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ライフスタイルの多様化に伴い、柔軟な働き方を望む人が増えつつある。新たな選択肢としてフリーランスを検討する人も多いようだ。
今年3月にクラウドソーシングを手がける「ランサーズ」が発表した「フリーランス実態調査2017」によると、全国の20〜69歳の働く男女のうち、フリーランスは17%を占める。その数は昨年度比で5%も増加し、1,122万人に上った。
人数が増えるにつれて、フリーランスが活躍できる業種も増えている。上記の調査では、職種で2番目に多かったのは経営企画や人事、経理を含む「ビジネス系」であり、ITやクリエイティブ系、士業系を上回った。
従来の調査ではITエンジニアや翻訳、通訳の割合が多かったが、今後はビジネス系職種のフリーランスも増えていくのかもしれない。筆者の周囲でもマーケティングやPRなどの職種で仕事を請け負う人も多い。
進まないフリーランス活用、その原因とは?
一方、数が増えているにも関わらず、企業におけるフリーランスの活用は進んでいない現状がある。経済産業省の調査では、およそ47.6%の企業が「現在活用しておらず、今後の活用も検討していない」と回答した。
理由としては「費用対効果が不明」が28.2%と最も高く、「技術・ノウハウ・機密情報等の流出懸念」が23.3%と続いた。
さらに「適切なフリーランス先が見つからない/相談相手がいない」や「活用領域が限られており、効果が小さい」「個人への契約締結に対する不安(社会的信用力の不安)」がそれぞれ17%となっている。
リクルートワークス研究所が発表した機関レポート『フリーランスがいる組織図の描き方』では、企業がフリーランスを活用するうえでの課題を踏まえて、どのような施策を採るべきかが紹介されている。
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授の高橋俊介氏は、日本企業がフリーランスを活用しようとしたとき、「うまく仕事が切り出せない」という悩みにぶつかることを指摘する。雇用している社員の多くが仕事内容や役割を限定しない「無限定正社員」であるためだ。
さらに、無限定正社員しか部下に持ったことがないマネジャーは、勤務時間中であればいつでもどんな仕事でも部下に回すことができた。部下が拒否できない「日本型人事の序列性」のなかでは、適切なマネジメント能力が育っていないと高橋氏は指摘する。
こうした序列は発注を“する側”と“される側”の間でもみられる。高橋氏によると、企業側が発注相手に「なんでもやります」といった態度を期待しがちである点も、プロとしてのフリーランスと企業が対等な関係を結ぶ上で障害になり得る。
なぜ今、企業はフリーランスを活用すべきなのか?
いくつもの壁があるにも関わらず、なぜフリーランスの活用を進める必要があるのか。
前述のレポートでは慢性的な労働人口の減少、特に専門的なスキルを持つ人材の不足が指摘されている。IT分野の高スキル人材ほど「一つの企業に束縛されるのを嫌って独立したり、フリーとして働いている」傾向があるうえに、彼らを正社員雇用するには高額な報酬が必要だからだ。
さらに高橋氏は、ビジネスモデルの「擦り合わせ型」から「組み合わせ型」への変化を指摘し、“勝てる”ビジネスをつくるためにもフリーランスの活用が不可欠である理由を紐解く。
「擦り合わせ型」は暗黙知を共有した人々が“あ、うん”の呼吸で改善を繰り返すモデル、「組み合わせ型」はその時々で最も優れたアイデアとスキルを持つ人が、個々の責任範囲内でベストなものを作るモデルを指す。
高橋氏は今後ビジネスを成長させる上では、後者の「組み合わせ型」のビジネスモデルが不可欠であると説く。企業が目指すゴールを最短距離で達成するためには、「正社員にできるかどうか」にこだわらず最適な人材を配置しなければ、変化の波に乗り遅れてしまうためだという。
人事・秘書・経理等の事務作業をオンラインでサポートするサービス「CasterBiz」を運営する株式会社キャスター代表取締役の中川祥太氏は、以前にAMPのインタビューで「組織から雑務をなくすことで注力すべき業務が見えてくる」とも話していた。「いかに属人性をなくすオペレーションを構築するか」といった指摘は、これらの変化の波を知るためにも併読しておきたい内容といえる。
“穴埋め”ではなく“新しい価値を生む人材”としてのフリーランス
レポートでは企業がどの領域の仕事をフリーランスに任せるべきかについても言及されている。高橋氏は「自社の競争優位性の源泉となる領域、すなわちコアコンピタンスにかかわる仕事」でなければ、基本的に何でも任せて良いと考えている。実際に米国の生命保険会社では、セールス以外の業務は商品開発にいたるまで外部に委託している例もあるそうだ。
もちろん無理にコアコンピタンス以外を削ぎ落とす必要はない。同レポートでは、目標達成において欠けている領域を指す「ミッシングピース」を見定めることで、高い成果が期待できるという。
例えば「株式公開や人事制度改革など、1つの企業で一度きり、あるいは、数年に一度しか発生しないような業務」において、自前で人材育成をするよりもフリーランスの活用を検討した方が生産性の向上が期待できるという。
また、フリーランスの活用によって社内では提供できない高度な人材育成を行うこともできる。レポートに登場したエッセンス株式会社代表取締役の米田瑛紀氏は、「フリーランスの営業マネジャーが加わることで正社員の営業メンバーのスキルがアップした」と成果を示した。
企業側には不足した人材を補うだけではなく、会社に新たな価値をもたらす人材として、フリーランスを捉える必要があるだろう。
「雇用」ではなく「信頼」によって結ばれるパートナーシップ
政府が推進する「働き方改革」によって、大手企業を筆頭に残業時間の削減や有給の取得が推進されている。
しかし、労働人口の減少が続き、専門的なスキルを持つ人材が柔軟な働き方を求める昨今、「発注する側あるいは雇用する側が上」という旧来の関係性を再定義しなければ、優れた人材の確保はますます難しくなる。
レポートでは、企業がフリーランスを雇用する際は「相手の力が必要であるという敬意」を持って対等な関係を結ぶ必要があると強調している。こうした意識の転換は個々の社員との関係づくりにおいても重要になるはずだ。
これから企業が成長を遂げるうえでは、社内外問わず「信頼」によって対等な関係性を築く努力が不可欠になっていくだろう。
img:経済産業省, リクルートワークス研究所