これからは「信用情報」も国を越える。移民起業家が世界4,000万人を越える移民のために作ったサービスとは

一人暮らしを始めてから6回ほど引っ越しをした。物件の探し方や手続きにはだいぶ慣れたが、いまだに毎回緊張するのが「審査」だ。

「自営業は審査が厳しい」といわれるが、フリーランスになって以来さまざまな審査でやたらとドキドキするようになった。

確かに大家さんの立場で考えれば、収入が不安定な人に部屋を貸すのはリスクでしかない。入念に審査をするのは当然のことといえるだろう。

「信用度を示す指標」は国境を越えない

賃貸に限らず、クレジットカードの作成やローンの申請など、さまざまな場面に審査はつきまとう。カード会社や金融機関、不動産会社にとって大切なのは、結局のところ相手がどのくらい信用できるかということだ。

日本では収入証明書など自分の支払い能力を示す情報に加えて、連帯保証人の情報をもとに相手の信用度を判断する。一方アメリカではそこに「クレジットスコア」という独自の指標が加わる。

これは過去の支払い履歴などを数値化した偏差値のようなもの。カードやローンの審査だけでなく、就職などさまざまなシーンで重宝される「個人の信用度を示すスコア」だ。

ただこの指標には一部の人にとって大きな不都合があった。現代では国境を越えた移動が活発にもかかわらず、クレジットスコアは国境を越えられないということだ。国ごとに信用度の測り方は異なるため、自国では信用度が高いような人であっても、アメリカに行けばゼロからスコアを作っていかなければいけない。

現在アメリカには移民が4,000万人以上暮らしている。彼ら彼女らにとっても、そしてカード会社やお金の貸し手企業にとっても、このクレジットスコアは課題となってきている。

移民の起業家が作った、国境を越えるクレジットスコア

自国で蓄積してきた信用を、国境を越えて活用できないか——。そんなチャレンジをしているの「Nova Credit(ノバ・クレジット)」という企業だ。同社は各国の信用情報機関と連携し、国を超えて個人の信用情報を参照できるシステムを開発している。

具体的にはカードやローンの利用履歴や公共料金などの支払い履歴、過去の審査履歴、クレジットスコアといった情報をNova Credit Passport として顧客企業に提供。カード会社や金融機関などはCredit Passportをもとに、移民の信用度を評価する。

たとえば、このシステムによって大きなメリットを受けるのが米国の大学に通う留学生だ。住居の選定から奨学金の申請、日常生活で活用するクレジットカードの作成、就職試験まで留学生がクレジットスコアを必要とするシーンは多い。

Nova Creditはスタンフォード大学に在籍していた3人の共同創業者が立ち上げた会社。そのうち2人は進学をきっかけに移住してきたメンバーで、自身もクレジットスコアの問題に悩まされた張本人だ。

2017年時点でアメリカの大学・大学院に通う留学生の総数は100万人を超え、この数値は前年よりも増えているというデータもある。彼ら彼女らにとって、信用度を示すことのできるスコアがあるかどうかは大きな意味を持つだろう。

金融機関にとっても旨味のある4,000万人のマーケット

Nova Creditは信用調査機関と同様に、金融機関などデータを必要とする企業に対して課金をするモデルだ。そのためカード会社やお金の貸し手となる企業にとって価値がないと成立しない。

その点これまで開拓できていなかった、4,000万人を超える「移民市場」にアプローチできるのは企業にとっても新たなチャンスといえる。特に有名大学に通う将来有望な学生や高度な技能を持つ「H-1B」ビザの保有者、商用ビザを持つビジネストラベラーなどは企業からしてみれば是非とも接点を持ちたい層だろう。

実際「H-1B」ビザを持つ外国人労働者の平均所得はアメリカ人労働者より50%高いというデータや、2014年以降毎年600万人以上に「B-1/B-2」ビザが発給されているというデータもある。

Credit Passportのプロジェクトは2015年にスタートし、まずは毎年2,000万人の移民を送り込んでいるというインドとメキシコからの移民に集中。現在はそこにカナダとイギリスも加わっている。現時点ではこの4カ国からの移民でないと使えないが、今後エリアを拡大していく予定だ。

世界共通のスコアは生まれるか?

ビットコインなどの仮想通貨は「特定の国に属さない」ことが大きな特徴だ。受け入れる国と対応する店舗が増えれば、わざわざ両替する必要なく、国を超えて同じように使うことができるようになる。

それと同じように、個人の信用度も今後は国境を超えて使えるものが生まれても不思議ではないだろう。

またこれからのことを考えると、何を持って信用度を測るのか。その基準も従来のものとは変わってくる可能性もありそうだ。たとえば少し文脈は異なるが、時間を売買できる「タイムバンク」ではTwitterやFacebookなどSNSのアカウントをもとに、個人の影響力を偏差値として数値化することで話題になった。「VALU」もSNSのフォロワー数が評価額となる

どこの国に行っても通用するクレジットスコアは生まれるのか、そしてそれはどんなデータを基に算出されるのか。今後注目していきたいテーマとなりそうだ。

image : Nova Credit, pixabay

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