おそらく、ITの恩恵を受けていない仕事はすでに存在しないのではないだろうか。職人と呼ばれるモノづくりに関わる職業だとしても、すでにマッチングサービスがあったり、EC市場に店舗を構えているところもあることだろう。
このようにデジタルトランスフォーメーションにより、世界はその市場の動きと、新しい可能性を生み出し続けている。
では、デジタルトランスフォーメーションは実際に経済や社会にどのような影響を与えていくのだろうか。
日本マイクロソフト株式会社は、マイクロソフトとIDC Asia/Pacificがアジア15カ国・地域の1,560人のビジネス意思決定者を対象としたデジタルトランスフォーメーションに関する調査 “ Unlocking the Economic Impact of Digital Transformation in Asia ”の結果を発表した。
アジア経済全体でデジタルトランスフォーメーションが劇的に加速
調査では、アジア経済全体において、デジタルトランスフォーメーションが劇的に加速することを予測している。
デジタルトランスフォーメーションは2021年までに、日本のGDPを約11兆円、年間成長率を0.4%増加させると推測される。加えて2017年には、GDPに占める割合は約8%に過ぎなかった、モバイル、IoT(モノのインターネット)およびAI(人工知能)といったデジタルテクノロジーを直接活用した製品やサービスが、2021年までに6倍以上の約50%へと到達すると予測している。
日本からは150人が回答しており、デジタルトランスフォーメーションによる効用を以下のとおり答えている。
- 利益率向上
- コスト削減
- 生産性向上
- 生産・運用時間の短縮
- 顧客獲得時間の短縮
調査によれば、2020年までにこれらの利点について効果があると回答した企業では、少なくとも80%以上の向上がみられ、利益率の向上とコスト削減においては110%の効果が得られるとみている。
リーディングカンパニーはフォロワーより2倍の恩恵を
アジア太平洋地域の企業の79%がデジタルトランスフォーメーションの戦略を策定しているという結果が得られた一方で、「リーディングカンパニー」に分類される企業は7%にしか過ぎない。
「リーディングカンパニー」とは、全社的、あるいは展開中のデジタルトランスフォーメーション戦略があり、収益の3分の1以上をデジタル製品とデジタルサービスから得ている企業を指す。
さらにこれらの企業は、デジタルトランスフォーメーションの取り組みにより、生産性、利益率、売上、顧客ロイヤルティにおいて最大30%の改善効果を得ており、その48%が、プロセス、人材、サポートシステムにおいても成熟度の高い総合的な戦略を推進しているという。
調査では「リーディングカンパニー」が「フォロワー」と比較して、デジタルトランスフォーメーションにより2倍の恩恵を受けていることを示しており、2020年までにこの効果の差はさらに顕著になると予測している。
また「リーディングカンパニー」とその他の「フォロワー」の間には、
- 破壊的テクノロジへの関心
- ビジネスの俊敏性とイノベーション文化
- 定量的な評価
- デジタルトランスフォーメーションの課題認識
- AIとIoTへの投資
以上のような差異があることを示している。
IDC Asia/Pacific Research Director Digital Transformation Practice Lead ダニエル ゾー ヒメネス(Daniel-Zoe Jimenez)氏は
「デジタルトランスフォーメーションのペースは加速しており、IDC は、2021年までに日本市場の成長が、デジタルで強化された製品、サービス、業務、リレーションによって推進されると見ている。
調査では、リーダー企業が生産性、コスト削減、顧客ロイヤリティの点で追従者と比較して2倍の効果を上げていることが明らかになった。」
とコメントしている。
また、組織文化にデジタルトランスフォーメーションの波に乗る能力がある「リーディングカンパニー」には、以下の傾向があることが判明している。
- リスクを許容し、「fail-fast、learn-fast(失敗を受け入れ、素早く学ぶ)」アプローチをとることが多い
- コラボレーションや俊敏性の成熟度が高く、目標達成のために「サイロ(縦割り型組織)」を解消している
- 全社的な意思統一を図っている
- 全社的なガバナンスと意思統一のために、デジタルトランスフォーメーションの推進に焦点をおいた専任の役員(CDO)が存在し、独立事業部あるいは各事業部の代表からなるバーチャル組織を構築している
- リソースの最大化とガバナンスの確保のため、恒久的な組織としてデジタルトランスフォーメーション部門に予算を割り当てている
今後3年間に職業が変革される
一方、社会への影響はどうだろうか。
調査からは、デジタルトランスフォーメーションが社会に対して以下の3つの主要な利点を提供するとの結果が得られた。
- よりスマート、安全で効率的な都市
- 健康状態の予測と管理の向上によるヘルスケアの強化
- 高付加価値の職業の創出
さらに、回答者の75%が、今後3年間にデジタルトランスフォーメーションによって職業が変革され、現在の雇用の約半分が高付加価値の職種に再配置されるか、デジタル時代のニーズに合致した形で再教育されることになると考えているという。
日本マイクロソフト株式会社 代表取締役 社長 平野拓也氏は
「デジタルトランスフォーメーションの進展による労働市場の変革により、多くの職種が変化するだろう。失業に対する懸念もある。回答者の58%が自社の従業員が既に将来に備えたスキルを有しており、新しい仕事への移行が可能になっている。」
とコメントしている。
では企業が「リーディングカンパニー」になるためには、どういう戦略で展開すればいいのだろうか。これについて、マイクロソフトは以下の戦略を推奨している。
- デジタル文化の育成
- 情報エコシステムの構築
- マイクロ革新(マイクロレボリューション)の推進
- AIの活用など将来に備えたスキル育成
今まで述べてきた通り、今後のデジタルトランスフォーメーションは企業に大きな恩恵をもたらす可能性が極めて高い。その「リーディングカンパニー」に食い込むためには、愚直にこのような施策を行なっていく必要があるかもしれない。
デジタル時代のニーズにどうこたえるかが生き残りのカギ
今回の調査で、今後デジタルトランスフォーメーションによるビジネスや社会への大きな変革が訪れることは想像に難くない。
それに伴い、「働き方改革」も進められており、さらにデジタルネイティブであるミレニアル世代が社会の中心として台頭してくるという状況もある。
社会が変わればニーズも変わる。それは当たり前のことだが、そこを読み解き、ニーズを先読みできる企業が勝ち残っていくのはどの時代でも不変だ。それがデジタル分野であるからこそ、専門的な知識も必要になる状況は増えていくため、外部との協力関係が今まで以上に必要になり、フリーランスなどの人材の適材適所を行える企業がその突破口を開くのかもしれない。
企業にはデジタル時代のニーズにどう応え、新しい在り方を産み出せるかが問われていくのだ。
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