「地産地消」から「地捨地産」へ、起業家・クリエイターが貢献するまちづくり「サーキュラー・エコノミー」

「地産地消」ーー地元で産まれたモノを地元で消費することで、地域活性と環境保全に貢献しようとするこのムーブメントは、注目されてからすでに久しく、消費者だけでなくまちづくりに関心のある若い人たちをも巻き込む形で、一つの文化にまで昇華されている。

そんな地産地消の「さらに先を行く」ムーブメントをオランダの首都アムステルダムで見つけた。それが「地捨地産」ーー地元で “捨” てられたモノを地元で再利用し新しいモノを “産” むというもの。しかもそれを主導するのは、地場の起業家・クリエイターたちだ。

例えば、コンビニやスーパー、飲食店で出た「売れ残り」の食べ物や飲み物で、クリエイティブな創作料理をリーズナブルに提供するレストラン、マーケットで出た「廃材」を使って、暖かみのある木製のアクセサリーを制作し販売するセレクトショップなどーー。

もしこの「地捨地産」が既存の「地産地消」と組み合わされば、地元でモノを “産” み〜”消” 費し〜”捨” て〜また ”産” むという「サーキュラー・エコノミー(循環経済)」が完結するはずだ。それは「クリエイターによる画期的なまちづくり」と言い換えてもいいだろう。

今回は、クリエイティブかつディスラプティブな「地捨地産」のアイデアやテクノロジーで、社会の「サーキュラー・エコノミー」シフトを前進させようとする、さまざまな先駆的な取り組みを紹介したい。

売れ残り食材と廃材を救う、2つのプラットフォーム

売れ残りや食べ残しなど、本来食べられるはずの食品が廃棄されることを「食品ロス」という。日本の食品ロスの量は毎年600万トンを超え、食品製造過程で出る廃棄物を合わせた「食品廃棄物」は1700万トンに上るといわれている。日本の食品ロスは、途上国向けの食料援助量の約2倍、また日本のコメ生産量に匹敵する量だ。

一方、米国では年間5000万トン以上、英国1000万トン以上、ドイツ1000万トン以上、フランス2000万トン以上と、食品廃棄・食品ロス問題は、主に先進国と呼ばれる国々で深刻化している。国連食料農業機関(FAO)によれば、世界で生産される食料の「3分の1」に相当する約13億トンが廃棄されているという。

オランダ発「Instock」は、このような食品廃棄・食品ロス問題を「おいしい料理」で解決しようとするスタートアップだ。

Instockは、オランダのスーパー大手「アルバート・ハイン」と提携し、同スーパーでは傷んで売れない野菜やフルーツなどの食品を買い取り、Instockのレストランで調理し客に振る舞っている。

また、Instockはレストランのほかにも、食品ロスとなってしまう食材を活用したプロダクトも開発。食品ロス削減へのインパクトと可能性に、フォーブスなど大手メディアも注目している。


食品廃棄・食品ロス問題にクリエイティブに挑む「Instock」(Instockウェブサイトより)

オランダのアムステルダム、ハーグ、ユトレヒトの3都市に開設されたレストランでは、リーズナブルな価格で「救出」された食材を使った料理が提供されている。

たとえば、朝食・ランチ時間には、フレンチトースト(4.75ユーロ=約600円)、フィッシュ&チップス(7.5ユーロ)、オムレツ(6.5ユーロ)などがあり、ディナーでは3コースメニュー(23.5ユーロ)などを提供している。

このほかにも、じゃがいもでつくったビール「Pieper Bier」やパンで作ったビール「Bammetjes Bier」、醸造所の余った穀物で作ったグラノーラなどユニークなプロダクトを開発・販売している。

じゃがいもビールのPieper Bierを開発したのには、オランダで毎年廃棄されている34万トンものじゃがいもを有効活用しようという狙いがある。

オランダではじゃがいもの需要が高く、よく過剰生産になることが多い。またじゃがいもへのこだわりが強いオランダ人が多く、少し傷んでいるだけでも売れ残る場合があり、食品ロス増につながっているという。じゃがいもの風味を楽しめるユニークなビールとして、また持続可能な取り組みへの貢献として、少しずつ人気が高まっているようだ。


廃棄されるじゃがいもから作られたビール「Pieper Bier」(Instockウェブサイトより)

Instockとは別に見つけたもう一つの地捨地産の取り組みが「MAKERS MARKET」だ。アムステルダム・オウドウエストエリアにある、地元ブランドのアイテムを紹介するセレクトショップ「The Maker Store」が展開するもの。

同ショップが店を構えるテンケートストリートでほぼ毎日開かれているマーケットで出た、木の廃材などを地元クリエイターに提供し、それを使ってクリエイターたちが制作したオリジナルアイテムを、販売している。ただのグッズより購入する地元客の愛着は増すだろう。


木の廃材を使ったアクセサリーなどを販売(撮影:岡徳之)

欧州が目指す「サーキュラー・エコノミー」とは?

欧州ではこのように、持続可能性を意識した取り組みが盛んに実施されている。欧州議会は2025年までに、域内の食品廃棄を30%減らすなど明確な数値目標を掲げているほどだ。

この背景には欧州全体が食品だけでなく自動車製造などに利用される材料の削減・再利用・リサイクルを進め、域内に持続可能で循環する経済圏「サーキュラー・エコノミー」を創出しようとするねらいがある。

2012年12月に欧州委員会が発表した「Manifesto for a Resource Efficient Europe」というドキュメントに「サーキュラー・エコノミーへの移行が必須である」と明確に示されたのだ。

欧州のサーキュラー・エコノミーシフトに影響をおよぼしたのは、英国拠点の「エレン・マッカーサー財団」といわれている。欧州委員会がサーキュラー・エコノミーに言及したドキュメントを発表する約1年前の2012年1月、エレン・マッカーサー財団は「Towords the Circular Economy」というレポートを発表。

マッキンゼーが調査を担当したこのレポートでは、現在の「作って・使って・捨てる」経済モデルが持続不可能であるだけでなく、多大なコストを強いていると指摘し、サーキュラー・エコノミーへの移行、そしてその新しい経済モデルでのビジネスの可能性に言及した。

また、エレン・マッカーサー財団は2015年にもレポートを発表。このレポートでは、サーキュラー・エコノミーに移行することで、欧州は資源の利用効率を年間3%高めることが可能となり、結果として現在に比べ年間1.8兆ユーロ(約234兆円)の経済効果を生み出せると指摘している。これは、国内総生産(GDP)換算で7ポイント増に相当するという。

このレポートでは、サーキュラー・エコノミーの実現にはテクノロジー活用が必要であるとし、ビッグデータ、人工知能、シェアリングテクノロジーに関わるスタートアップなどの役割が重要になると見ている。

サーキュラー・エコノミーを意識したスタートアップは欧州だけでなく、米国でも続々誕生している。データを活用した食品ロス・マネジメントシステムの「LeanPath」、フルーツの新鮮さを持続させるオーガニック保存料を開発した「Epideel」、配車システムを応用した食品余剰者と需要者のマッチングプラットフォーム「Copia」などだ。


食品余剰者・需要者マッチングプラットフォーム「Copia」(Instockウェブサイトより)

サーキュラー・エコノミー実現に向けた取り組みは始まったばかりだが、必然性と可能性が相まって規制と投資環境は今後さらに整備されていくのは間違いないだろう。地球規模の課題に世界のスタートアップがどう立ち向かうのか、サーキュラー・エコノミーはいつ実現するのか、今後の動向に注目していきたい。

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