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つい最近まで自宅の近くで新築工事が行われていた。早朝から仕事にとりかかっていたようで、ある朝目の前を通り過ぎると数人の職人がコーヒーを飲みながら雑談をしている。子どもの時から目にしてきた光景とほとんど変わりがないように感じた。
“古い”と言われる業界でもAIなどテクノロジーを活用した事例を目にする機会も少しずつ増えてきたが、建設業界で広くテクノロジーが普及するのはもう少し先のことかもしれない。工事現場の様子を見て、そう思った。
ただ、どうやら自分が無知なだけで、建築業界にも確実にテクノロジーの波がきているらしい。
課題も残る50兆超えの巨大市場に、国土交通省も本腰
11月半ばに渋谷ヒカリエで開催された、スタートアップ界隈の大型イベント『TechCrunch Tokyo 2017』。イベント内で行われたピッチコンテスト「スタートアップバトル」の決勝戦に進んだ6社のうち2社は、建設業界の課題解決に挑む「Con-Tech(コンテック / Construction Tech の略)」スタートアップだった。
多くの人にとって建設業界といわれても、日常生活からは少し遠い存在かもしれない。ただ国土交通省の発表によると、この業界は近年毎年50兆円以上が動く巨大市場だ。
一方で人材不足や技能労働者の高齢化、過酷な労働環境など課題も多い。人力で対応するには限界が見えているからこそテクノロジーにかかる期待も大きいのだろう。国土交通省でも建設現場へICTなどを導入することで生産性向上を図るプロジェクト「i-Construction(アイ・コンストラクション)」を推進している。
このプロジェクトは全ての建設生産プロセスでICTや3次元データ等を活用し、2025年までに建設現場の生産性を2割向上するという数値目標を掲げたものだ。すでに具体的なロードマップも公表されている。
市場規模が大きくテクノロジーによる効率化のニーズが高いのは、何も日本に限った話ではない。グローバルで見てもこの4、5年で年間のCon-Techスタートアップへの投資件数は倍近くになり、投資金額は約5倍に増えているというデータもある。
Con-Techにはさまざまな分野のプレイヤーが存在するが、今回は「消費者と専門家をつなぐマッチングサービス」「建設現場の職人を支えるwebサービス」「職人とモノをつなぐプラットフォーム」という3つの軸で、日本のCon-Techスタートアップの具体例を紹介していこう。
建設事業者の課題解決に取り組むスタートアップ
1.消費者と「建築の専門家」をつなぐマッチングプラットフォーム
一番身近な例は住宅系のマッチングサービスだろう。「SUVACO(スバコ)」や「リノコ」、「SuMiKa(スミカ)」といったサービスはそれぞれ形は違えど、工務店やリフォーム会社、建築家といった住宅のプロと消費者をマッチングするサービスだ。
通常の買い物に比べて単価が高いこともあり、消費者としては少しでもいい事業者を見つけたいというニーズは大きい。一方で圧倒的なシェアを誇る大手企業もなく、複数のスタートアップが参入している領域だ。
リノコを運営するセカイエ株式会社は2014年にグリーが13億円で子会社化していることからも市場への注目度がわかる。またSuMikaは2013年にタマホームとカヤックが共同で設立した会社で、業界大手もITの活用に力を入れている。
一般的な住宅と同様に、オフィスや店舗を改装したいという法人のニーズもある。「SHELFY」はそのような施主と内装会社を直接つなぐことで、従来よりもスムーズな取引をサポートするサービスだ。
2017年3月に登録内装会社数が300社、4月に利用施主数が1,000社を突破。9月には1億円の資金調達も発表している。
2.建設現場で働く職人を支えるサービス
TechCrunch Tokyo 2017のスタートアップバトルで審査員特別賞を受賞した東京ロケットが運営する「助太刀くん」やハンズシェアが提供する「ツクリンク」は、建設業界の“職人不足”問題に取り組むサービスだ。
人手不足倒産がニュースになるなど、この問題の解決は業界でも急務である。まずは今ある人的リソースを最大限に活かすという意味でも、直接繋がりのない発注者と職人を繋ぐプラットフォームが果たす役割は大きい。
人手不足が問題だからこそ、業務の生産性向上は必須となる。一般的な企業でも生産性向上のためにビジネスチャットやプロジェクト管理ツールなどの普及が進んでいるが、建設業界でも同様のサービスが出てきている。
「ANDPAD(アンドパッド)」「Photoruction(フォトラクション)」「stacc(スタック)」という3つのサービスは、どれも建設業界に特化した業務改善ツールだ。ANDPADでは稼働状況、工程表、現場の写真など一連の情報をクラウド上で一括管理できる。
Photoructionでは建設現場の写真管理を、staccでは現場のコミュニケーションを“アプリ”を介して簡単にすることで、それぞれ業務効率化をサポートする。
3.建設業界の職人とモノをつなぐプラットフォーム
最後にマッチングはマッチングでも、人とモノのマッチングに取り組むサービスも紹介する。東京ロケットと同じくスタートアップバトルでファイナルに進んだ「truss(トラス)」は、断熱材や窓、屋根材といった多様な“建材”をweb上で検索、比較できるサービス。
従来は分厚い紙のカタログの中から建材をリストアップしていたが、その負担を軽減しより優れた建材を探しやすくしたのが特徴だ。
「ALLSTOCKER(オールストッカー)」は“建機”に特化したマーケットプレイス。建機はなかなか馴染みのない領域かも知れないが、今の時代インターネットを介して物を売買することはもはや当たり前。他の業種と同じように建機の流通をさらに効率化しようとチャレンジする事業者がいても不思議ではないだろう。
ここまで3つの軸で国内のCon-Techスタートアップを紹介してきた。ただ最近では建設業界の大手企業がスタートアップと組み、最先端の取り組みを始める事例も増えるなど、より大きな動きもでてきている。
竹中工務店やコマツも進める、AIを活用した建設革命
大手ゼネコンの竹中工務店は11月にAIスタートアップの「HEROZ(ヒーローズ)」と手を組んで、構造設計AIシステムの開発を始めた。
数百件に及ぶノウハウをAIで解析・モデル化することで、すべての構造設計担当者が先人の知恵を活用できるようにするのがこのシステムの目的だ。2020年までには自動設計やシミュレーションの自動化により、ルーチン作業の70%削減を目指しているという。
兼ねてからITを積極的に取り入れてきた建機メーカーのコマツも、10月にドコモなどと共同で新会社・株式会社ランドログを設立。建設IoTプラットフォーム「LANDLOG」の開発を進める。12月には建設現場におけるAIの導入でNVIDIAと協業も結んだ。
市場規模が巨大な一方でアナログな部分も多く課題が残る建設業界。スタートアップの登場に加え、業界の大手企業がテクノロジーの導入を本格化することでCon-Techへの注目度は今後さらに高まっていきそうだ。
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