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ここ数年、中国からの観光客が家電量販店などで日本製品を“爆買い“をする様子を見たことがある人は多いだろう。
2015年新語・流行語大賞では「爆買い」が大賞を受賞している。だが、「爆買い」はリアル店舗に限った現象ではない。最近ではECを通じた「爆買い」が盛り上がりつつある。
楽天やクルーズも参入し、盛り上がる越境EC市場
インターネットが登場する前、海外の商品を手に入れることは難しかった。旅行のついでに購入するか、現地の代行業者に依頼するくらいしか方法がなかったのだ。
しかし、インターネットの普及により、自国にいながら海外のECサイトで商品を購入できるようになった。こうした、海外のユーザーをターゲットにしたECを「越境EC」と呼び、普及の兆しを見せている。
数ある国の中でも「中国」は、中間階級の増加や、安全性の高い海外製品へのニーズが高まったことにより、少し多くお金を支払ってでも海外の製品を手に入れたいという消費者が登場した。これらの理由から対中国市場向けの越境ECは成長している。
日本企業としても、需要が先細りする日本市場ではなく、需要の拡大が見込める中国市場に販売できる越境ECは魅力的だろう。
過去に楽天やZOZOTOWNが中国へ進出したものの撤退したが、楽天は再度「JD Worldwide」に出店したり、アパレルECを展開するクルーズも中国向け越境EC事業に進出したりと、再び市場が盛り上がっている印象だ。
対中国の越境EC市場規模は3年で約3倍に
経産省のレポートによると、2016年には中国向け越境EC市場が1兆366億円を突破し、2013年から約3倍の規模に成長している。
2013年時点ではアメリカ向け越境ECの市場規模の方が中国向け越境EC市場よりも若干大きかったが、2016年時点ではアメリカ向け越境ECの市場規模は6156億円と、中国向け越境EC市場の半分以下と大きく差をあけられてしまった。
なぜ中国向け越境EC市場は成長しているのだろうか。そこには2つの理由がある。
1つは、中国人の消費が拡大し、海外製品へのニーズが高まったことだ。約30万人の子どもが健康被害を訴えた「汚染粉ミルク事件」が2008年に発生するなどの理由から、安全性の高い海外製品へのニーズは強まっていた。
事業構想の調査によると、2014年4-6月期と2015年4-6月期を比較した時に、アジア各国の中で香港の旅行消費額が前年比+85.3%だった。一方、同一期間における中国の旅行消費額は+219.4%も伸びている。
2つ目は、中国でスマホが本格的に普及し、インターネットショッピングの環境が整ったことだ。博報堂DYグループ・スマートデバイス・ビジネスセンターが2013年に上海などの大都市で、10年以上在住、世帯月収40,00元(約68,000円)以上20,000元(約140,000円)以下の15~59歳男女のスマートフォンユーザーに向けて実施した調査によると、スマホ普及率は93.1%にも達している。
他にもビザ発給の基準が緩和され、日本で様々なモノに触れる機会が増えたこと。ベンチャー資金が中国のスタートアップに流れた結果、大手インターネット企業に留まらない多くの企業が越境EC市場に参入し、急速な市場の発展に貢献したことが挙げられる。
中国ECモールはTmallとJDの寡占市場
中国のB2CのECを牽引しているのが、Tmall(ティーモール)とJD(ジェーディ)である。
JDは1998年、Tmallは2008年にAlibabaグループにより設立された企業。両者が大きく異なるのは、買い切り型とモール型のどちらを採用しているかという点だ。買い切り型とは、先にメーカーから商品を購入してネット上で販売する形式、モール型はメーカーに対して出店の場を提供する手法である。
JDは現在はモール型も提供しているが、日本のAmazonのように買い切り型を採用している。Tmallは楽天と同じくモール型である。
中国で定期的にECの調査を行っている中国电子商务研究中心によると、2017年のB2CにおけるECのシェアはTmallが50.2%、JDが24.5%と2社で74.7%を占めており、上位5社を含めるとシェアは90.7%にまで達する。
