デロリアンが映画に登場した訳
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ2作目に登場した空飛ぶ自動車「デロリアン」。もしかすると映画の中だけでなく現実の世界にも登場するかもしれない。今回はデロリアンの歴史を紐解くとともに、最新版である空飛ぶデロリアンを紹介したい。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場したデロリアンは、銀色のボディと未来的なデザインが特徴的なスポーツカーだ。モデルの正式名称はDMC-12。
このデロリアンをつくったのは、ジョン・デロリアン氏。1975年にデロリアン・モーター・カンパニー(DMC)社を立ち上げ、DMC-12の開発を開始した。ジョン・デロリアン氏は、DMC社を立ち上げる以前はゼネラル・モーターズ(GM)に勤め、自動車の開発に従事。シボレーなど多くの人気モデルの開発に携わった。1972年GMを辞め、DMC立ち上げの準備にとりかかった。
DMC−12のデザインは、フォードのステンレス・スティール・セダンからインスピレーションを得たものといわれている。
1981年からDMC−12の販売が開始されたが、販売台数は当初予想していた1万台を大きく下回る6000台ほどとなり、翌年には倒産してしまう。さらに追い打ちをかけるように、ジョン・デロリアン氏は麻薬売買の容疑で逮捕されてしまう(のち裁判の末、無罪となっている)。
そんな苦境に立つジョン・デロリアン氏に、DMC−12を映画の中でぜひ使いたいという話が舞い込んだ。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の脚本を担当したボブ・ゲイル氏が、DMC-12の未来的な姿が映画にマッチすると考えたのだ。
映画はご存知の通り大ヒットとなり、DMC−12は1980年代を代表する自動車となった。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ1作目が公開されたのは1985年。このときすでにデロリアンの生産は終了していたが、DMC倒産後デロリアンの設備を取得したスティーブン・ウィン氏が、修理用パーツの供給だけでなく、新車の組み立ても行っており、熱狂的なファンは新車のデロリアンを購入することが可能であった。また、ウィン氏は社名とロゴを使う許可を得て、DMCの社名のもと現在もサービスを続けている。
映画の世界を現実に、「デロリアン・エアロスペース」の空飛ぶ自動車
ジョン・デロリアン氏は2005年に死去したが、彼の甥であるポール・デロリアン氏がイノベーションスピリットを受け継ぎ新たな挑戦に取り組んでいる。ポール・デロリアン氏は2012年、デロリアン・エアロスペース社を立ち上げ空飛ぶ自動車の開発を開始したのだ。
デロリアン・エアロスペースが開発するのは、全長約6メートル、電力を動力源とする2人乗りの垂直離着陸機「DR-7」。現在研究開発段階で、これまで小型モデルで実験を行ってきた。今後は実際にひとが乗れるフルスケールのプロトタイプで実験を行う計画だ。
3分の1スケール「DR-7」(デロリアン・エアロスペース社ウェブサイトより)
想定される飛行距離は約200キロメートル、最高速度は明らかにされていない。自動飛行システムの搭載も検討されており、そうなれば飛行ライセンスなしで乗れるようになる。
Uber Elevateなどの空飛ぶタクシーとは異なり、コンシューマープロダクトとして販売することを計画しているという。POPULAR MECHANICS誌の取材で、ポール・デロリアン氏は、販売価格を30万ドル(約3300万円)以内に抑えること、そして5年以内の販売開始を計画していると述べている。
ポール・デロリアン氏は、ジョン・デロリアン氏同様にGMに勤めていた経験を持つ。GMではキャデラックなどのデザインに携わっていたという。GMを辞めた後は、おもちゃメーカーのマテルでレーシングカー・トイのデザインを担当。その頃から空き時間を使い、通勤など日々のさまざまシーンを想定した空飛ぶ自動車のコンセプトを考えていたという。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』2作目には、空飛ぶ自動車が飛び交う未来の街が描かれている。「DR-7」が登場すれば、現実の街も映画の街のようになっていくのだろう。DMC、そしてデロリアン・エアロスペースのこれからの動向に注目していきたい。