時速300キロの空飛ぶタクシー「Lilium Jet」

「Ehang 184」や「Volocopter」などマルチローター型のドローン技術をベースとした空飛ぶタクシーの開発が進むなかで、別の進化を遂げようとする空飛ぶタクシーが存在する。電動ジェットエンジンを搭載するドイツ発の「Lilium Jet」だ。

Lilium Jetは、36機の小型電動ジェットエンジンを推進力とする乗り物で、垂直離着陸だけでなく、マルチローター型では難しい高速飛行を可能にし、最高速度は時速300キロメートルに達する。電動ジェットエンジンの電力消費はマルチローター型に比べ90%抑えられるため、300キロ以上の飛行距離を実現できるという。ちなみにEhang184の巡航速度は時速100キロだ。


Lilium Jet(Liliumプレスキットより)

搭載されている電動ジェットエンジンは、空気を圧縮し、後部から噴出させ、推進力を得る旅客機のターボファンエンジンと同じ仕組みであるが、圧縮ファンを回す動力がガスタービンではなく電力モーターである点が異なる。

2017年4月に初のテスト飛行を行い見事に成功させた。その様子は動画にて視聴することができる。プロペラがむき出しになっていないスマートなデザインが印象的。動画を見る限りでは、離陸、飛行ともにスムーズだ。


Lilium Jetテスト飛行の様子

ミレニアル世代の創業者たちが「Lilium Jet」で目指す未来とは

Lilium Jetを開発しているLiliumはドイツ・ミュンヘンを拠点とするスタートアップ。創業者は4人いるが、ともに1980年代生まれのミレニアル世代だ。CEOのダニエル・ウィーガンド氏は1985年生まれ。子どもの頃からテクノロジーが好きで、高校生のときにはすでに特許を取得するほど秀でた才能を発揮していた。また、飛ぶことへの憧れも強く、14歳でグライダーを始め、数年でパイロット資格取得している。


Lilium創業者たち、ダニエル・ウィーガンドCEO

ウィーガンドCEOがLilium Jetのコンセプトを思いついたのは2013年。2年後の2015年に4人でLiliumを起業し、2分の1スケールLilium Jetの飛行に成功した。共同創業者たち4人はともにミュンヘン工科大学で研究していた知り合い同士だ。同大学はノーベル賞受賞者を13人輩出したことで知られている。

4人で立ち上げたLiliumは2016年、スカイプの共同創業者ニクラス・ゼンストローム氏が経営するベンチャーキャピタルAtomicoから1000万ユーロ(約13億円)を調達(シリーズA)。その後、テスラで人事を担当していたメギー・セイラー氏やエアバスで航空機デザインを担当していたダーク・ゲブザー氏などを迎えチームの強化を行ってきた。

2017年9月にはシリーズB資金調達ラウンドで9000万ドル(約90億円)を調達。この資金調達ラウンドでは、シリーズAで投資を行ったAtomicoだけでなく、中国IT大手テンセントやリヒテンシュタイン家が運営するプライベートバンクLGTなど多様な顔ぶれが参加した。この資金調達の主な目的は5人乗りのLilium Jetを開発することだ。

Liliumは2019年までに有人飛行テストを行い、2025年までのサービス開始を計画している。サービスのイメージは、Uberのようにスマートフォンで予約をすると指定の離着陸ポイントから乗車できるものだ。

たとえば、ニューヨーク・マンハッタンからジョン・F・ケネディ国際空港までの地上ルートの距離は約26キロで、通常のタクシーサービスを使うと55分かかるが、Lilium Jetを使えば距離は19キロに短縮でき、さらに高速で移動するため約5分で到着できるという。

サービス価格は地上のタクシーを使うと56〜73ドルだが、Lilium Jetの場合は36ドルに抑えることが可能。さらに長期で見ると、Lilium Jetの製造コストが下がってくるため、サービス価格は6ドルほどまで下がる見込みもあるという。


地上タクシーとLilium Jet、マンハッタンとJFK空港間比較(Liliumプレスキットより)

Liliumは「すべてのひとに空飛ぶ乗り物を」というミッションを掲げ、誰もが行きたいところに行ける空飛ぶ乗り物を、いつでも、どこでも使える夢のような世界を実現することに全力を注いでいる。計画通りなら2025年にはそんな未来が到来しているのだ。

空飛ぶタクシーに関しては、シンガポールやドバイなど導入検討を進める国も出てきており、これから規制緩和やルール作りが加速していく見込みである。テンセントが空飛ぶタクシーに興味を持っていることからも、中国での動向も気になるところだ。