国際空港で乗り継ぎの時間が3時間あったとしたら、何をしたいだろうか。商品ラインナップが変わり映えしない免税店で買い物か、それとも市内よりも割高なレストランやバー、カフェに入って一息つくか。ラウンジを利用しない一般旅行客にとって、空港でできることはかなり限られている。
買い物も食事もしたくない、長時間フライトでしびれた脚を休ませたい、機内音で疲弊した耳を静寂で守りたい、という人々に対して、空港も解決策を提供するようになってきた。
筆者も国際線を定期的に利用するが、最近改装された世界の国際空港では、休みたい、リラックスしたいという旅行客のためのリクライニングシートが増えている印象を受けている。脚を伸ばせるシートに、スマートフォンやラップトップを充電できる電源があるものだ。
そんなリラックススペースをさらに進化させたものが空港に登場した。先日、ヘルシンキ空港で3時間ほどの乗り継ぎの際に、居心地の良い場所を求めながらターミナルをさまよっていたら、”それ”を発見した。静まり返った一角には、簡易な睡眠スペース「スリープポッド」が数十台並んでいたのだ。
ヘルシンキ空港でスリープポッドを体験!
ターミナルの中でも特に人通りの少ないエリアに置かれていたせいか、利用率はざっと見たところで2割程度と少なかった。だが、癒しを求めていた私にとって、まさに救世主だった。
このスリープポッドは、一般的なシングルベッドサイズほどの革のクッションをベースにした非常にシンプルな作りだ。
サイドにはUSB電源と一般の電源があり、上のカバーを引っ張れば「ふた」をして暗くすることもできる。上部のカバーには空気孔があり、通気できるようになっている。
実際に使ってみたところ、個人的には特に圧迫感を感じることもなく、暗い場所で横になって眠れるという機能を享受できた。周囲の人の声が時折聞こえたので、防音性には改善の余地があると思ったが。とはいえ、このスリープポッドは試験運用中なのか無料で利用できたので、とてもありがたかった。
このスリープポッド「GoSleep Pod」を開発しているのは、ヘルシンキの企業 GoSleepだ。ヘルシンキ空港以外にも、北京やエストニアのタリン、羽田、アムステルダム、アブダビなど、さまざまな国際空港と提携をして、提供拠点を広げているようだ。
今回試したのは非常に簡易なスリープポッドだが、より機能やサービスを充実させたスリープポッドも世界の空港には登場し始めている。
ロンドンに拠点を置くYotelという企業が提供するのは、ポッド型というよりも、小さな仕切られた部屋にベッドやテレビ、電源などが備わっているミニホテル「Yotel Air」だ。アムステルダム、ロンドン、パリなどの空港で4時間75ユーロ(約1万円)で提供している。
米国発のMinute Suitesも、同様のコンセプトで旅行者がリラックスしたり、快適に睡眠がとれたりするスペースを提供している。アトランタやフィラデルフィアなど米国で4つの空港で展開している。価格も1時間42ドル(約5,000円)と強気な設定だ。
こうした空間に余裕がある睡眠スペースだけではなく、カプセルホテルに近いものも登場している。izZzleepという企業がメキシコシティの空港で提供しているのは、日本人の多くがイメージするカプセルホテルに近い。内部には電源やテレビが備わっており、 1時間8ドル(約900円)から利用可能だ。
睡眠エリアや映画館… どんな空港が求められている?
国際空港のターミナルにあるものといえば、免税ショップかレストラン、フライトを待つ旅行者のための座席、そして会員向けのラウンジぐらいだった。だが、それらは人々が空港に対して求めているものと本当にマッチしているのだろうか。
数年前にフライト検索エンジンを開発するSkyscannerが1万人の旅行客を対象に行ったアンケートによると、「空港にあったら嬉しいもの」として回答者の36%がスリープポッドと答えてる。
ちなみに1位は49パーセントで「映画館」。その他、上位には図書館、公園、パウダールーム、子供の遊び場、ジムといったものが並んだ。こうした「あったら嬉しいもの」にあふれた空港は、なんだか楽しそうだ。
旅行者のニーズに応えるように、新しいアイデアを取り入れようとしている空港も徐々に増えているようだ。米国の首都ワシントンD.Cにあるワシントン・ダレス国際空港の当局は、今年8月に「空港内でフライトの待ち時間に眠る、リラックスできる、仕事ができるような静かで快適な場所」についての提案を募集していることを発表した。
365日24時間利用可能な1,300スクエアフィートものスペースが、その開発対象となる。「旅行者がホテルの部屋や同様のプライベートなエリアで経験するような雰囲気に近いものでなければならない」とのことだ。
こうした新しいコンセプトを掲げる空港も出てきている今、空港の役割は徐々に多様になりつつある。空港は座って待つ、買い物をする、食べるだけではなく、パワーナップをとったり、リラックスもできる場所へ。未来の空港での過ごし方には、まだ様々な可能性がありそうだ。