「次のエストニア」はどこか? 盛り上がるバルト三国のスタートアップシーン【連載:電子国家エストニア】

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「世界最先端の電子国家」と呼ばれるエストニア。Skypeが誕生したことでも知られており、ITスタートアップ関連の情報がさまざまなメディアに取り上げられることが多くなってきた。本連載では少し視点を変えて、スタートアップ文化を育むエストニアの周辺環境・要因について紹介していきたい。

世界最先端の電子国家として、日本でもさまざまなメディアが注目するようになってきたエストニア。特にSkypeが誕生した国として、スタートアップシーンへの関心が高い。

しかし、スタートアップ熱が高まっているのはエストニアだけではない。同じバルト三国であるラトビアやリトアニアもエストニアに続けと猛進している。

今回はそのラトビアとリトアニアのスタートアップを取り巻く状況をお伝えしたい。日本ではまだあまり報じられていないバルト三国スタートアップシーンの盛り上がりを感じてもらえるはずだ。

バルト三国、ラトビアとリトアニアの猛追

バルト三国はエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト海に面した3カ国を総称する呼び名。近代まではそれぞれが異なる歴史を歩んできたとされるが、近代以降、特にソ連からの独立前後に強く連携するようになった。リトアニアが1990年に、エストニアとラトビアが1991年にソ連から独立を回復した。

現在、3カ国ともに高所得国とされており、3カ国平均の1人あたりGDP(購買力平価)は3万ドル。ちなみに日本は4万ドルほど。人口はリトアニアがもっとも多く約290万人、ラトビアが約200万人、エストニアが約130万人。国土は3カ国合わせ17万平方キロメートルと日本の半分ほど。3カ国とも欧州連合加盟国で、通貨はユーロだ。


バルト三国と日本の国土比較(Googleマップより)

エストニアは独立後早い段階からデジタル化戦略を推し進め、IT人材開発やスタートアップエコシステムの構築に力を入れてきた。そうした取り組みの成果が近年になって一気に開花したといえるだろう。

ラトビアやリトアニアは後発となるものの、エストニアに触発され急速にスタートアップエコシステムを構築している。

ラトビアにおいては2016年末、スタートアップ誘致を加速させるための特別法案が採択された。これによりスタートアップ向けの減税などを通じて、多くの企業を呼び込む構えだ。また、域内で有力なSEB(スウェーデンの大手銀行)やDNB(ノルウェー最大の金融会社)がオペレーションセンターを設置するなど、ラトビアはバルト三国における金融ハブとしてのポジションを確立している。このような背景もあり、FinTech分野で急速な成長を遂げるスタートアップも少なくない。

一方、リトアニアでも今年1月に金融関連の法規制が改訂され、FinTechスタートアップが新たな金融サービスを実験的に提供できる「サンドボックス」フレームワークが登場した。リトアニアが、スタートアップのなかでも特に金融分野に力を入れる理由は、寡占状態の同国の金融市場に競争をもたらすためだ。同国の金融市場では、エストニア同様に北欧の銀行大手、SEB、DNB、Swedbank(スウェーデンの大手銀行)が市場のほとんどを占めている状態だ。

このようにラトビアとリトアニアではスタートアップを支援するという政府の姿勢が明らかになっており、多くの起業家や投資家の関心を集めている。

ラトビアで注目のスタートアップ

ラトビアでもっとも注目されるスタートアップの1つが、2011年に設立されたP2Pファイナンスサービスを提供する「Creamfinance」だ。Inc誌が発表している「欧州急成長民間企業ランキング」2016年版では、4542%の成長率で総合2位、金融部門1位にランクインした。

Creamfinanceは、機械学習アルゴリズムによる独自の信用評価システムを活用し、ピアツーピアでのローンサービスを提供。従業員200人以上を抱え、本国ラトビアに加え、ポーランド、チェコ、グルジア、デンマーク、メキシコ、スペインの7カ国でサービスを展開している。


ラトビア発FinTech「Creamfinance」(Creamfinanceプレスキットより)

同じくP2Pファイナンスサービスを提供する「TWINO」にも注目が集まっている。2009年に設立され、ラトビア、デンマーク、ポーランド、ジョージアなどでサービスを展開。2015年から開始した投資マーケットプレイスでは、ドイツや英国などから6300人以上の投資家を集め、これまでに1億ユーロ(約134億円)以上のトランザクションボリュームを生み出している。2017年中には2億ユーロに到達する見込みだ。


「TWINO」(TWINOウェブサイトより)

このほかにも、大学卒業生から寄付金を集めるプラットフォーム「Funderful」、人工知能を活用した契約書作成自動化サービス「Juro」、オンデマンドプリントサービス「Printful」など多くのラトビア発スタートアップが国内外の投資家から注目を集めている。

リトアニア発の注目スタートアップ

リトアニアもラトビアに負けず、さまざまな注目スタートアップが立ち上がっている。

「Vinted」は世界1200万人のユーザー数を誇る中古アパレルマーケットプレイスだ。2008年に設立され、現在、リトアニア、米国、英国、ドイツ、フランス、スペインなど10カ国でサービスを展開している。


「Vinted」(Vintedウェブサイトより)

世界最大規模の3Dモデルマーケットプレイスである「CGTrader」もリトアニア発のサービスだ。100万人以上のユーザー数を抱え、3Dモデルは100カ国以上で販売されている。リトアニアのベンチャーキャピタルだけでなく、インテルからも資本調達している。


「CGTrader」(CGTraderウェブサイトより)

2012年に設立されたFinTechスタートアップ「TransferGo」にも注目が集まる。デジタルアカウント間の送金サービスを低コストで提供しており、現在欧州を中心にユーザー数を増やしている。利用できる国は現在45カ国。欧州だけでなく送金需要の高い香港、インド、フィリピンなどアジアの一部でも利用できる。


「TransferGo」(TransferGoウェブサイトより)

世界経済フォーラムが「欧州・起業家精神の高い国ランキング」を発表し、その1位にエストニアがランクインしたことで同国のスタートアップシーンに一層の関心が寄せられるようになった。

しかし同ランキングにおいてラトビアが3位、リトアニアが7位だったことにも留意すべきだろう。バルト三国は総じて起業家精神が高く、世界市場を狙う野心あふれるスタートアップが次々と生まれているのだ。今後の展開が非常に楽しみである。

img: Creamfinance , TWINO , Vinted , CGTrader , TransferGo

【連載】電子国家エストニア

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