「オタク」がカルチャーとして定着してから久しい。

日本の行政は「クールジャパン」を掲げ、積極的に日本のオタク文化を海外に向けて発信しようと努めてきた。

「オタク」は日本だけの存在ではない。世界各国で独自の文化・コミュニティを形成しており、各々に市場を確立している。

オタク市場におけるデジタル取引ニーズの到来

あなたは漫画、ゲーム、アニメキャラクターグッズが売買される「コミケ」に興味はあるだろうか? オタクの聖地である秋葉原でよくみられるコレクターグッズが取引される大展示会だ。

日本のオタク市場の分類は多岐にわたり、正確な市場規模を表すデータはないが矢野経済研究所が発表したデータによると2017年度のアイドル市場は前年比12.3%増の2,100億円規模に至るという。

仮にアイドル市場が全オタク市場の5%を占めているとすれば、アイドルの他にアニメ・漫画・ライトノベル・フィギアなどを含めた全市場規模は約10兆円規模と予測できる。2014年度に総務省が発表したデータによれば、コミック市場は4,955億円、ゲームソフト市場が1.2兆円を占めているため、妥当な数値といえるのではないだろうか。

日本で巨大な規模を誇るオタク市場であるが、アメリカでも賑わいをみせつつあり、スタートアップの参入も見受けられる。

アメリカには秋葉原のようにオタクが集う場所はないが、「コミケ」に代わるイベントは開催されている。毎年カリフォルニア州サンディエゴで「コミコン」と呼ばれる海外のオタクが集まる大規模イベントが催されている。

「コミコン」に代表される北米コミック・グラフィック小説市場は2016年度で約10億ドル(約1,100億円)に達した。2011年対比で40%、2015年対比で5%の市場成長率を誇る。(数値はこちら

この数値だけを見ると、まだまだアメリカのオタク市場の規模は日本と比べると小さいように思えるが、同市場にデジタル取引の波がやってきているトレンドは見逃せない。

オンラインゲームで購入するグッズや絵文字ステッカーのように、バーチャルで楽しみ、取引されるデジタル・オタクグッズ市場は150億ドル(約1.6兆円)にも及ぶと指摘されている。

ちなみに日本が同市場の約15%を占めているとすれば、2,250億円の市場を保有していることになる。これは日本のアイドル市場に匹敵・もしくはそれ以上の大きさがあり、高いポテンシャルを感じられる。

市場は1.6兆円規模。6,000万以上のデジタル・オタクグッズを取り扱う「Quidd」

ニューヨークのブルックリンに拠点を持つ「Quidd」は、デジタルキャラクターのカード、ステッカー、3Dトイグッズを取引するマーケットプレイスを提供するスタートアップだ。著名投資ファンド「Sequoia Capital(セコイア・キャピタル)」がリード投資の形で入っている。昨年1,300万ドルの資金調達を行い、デジタルオタクグッズ取引市場で名の知られるスタートアップに近年成長した。

「Quidd」上で仮想コインを購入することで、約3〜40ドル(約340〜4500円)の値段幅でお気に入りキャラクターのデジタルグッズを購入できる。特徴的なのは、ユーザー同士でグッズ交換できる点だ。ユーザーはトレードを行うことで自分好みのカードを効率的に集めることができる。「Quidd」としては、コミュニケーションを促進させる狙いがあるのだろう。

すでに大手コンテンツレーベル「Marvel(マーベル)」やケーブル放送局「HBO(エイチビーオー)」と提携をしており、取り扱うコンテンツ幅は非常に広い。このような提携先を持つことでこれまでに6,000万のデジタルグッズと500万回のトレードが発生したという。また、7ヶ月間で取り扱いデイリーアイテム数は14倍にまで急成長したとも報じられている。

ミレニアルズが求めるのはデジタル・コレクションの場

周りに一人や二人は、鉄道模型やフィギュアをコレクションする人がいないだろうか。実際、世界のおもちゃ市場(デジタルコンテンツを除く)は800億ドルに至る。

ミレニアルズはデジタル上でのグッズコレクションを好む傾向にあると言える。「Quidd」の創業者は『AlleyWatch(アレーウォッチ)』で次のように語っている。

「Quiddユーザーの70%が(フィジカルな)ステッカー・カード・おもちゃを買ったことのない人たちです。そして、デジタルグッズコレクターとしては不釣り合いだと思われていたミレニアルズの女性ユーザーたちも多く含まれています。私たちは従来、カードやアクションフィギア交換を行っていた男性のコレクターだけでなく、幅広い(ミレニアルズ)層が持つ潜在的な(オタク)グッズコレクションニーズを満たす体験をデジタル上で提供することに成功しました。(Michael Bramlage氏)」

筆者は大学時代を北米で過ごしたのだが、同じ寮にいた友人にオタクがいた。グッズ販売するお店は都心に行ってもほとんどないし、あるとしても「Target」や「Walmart」、「GameStop」のような大手小売店に売れ筋商品しか置いていない。

そのため、授業時間を除き、1日中チャット上の誰かと楽しく話しながらゲームをしていた。つまり、チャット上でできた友人とストーリーや戦いを進めていくなかでデジタルグッズを購入する機会の方が、フィジカルなグッズを購入する回数より圧倒的に多いのだ。

この経験から、アメリカ人の若者の一定数は部屋に篭ってキャラクター集めに奔走している印象を持っている。オタクグッズのコレクション市場にデジタル化の波が来たことにも合点がいく。

「コミコン」はまだ廃れてはいない。しかし、それ以上の早さでデジタルグッズ市場へのニーズが高まっているのだ。男性のみならず、ミレニアルズ世代の女性も積極的に参加できる仕組みを作り、性別を問わずオタクグッズのコレクション体験を万人に提供する戦略とUX策定をおこなったのは「Quidd」が優れたインサイトを持っていたからこそであると認められる。

「Quidd」はオタクが抱えるデジタルニーズに初めて応えた大型スタートアップであるといえるだろう。

Img : Jason Persse, Gage Skidmore, Quidd, Pat Loika