というスタンスが斬新であったからと言えよう。

「スーパーマンが帰って来た」を皮切りに、最近では「父親の育児」をテーマとしたバラエティや教育プログラムが増え、まさに「イクメンプログラム戦国時代」とういう感じだ。

これまでの出演者でも特に注目を集めたのは、元格闘家でタレントの秋山成勲と一人娘のサランちゃん(初出演時2歳)であり、この番組への出演がきっかけとなり、CMモデルを務めるなど一躍人気者となった。

この他にも、映画やドラマで活躍する俳優のソン・イルグクと三つ子や、2002年の日韓共催のサッカーワールドカップで一世を風靡したアン・ジョンファンも子どもたちと出演した。出演メンバーは子どもの年齢や出演者のスケジュールなどにより数クールごとに変わるが、放送6年目を迎える現在でも安定した人気を維持している。

演技や競技で見せる彼らの真剣でクールな表情とは裏腹に、予想外の子どもたちの行動やハプニングの数々に翻弄されている素の表情を見ることができるのが何とも微笑ましくおもしろい。そして、「彼らも家にいれば育児に悪戦苦闘している一人の父親」であるという現実や、「男性育児あるある」的な行動や失敗を目の当たりにして出演者たちに親近感を持つ視聴者も多いのだ。

また、最初はどことなくぎこちない子どもへの接し方が回数を重ねるごとに、表情がやわらかくなり、子どもと共に父親が成長していく過程のようなものが感じられるのも醍醐味と言えよう。

私が韓国に来たのは2002年で今年で16年になる。韓国に来た当初と現在では、教育現場においても父親の育児参加を重視した傾向になっていることを実感する。幼稚園や保育園といった未就学児の教育機関においては父親参加型の「授業参観」や「体験教室」といった行事が設けられている。

また、小学校や中学校では各学期ごとに数回程度、「父母教育」なる講演会が催される。こうした講演会の場でも「父親の家庭での役割」など「父親」を題材とした内容が目立つようになった。

世代間で温度差も

急速にイクメンブームが国を上げて進んでいる韓国であるが、男性の育児参加について世代間でまだまだ温度差があることも否めない。「少子化」の一因ともなっている「結婚」や「出産」の「高齢化」により、40代、50代の父親も多い。

この世代は前述のように「父親が絶対的な存在」という価値観の中で育ってきた。よって、「育児をする父親像」というものが身近になく、育児に対してもまだまだ手探りの状態ながら参加しているという感じが多い。

一方、現在、20代、30代の親たちは、韓国が経済発展を遂げ、多様な価値観が広がり始めた時期に青少年期を過ごしたこともあり、どことなく親子の距離感の近さを感じる。このため、若い父親ほど、育児への参加にも抵抗なく積極的という印象だ。

これでも、世代を超えて、男性が育児に目を向けられるような風潮や環境が整ったことは非常に良い流れではないかと思う。

メディア、企業、教育とあらゆる場において「イクメン」が注目されている韓国ではあるが、これらが創り出してる「父親像」に縛られるのではなく、自分自身のペースで自分ができること、どのように子どもと向かい合うことがベストであるかを見つけ出していくことが、重要ではないだろうか。

日本でもイクメンは今後ますます求められていくことだろう。先述の「スーパーマンが帰って来た」など韓国のアイデアが少しでも参考になれば嬉しい。