大学発ベンチャー(VB)とは、大学の研究機関が開発した技術を事業化する企業のことで、産学連携の一つである。2017年の産学連携は、2016年春に出された「産業界から大学などへの投資を3倍に」という官民合意の目標のもとで、大学発ベンチャー企業への投資や事業提携が相次いだ。

こうしたなか、文部科学省は2017年8月に、国立大学における大学発VBの株式について、長期保有を認める通知を発表した。これにより、新たな収入源の柱として期待できる大学発VBの創出に本格的に注力する大学も出てくるなど、産学連携が転換期を迎えていると言える。

そこで、帝国データバンクは大学発ベンチャー企業1,002社について、経営実態を調査・分析した。さらに、大学発VBの倒産および休廃業・解散動向について分析した。

10社に1社が「東大発」

まず、帝国データバンクによる大学発VBとは

  • 大学で達成された研究成果に基づく特許や新技術・ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立された企業
  • 創業者の持つ技術やノウハウを事業化するために、設立5年以内に大学と共同開発等を行った企業
  • 既存事業を維持・発展させるため、設立5年以内に大学から技術移転等を受けた企業
  • 大学教授や教員・生徒による起業、その他大学と深く関連のある企業

と定義し、調査を行った。

その結果、2018年2月時点での大学発VBは1,002社と判明し、2013年の調査開始以降で初めて1,000社を突破した。創出大学別にみると、最多は「東京大学」の108社となり、10社に1社が「東大発」となった。

2位は「京都大学」(52社)、3位は「東北大学」(51社)と続き、指定国立大学(文部科学大臣が世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれるとして東北大学、東京大学、京都大学」の3法人が指定国立大学法人として指定されている。)が上位を占めた。

一方、私立大学では、「慶應義塾大学」が32社でトップ。以下、「早稲田大学」(18社)、「東海大学」(16社)と続いている。公立大学では、「会津大学」(13社)や「大阪府立大学」(11社)などが上位となった。

本社所在地を都道府県別に見ると、最も多かったのは「東京都」の260社(構成比25.9%)で、2位の「神奈川県」(80社、同8.0%)と比較しても突出しており、約4分の1の大学発VBが東京都に本社を置いていた。

「東京都」と「大阪府」の2大都市圏は前回調査から構成比が減少した一方、「福岡県」や「北海道」など地方では増加がみられ、地方に本社を置く大学発VBの割合が拡大傾向にあるとしている。

「サービス業」、「製造業」、「卸売業」の3業種が9割占める

また業種別にみると、最も多かったのはロボットやAI、ソフトウェア開発、医療・ヘルスケアなどの分野を含む「サービス業」の508社(構成比50.7%)で、「サービス業」は全体の約半数を占めた。

以下、「製造業」(319社、同31.8%)、「卸売業」(132社、同13.2%)と続き、上位3業種で全体の9割以上を占めている。

業種細分類別に見ると、トップは「受託開発ソフトウェア業」の119社(構成比 11.9%)、2位は研究開発した特許やノウハウを提供する「技術提供業」(69社、同6.9%)、3位は「パッケージソフトウェア業」(38社、同 3.8%)となった。

総じてIT関連業種が上位にあがり、ロボットやAI開発などを手がける企業がこうした業種で多くみられた。

また、創薬分野を含む「医学・薬学研究所」(31社、同3.1%)や「医薬品製剤製造業」(21社、同2.1%)、外科手術訓練シミュレータの開発といった「医療用機械器具製造業」(12社、同1.2%)など、バイオ・ヘルスケア分野の業種も上位となっているという。

2016年の売上高合計は過去10年間最高の2,327億1,900万円

2016年(1月期~12月期決算)の大学発VBの売上高合計は前年比 14.2%増の2,327億1,900万円となり、過去10年間で最高となった。また、リーマン・ショック直後の2009年(1,181億9,600万円、同0.3%減)を除く9年間で前年比増加が続いているほか、2016年の売上高合計は2007年(1,053億1,200万円)から2倍超の規模となっている。

大学発VBの売上高動向をみると、2016年は全体の50.3%で「増収」となった。

また、2016年における売上高動向を業歴別にみると、特筆すべきは業歴「5年未満」部分の「増収」が79.3%を占めていることだろう。積極的な販路拡大、業容拡大を図る企業が設立直後の大学発 VB では多く、売上高の増加が見込みやすいためこのような結果となっていると見て取れる。

そして2000~16年の過去17年間に設立された大学発VBのうち、設立後に当期純利益で1回以上黒字化した596社をみると、設立後初めて黒字化するまでの年数が平均で5.1年(中央値は4年)となっている。

さらに大学発VBのうち、全体の9割以上を占めた3業種(製造業・卸売業・サービス業)のなかでは、サービス業が最も早く黒字化する傾向にあり、4.9年となった。

設立後初めて黒字化するまでの年数は、設立後2年目に黒字化した企業が最も多く、19.1%を占めた。次いで多かったのは3年目の18.6%となり、設立後3年以内に黒字化を果たす企業が約4割を占めた。一方、設立後10年超を経過して初めて黒字化を果たした大学発VBも7.7%にのぼったという。

2016年の「倒産」は7件。1負債総額は8億300万円

次に大学発VBの倒産動向をみてみよう。倒産は法的整理(負債1,000万円以上)を対象に集計した。それによると、2017年の倒産は前年比28.6%増の9件発生した。2年連続で前年を上回り、単年で過去最多だった2014年に次ぐ水準となった。

負債総額は同801.7%増2億4,100万円と、前年より大幅増加となり、単年では2000年以降最大となった。また、2016年の「倒産」は7件判明しており、16年の負債総額は同75.7%減の8億300万円となっている。

過去5年間の大学発VBの倒産要因をみると、最も多かったのは「マーケティングの失敗」が16件。事業環境の急変などにより売上計画が破たんするなど、事業が軌道に乗らなかった倒産が多数を占めた。

2位は「資金繰り悪化」の13件だった。高い技術力を誇っていたものの、研究開発費用などの先行投資負担が重く赤字計上が続いていたケースや、新工場や機械設備の投入など積極的な投資で過大な有利子負債を抱え、資金繰りに窮し、自力での事業継続が困難となったことが原因となっている。

次いで、研究成果が商品化・事業化に至らず事業継続を断念したケースのほか、経営の根幹をなす代表者の高齢化・不在などが要因となった倒産がみられた。

また、休廃業・解散動向をみると、2017年は12件判明し、前年比7.7%の減少にとどまっている。2016年は13件判明し、過去最高の2014年に並ぶ規模だ。背景には、研究開発が難航したケースや、研究成果の商品化に必要な資金を調達できず、事業継続を断念したケースなどがみられたとしている。

今後も存在感を増す大学発VB。課題は経営人材の不足

現在、テクノロジーの進化には目を見張るものがある。これからも次々に新しいテクノロジーや技術が開発されていくだろう。それにつれて、事業化する大学発VBの数も増え、その存在感も増していく。

しかし、そこにはもちろん課題もある。今回の調査でみえてきた「マーケティングの失敗」や「資金繰り悪化」など、起業存続のための根幹が確立できていないために倒産する企業も多いことだ。

技術が優れていることだけで事業の成功はありえないため、優れたマーケターや資金調達を行える経営人材の確保が今後の大学発VBにとって重要な課題といえるだろう。

img; 帝国データバンク