中国のB2CはTmallとJDによる寡占市場で、中国向け越境ECではこの2社でいかに稼ぐかが大事であることが、上記の数字よりわかるだろう。
日本から越境で中国に売ろうと思ったときの手法
中国向け越境ECを始めるにはどのような手法があるのだろうか。インターネットを活用して海外に商品を販売する方法は次の6つに分類できる。海外で開催される日本製品向けのイベントに参加する手法などもあるが、ここではインターネットを活用した販売手法を紹介する。
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- 自前でECサイトを構築する
- 中国ECモールへの自前出店
- 中国ECモールへの委託出店
- 中国ECモールの越境ECカテゴリーへの出店(在庫は日本)
- 中国ECモールの越境ECカテゴリーへの出店(在庫は中国)
- 国内モールの海外販売機能の利用
自前でECサイトを構築する
自前でサイトを構築する際の最大のメリットは、ECモールに出店手数料などを取られないこと。自分たちが望む商品の見せ方を行えることだ。
ECモールはそれぞれ商品ページの見せ方が決まっており、あまり自由が利かない。自社でサイトを構築すれば、カスタマイズができる。だが、エンジニアリングのリソースを確保しなければいけなく、負担は大きい。
加えて、外資企業が中国でECサイトを開設するには大きなハードルが存在する。商品を販売するには、ICP(Internet Content Provider)の申請が必要になるからだ。ICPとは中国政府が実施しているWebサイトの審査制度で、中国サーバーで公開される全てのWebサイトはICP申請をしなければならない。中国内資企業による取得も大変困難と言われる。
日本では商品名やブランドをGoogleなどの検索エンジンで検索するが、中国ではTmallやJDなどの各モールのアプリから検索することが一般的だ。自社サイトから直接購入する文化は日本ほど浸透していない。
これらの理由から自社サイトを中国で構築して、商品を販売するのは相当困難であると考えられる。
中国ECモールへの自前出店
中国ECモールに自前で出店するためにはICP申請は不要だが、中国で法人を設立する必要がある。中国越境EC支援を行うエフカフェによると、会社登記、資本金、オフィス家賃、人件費など初期費用で約3,000万円かかる。
新しく法人を設立するのではなく、既に中国で法人を持ち、生産・販売を行っている企業が新たなチャネルとして中国ECモールを活用する時にこの手法が採用されることが多い。一部の商品を日本から輸入するが、基本的には中国国内で手に入れた商品を中国ECモールでも販売するという手法である。
新しく法人を設立し、中国ECモールに出店することはハードルが高いのが現状だろう。
中国ECモールへの委託出店
中国ECモールへの委託出店ならば、中国で法人を設立する必要はない。委託会社の日本の指定倉庫に出荷する手法で、出店者のリスクも少ない。
だが、デメリットもある。急な注文に対応できなかったり、複数企業を受託する分、仕分けに時間がかかり、消費者への商品の到着が遅れることがある。商品がどれだけ売れそうかを把握するためのテストマーケティングの手法として「委託出店」は活用されることが多い。
中国ECモールの越境ECカテゴリへの出店(在庫は日本)
中国ECモールの中にある越境ECカテゴリに出店し、在庫は日本で管理する手法があり、これは「直送モデル」と言われる。
この手法であれば、日本法人での出店が可能であり、商標も日本で取得していれば問題ない。代表的なモールには、Tmallが運営する「Tmall Global」とJDが運営する「JD Worldwide」がある。
消費者が商品の購入後に発送するので、事前に中国の倉庫に発送するよりもリスクが少ない。一方で、商品の発送から到着まで約10日間かかり、個別に発送するため配送費用が高くなり、出店者と消費者双方にとってデメリットとなることが多い。
