「Jリーグのランキング」と言われれば、チームの勝敗をもとに順位を割り出したランキングを思い浮かべるだろう。だが、近年スポーツにおけるデータ分析や活用が注目される中で、サッカーでも新たなランキングが登場している。
Jリーグチームのビジネス成績を分析し、スポーツビジネス市場の活性化を狙う
一般的に、サッカーは90分(前半後半各45分)の試合を行い、勝ったら3点、引き分けなら1点、負けたら0点として、リーグ戦が終了した時点で、勝点合計の多いチームが上位となる。勝点が同じ場合には、得失点差、総得点数なども考慮されて、順位付けが行われる。
一般的なゲームに勝つための戦略を練ることを「フィールド・マネジメント(FM)」と呼ぶ。だが、今回紹介するランキングは、もう一つの指標――「ビジネス・マネジメント(BM)」に注目したものだ。同指標は、経営戦略やマーケティング等のビジネス面からJリーグチームの価値を測ることを目的としている。
欧州では既に、BMのようなデータの分析・活用は始まっているが、日本での活用はこれからの段階だ。データをスポーツチームのマーケティングや経営に活かすことで、スポーツビジネスの活性化が期待される。スポーツビジネス市場が盛り上がれば、市場に回る資金でFM面の強化につながるだろう。
BMを構成する4つのKPIとは?
チームにとってFMとBMはどちらの指標も高いことが望ましい。だが、現実はそうはいかない。今回読み解いていくランキングは、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(以下DTFA)が分析・発表したものだ。
Jリーグから公表された53クラブの2016年の財務情報から、マーケティング・経営効率・経営戦略・財務状況の4つをそれぞれのステージに分けて数値化。全クラブの「ビジネスランキング」を発表している。
2016 年のBM ランキングは、J1は浦和レッドダイヤモンズ、J2はレノファ山口FC、J3は栃木SCがそれぞれ第1位だった。
独自に設定しているKPI(重要業績評価指標)は以下の通りだ。
- マーケティング:平均入場者数、スタジアム集客率、新規観戦者割合、客単価
- 経営効率:勝点1あたりチーム人件費、勝点1あたり入場料収入
- 経営戦略:売上高・チーム人件費率、販営費100万円あたり入場料等収入、グッズ関連利益額
- 財務状況:売上高、売上高成長率、自己資本比率
上記KPIに基づいてリーグ別にランキングに応じたポイントを付与し(J1の第1位は18ポイント、J2の第1位は22ポイント、J3の第1位は13ポイントで、順位が1つ下がるごとに1ポイント減らす)、最終的に4つのステージの累計ポイントによってランキングは算出される。
また、BMポイントが同率の場合、マーケティング、経営効率、経営戦略、財務状況の順で順位が上のクラブを、上位クラブとして算出している。
Jリーグチームの強さと収益性は関連している?
では、サッカーチームの強さと収益性に関連はあるのだろうか。強いチームは収益的にも成功しいるのだろうか。
J1で1位を獲得した浦和レッズは、「マーケティング」では4位だが、「経営効率」「経営戦略」でともに1位、「財務状況」は2位という安定した成績。好成績を牽引した要因は「安定した入場者数」(浦和は3万8208人、J1平均は1万8057人)だといい、それが多くの「スポンサー収入」や「グッズ関連利益額」(浦和は2億7600万円、J1平均は8300万円)につながっている、とDTFAは分析している。強さと数字が連動している形と言っていいだろう。
J2で1位を獲得したレノファ山口は、「マーケティング」は2位、「経営効率」「経営戦略」「財務状況」はともに1位となった。レノファ山口は2014年にJFLに加入してから、J3、J2と順調に昇格しており、それがBM面にも影響を与えているようだ。J2の場合も強さと収益性が連動していると言える。
DTFAはレポートの中でこうまとめている。
「データ分析とチームマネジメントという組み合わせはビジネスとの親和性が高く、現在発展途上のスポーツビジネスという領域を大きく発展させる有効なツールであると考えられる。クラブチームにとって、BMとFMは経営の両輪であり、この両輪のバランスをいかに整えるかは非常に重要なテーマです」
「サッカー」を考える上では、どうしてもFMにばかり目が行きがちだ。しかし、サッカーというスポーツが持続的に繁栄していくためには、BMの視点でJリーグを分析することも大切だ。Jリーグにおけるデータ分析が一般化することで、さらなるJリーグの発展が期待されるだろう。
Img : Peter Glaser, Pascal Swier