まるでRPGのように旅しよう。音声ガイドアプリがもたらす新たな旅行体験

旅先で出合った、息を飲むような迫力の遺跡、目を見張るような建築物、長い時を経ても守られてきた、伝統的な街並み。

観光地に訪れると私たちの多くは、その場所を写真に収め、SNSへ投稿し、そして次の目的地へと気持ちを急がせてしまう。

「その遺跡はどうしてここにあるのか」「誰がどんな目的でこの建築物を建てたのか」「この街で、どういうストーリーが紡がれてきたのか」

旅行者の中で知っている人は、一体どのくらいいるだろうか。

旅のスタイルによって変わる「ガイド」への期待

観光地の歴史や文化を学ぶ手段のひとつに、旅行ガイドがある。既存の現地ガイド、ガイドブック、音声ガイドに加え、最近ではガイドアプリもその一端を担っている。

株式会社JTB総研の2017年のデータでは20~30代の海外旅行者のうち、現地ガイドや添乗員ツアーへの参加は10%にも満たない。

ガイドを頼まない場合、その土地の説明はガイドブックや音声ガイドを頼りにするが、旅行ガイドの多くは1つのスポットにそこまで紙面を割けられない。観光地の写真と行先、概要を簡単に触れるだけで終わってしまう。

旅行先で借りられる音声ガイドについても、単調なテンポで語るスピーカーに合わせて、淡々と進む話を追いかけるだけになる。そのような音声ガイドでは、旅のお供には頼りないだろう。

この状況を打開するべく、まるで映画のナレーションのように観光地の説明が聞ける音声ガイドアプリ「pokke」や、その土地に根付いた物語を文章や音声、画像で紹介し、観光地を“博物館化”するアプリ「on the trip」など、近年では旅行ガイドの形式が多様化し始めているように思う。

今回紹介するアプリ「Nexto」も、一方通行のガイドを抜け出し、インタラクティブ性をもたせた音声ガイドサービスだ。

ユーザーのアクションが求められる観光ガイド「Nexto」

ガイドアプリ「Nexto」は、ミニゲームやクイズ、ARなどを通して、その土地の歴史やストーリーを学ぶことができるサービスだ。

ゲームをクリアしながら旅を続けていくので、まるでPRGの世界に入ったような感覚を味わうことができる。聞くだけ・読むだけだったガイドブックや音声ガイドとは異なり、ユーザーとインタラクティブにその土地を知っていくことを実現している。

一体どのような体験が可能なのか。アプリの内容を詳しくみていきたい。

アプリ内では、各地域でカテゴリが分かれている。カテゴリエリア内にもトピックのあるスポットが点在しており、実際にそのスポットへ赴き、アプリによるミニゲームを交えた“ツアー”がスタートする。

ゲームの種類は様々。解説の後に行われるクイズ、パズルを始め、指定された場所をスマートフォンのカメラで撮影することが課されることも。ARを用い、何年も前の歴史が画面の中でよみがえったように見せるなど、スマートフォン上でできることから実際に出向いて行うものまで多様だ。

ミニゲームでは、正誤比率によってポイントが付与されていく。各スポットのゲームをすべて完了した時に、このポイント数に応じたレベルのメダルを獲得できる仕組みになっている。また、ひとつゲームをクリアするごとに「Virtual Souvenir」と呼ばれるアイテムのロック解除がされていく。

訪れたスポットに対する歴史やストーリーの説明は、チャット形式のUIで行われる。文字、音声に加え当時の様子を映した写真も含まれ、説明が進む。短い単位で都度「continue」ボタンを押しながら進めていくため、自分のペースで次のコンテンツへ進むことができる。

次の目的地に進む場合には、写真のように赤い矢印で示される場合もある。時にはARを用いて、今いるスポットの具体的にどの部分を説明しているのかを示したり、実際に訪れてからでないと説明が始まらなかったりと、受動的に説明を聞くだけでは終わらない。

スポットの説明を聞いた後にクイズやパズルなどのミニゲームで頭を使い、実際に足を運んで課題をクリアし、メダルやアイテムを手に入れていく。ガイドやツアーに参加しているというよりも、まさに冒険をしているような感覚で、その土地を楽しむことができるだろう。

魅力的な点としては、訪れるだけでは何のストーリーも感じなかった観光地が、アプリを通して物語の舞台になってしまうところだ。RPGの要素を取り入れ、ゲーミフィケーションの知見を活かし、観光地の世界観へユーザーを没頭させてくれる。

Nextoは見知らぬ観光地をめぐる旅へ誘う

Nextoは各観光地の文化施設や行政を巻き込みながら、展開エリアを拡大していこうと計画している。現在はスロベニアとベルリンでサービスが提供されており、パリ、プラハ、ローマ、バルセロナなどの都市でコンテンツ制作が進められている。

コンテンツの制作は各観光地の文化施設のスタッフが担い、Nextoはそのブラッシュアップを手伝う。コンテンツの閲覧や利用を有料に設定することもできる。Nextoはその有料コンテンツの売上の一部、アプリのアクティブユーザー数に基づいた月額料金、コンテンツの制作サポート費用のいずれかを文化施設から徴収するというビジネスモデルを想定している。いかに魅力的なコンテンツを作り、ユーザーを集められるかが鍵を握りそうだ。

Nextoの導入は、観光地や文化施設にもメリットがあると考えられる。「Pokemon Go」が、レアポケモンを特定の土地へ出現させることにより、観光客の誘致に成功したように、Nextoは集客装置になり得るからだ。

今はまだ知られていない観光地でも、Nextoのコンテンツでその土地の文化的魅力を引き出すことができたら、外観の美しい「インスタ映え」する観光地だけではなく、歴史的に深みのある場所に訪れる人が増えるだろう。

検索をすれば出てくる景色をめぐる旅では、もう物足りなくなってしまったミレニアル世代にとって、Nextoを片手に冒険へと出発するという旅のスタイルは今後注目されていくかもしれない。

img:NextoPEXSELS

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