課税があまりされないことから、これまで直送モデルでの越境ECは多かった。2018年から実施予定の新制度からは、直送モデルでも輸入許可書が求められるようになる。2016年1月からEMS(国際スピード郵便)の料金が 300円~500円引き上げられたことを考えると、直送モデルでの販売は縮小していくだろう。
中国政府の大きな目的は、課税を避けられる代理購入と直送モデルを無くし、それらに課税すること。そう考えると、直送モデルは今後政府による取り締まりが厳しくなっていくだろう。
中国ECモールの越境ECカテゴリーへの出店(在庫は中国)
中国ECモールの中にある越境ECカテゴリーに出店し、在庫は中国で管理する手法がある。これは「保税モデル」と言われる。この手法も、日本法人での出店が可能であり、商標も日本で取得していれば問題ない。
保税モデルのメリットは、事前にECモールで販売する商品を中国に発送しておけることだ。税関を通して保管するので、消費者からの注文から到着まで最短2日で届けられる。
JDは最短の場合、午前発注、午後到着を可能にする物流網を一部の都市では既に展開しており、消費者は注文から到着までの短さを重要視していることが伺える。筆者の周りの中国人でも早く到着する体験を重視して、JDでよく買い物をするようになったという声を最近はよく聞くようになった。
到着までの時間が短いことは、事業者側にとっては競争優位となる。在庫を抱えるリスクはあるものの、データ分析によりある程度の需要は予測できるため、中国で本格的に越境ECを行うことを決めた事業者はこのモデルを利用することが増えるだろう。
中国政府も課税を実施できる保税モデルは都合がよく、今後も保税モデルを推奨していくと考えられる。
国内モールの海外販売機能を利用する
「Rakuten Global Market」など日本国内のモールの海外販売機能を活用して、販売する方法もある。
最も手軽に越境EC市場に参入できる手法ではあるが、後述するように中国のB2C市場はTmallとJDの寡占市場であり、2社に商品がないとなると、消費者に発見されることは大変難しい。
まだ伸びる対中国越境EC市場で必要なこと
中国向け越境ECのポイントは、JDが主導する「6/18」やAlibabaが主導する「11/11」など大型キャンペーンでチャンスを逃さずいかに売り上げを伸ばせるかだ。
11/11はAlibabaが2009年から始めたネットショッピングの日である「独身の日」だ。2017年の11/11のGMVは1682億元(約2兆8594億円)に達した。6/18はAlibabaの11/11に対抗して、JDが始めたネットショッピングの日である。2017年6月1日から18日までで、176億米国ドル(約1兆9712億円)のGMVに達した。
中国で越境EC支援を行うコンサルティング会社unbotによると、これらの大型キャンペーンで年間売り上げの40%を占める企業もあるそうだ。
今後日本企業が中国向け越境市場に参入するにつれて、キャンペーンの時期のみに広告を打つだけではシェアの獲得が難しくなってくる。
中国版TwitterのWeiboや、チャットアプリのWeChatを使用して情報を継続的に発信し、自社のポジショニングを明確にしていく必要がある。
ビッグデータ解析を武器にWeiboなどのSNSでトレンド・口コミを分析し、情報提供からマーケティング戦略の立案まで行う中国トレンドExpressなどのコンサルティング会社や、上述した販売代行会社もSNSの運用代行サービスを提供しているので、それらを活用するのもいいだろう。
自社商品を理解した上で中国マーケティングを行える社内人材の育成が中長期的な競争優位に繋がってくる。Weiboを使ったSNSマーケティングを手がけるFindJapan株式会社は中国デジタルマーケター育成講座を展開しており、活用するのも1つの手段だ。
中国電子商務研究中心によると、2017年上半期の中国ECで商品を購入したユーザーは5.1億人である。約13億人いる人口を考えると、非購買層(自身で購入が難しい若年層やECへの接触機会がない層)を考えたとしても、中国市場はまだまだ大きな可能性をもっている。
乗り遅れたと思った方も一度検討されてみてはいかがだろうか。
img: Shoplist, Tmall, JD, pixabay,rawpixel.com,Hannah Rodrigo