現在いったんの落ち着きを見せている仮想通貨市場だが、この数カ月「高騰」と「暴落」による乱高下で連日多くのメディアを賑わせた。

現在、先日までの仮想通貨のような急騰を見せている市場がある。北米の「合法マリファナ市場」だ。1月26日付けのブルームバーグは、カナダのマリファナ関連企業の株価が急騰したことで、時価総額がカナダのマリファナ市場全体を上回ったと報じている。


急騰するカナダのマリファナ関連企業の株価(2018年1月26日時点)

現在北米や欧州では、医療用に加え娯楽目的のマリファナの合法化が進んでおり、今後市場はさらに拡大すると見込まれている。また、「ウィードテック」と呼ばれるスタートアップにも注目が集まり始めている。

資金と人材が集まる欧米のマリファナ市場。いったい何が起こっているのか。マリファナ市場の現状と可能性についてお伝えしたい。

投資家から注目が集まるカナダのマリファナ企業

ブルームバーグが伝えたカナダのマリファナ企業とは、医療用マリファナを生産するキャノピー・グロースとオーロラ・カナビス。この2社の株価はともに1年で約3倍上昇し、時価総額がそれぞれ60億カナダ・ドル(約5300億円)に到達。2017年にカナダ全体でのマリファナ消費額57億カナダ・ドルを上回った。上記の株価チャートはオーロラ・カナビスのもの。

カナダでは2001年に医療マリファナが合法化されていたが、昨年11月にマリファナの娯楽利用を合法化する法案が可決されたことが最近の株価急騰の要因になったと見られている。カナダのジャスティン・トルドー首相は、2015年の選挙でマリファナの娯楽利用合法化を公約に掲げており、その公約を果たした形となる。

マリファナ娯楽利用に関する法律が施行されるのは2018年7月1日の予定。販売方法や年齢制限については州政府が独自に規則を定めることになるという。

こうした流れに後押しされ株価が急騰するキャノピー・グロースとオーロラ・カナビスとはどのような企業なのか。

キャノピー・グロースは、2014年に設立されたカナダ・オンタリオ州に拠点を置く医療用マリファナ企業。連邦政府の認可を受け、かつ株式市場に上場したマリファナ企業としては北米初という。

同社はマリファナを広大な敷地の屋内で栽培しており、データ活用、自動化などテクノロジーを活用した生産体制を敷いている。米国の有名ヒップホップシンガー、スヌープ・ドッグ氏と提携するなど、認知活動にも力を入れている。現在は娯楽用マリファナの生産に向け、栽培拠点の拡大を急いでいる。


キャノピー・グロース社のウェブサイト

一方、2013年に設立されたオーロラ・カナビスはアルバータ州を拠点としている。同社のマリファナ栽培拠点はカナダでもっとも生産効率が高いと評されている。2018年1月24日には、競合であるカンニメド・セラピューティクスを12億3000万カナダ・ドルで買収することで合意したと発表。カナダのマリファナ市場では過去最大の買収額になる。

この2社を含めカナダのマリファナ企業は医療用マリファナの生産を拡大してきたわけだが、すべてが国内消費向けではなく、輸出も行っている。ドイツでは国内で販売される品種の多くをカナダからの輸入に依存しているといわれている。

米国、マリファナを合法化する州が続々

カナダのように連邦政府レベルで合法化されているわけではないが、米国では州レベルで医療・娯楽用マリファナの利用を認める動きが顕著になってきている。

20年前カリフォルニア州で医療用マリファナが米国国内で初めて合法化され、それ以降30州が医療用または娯楽用でのマリファナ使用を認める法律を制定してきた。

直近では2018年1月23日、バーモント州で娯楽用のマリファナ利用が合法化されたとしてCNNなどが報じている。娯楽用の利用が認められた州は、バーモント州で8つ目となる。

米国ではもともとマリファナの合法化には否定的な意見が多かったが、この数年肯定派が着実に増え、最近のトレンドを後押ししていると考えられる。

2017年10月に発表された、マリファナ合法化に関するギャロップの世論調査では、肯定派の割合が64%と過去最高となった。この調査は1969年から実施されているが、第1回目の調査では肯定派は12%しかいなかったのだ。しかしその後、2000年代から肯定派が顕著に増え始め、2012年以降は50%以上を記録してきた。

ギャロップはこの調査結果について、米国ではマリファナの合法化と同性愛結婚の合法化についてほぼ同じような世論の動きがあると指摘している。2004年、同性愛結婚を認めていた州は1つだけであったが、2015年には全州が認めるようになった。このまま行くとマリファナも全州で合法化される見込みがあるということだ。

マリファナに対してなぜこのような認識の変化が起こったのだろうか。知識の普及、世代の変化、価値観の変化などさまざまな影響を受けていると思われる。そのなかでも『Weed』というCNNドキュメンタリーが世論を大きく動かしたという指摘もある。

このドキュメンタリーは、難病ドラべ症候群に苦しむ幼児とその症状を緩和した医療用マリファナの効果についてのエピソードが描かれている。ドラべ症候群とは1歳前後の幼児に見られるけいれんを繰り返す病気で、てんかん発作を合併する危険性をはらんでいる。頻繁に起こる発作のため成長が遅れてしまうこともあるようだ。

このドキュメンタリーによると、ありとあらゆる治療法を試したが効果がなく、最後の手段として医療用マリファナを使ったところ、週300回も起きていた発作が週1回にまでおさまったという。

世論の変化に伴い、合法化され利用が広がっていくマリファナ。米国の合法マリファナ市場規模は現在80億ドル(約9000億円)だが、2021年までには226億ドルと3倍近く伸びると見込まれている(Arcview Market Research調査より)。

市場の拡大を見越して「ウィードテック」と呼ばれるマリファナ関連のスタートアップへの投資も少しずつ勢いを増している。2017年11月には、マリファナ販売プラットフォームを提供する「リーフリンク(LeadLink)」がシリーズAで1000万ドル(約10億円)を調達したとして注目を浴びた。同年3月にはシードラウンドで300万ドルを調達している。


リーフリンク社のウェブサイト

このほかにもマリファナ栽培者向けアプリ「GrowBuddy」や自動栽培ボックスを提供するLEAFなどもウィードテック企業として注目を集めている。

合法化の流れのなかで拡大し始めた欧米のマリファナ市場。今後市場のニーズを汲み取った革新的なプロダクトやサービスが登場してくるはず。今後の動向に注目していきたい。